第十六話 文官採用

 エルウィン家の新しい家臣を雇います。


 応募条件、健康な一五歳以上、読み、書き、簡単な計算ができる者。


 仕事内容、帳簿付け及び糧食管理、徴税業務等あり。


 雇用条件、月に帝国大銀貨五枚。休暇については応相談


 応募資格を満たす者ならば人種問わず。一応、採用試験あります。


 ※但し鬼人族のみ応募資格失格者とする!


 農村の視察を終えた俺は領内に応募条件を書いたお触れを出すことにした。このお触れについては昨晩、先んず当主であるマリーダの許可を得ている。もちろん、肉体的交渉術を存分に発揮させてもらい許可を得たことは言うまでもない。


 おかげで腰が少し痛むので、すやすやと眠っているマリーダの隣でイレーナとリシェールに腰を揉んでもらっている。


「それにしても、アルベルト様がお出しになるお触れでは鬼人族の方は家臣として採用してもらえないということでしょうか?」


 腰を揉むイレーナとリシェールのお尻のやわらかさを手で堪能しながら、イレーナの問いに答える。


「鬼人族は最初から応募NGにしておいた。これは差別ではなく区別である。戦闘種族を文官に採用するほどの酔狂さを、私は持ち合わせていないからね」


「あ、なるほど。今回は文官としてのエルウィン家の家臣の募集でしたね。鬼人族の方は戦闘では無類の強さを発揮されますが、管理運営となると……」


 イレーナがなにやら口ごもっているが、脳筋に領地運営ができないのは、周知の事実であるため、口ごもる必要もない。


 最初からこうして文官を募集しキチンと管理運営をすれば、あのような帳簿の惨劇や村長たちの租税ちょろまかしなどは発生しないのだ。


「ですが、読み、書きまではできそうな人は結構いると思うけど、計算って結構できる人いなそうですよ。あたしもできませんし。字は最近イレーナちゃんに教えてもらっていますが」


 腰を揉む代わりにお尻を揉まれているリシェールが、応募者が少なくなるのではとの懸念を口にしていた。


「そうだな。だから俸給も一般の商家より高めに設定してある。城下の街は交易商人たちが行き交っているからな。計算できる奴はそれなりにいると見ている。それに農村の村長連中にも三男以下で有望な奴がいるなら、城勤めさせろと勧誘するつもりでもいるからね。試験にはそれなりに集まると思うぞ」


「村長さんたちの三男以下ですか。あー、分かりました。文官として扱き使いつつ態のいい人質ですね。さすがアルベルト様、極悪な人の使い方ですね」


 リシェールが持ち前の勘の良さを発揮して、俺の意図するところを口に出していた。


 一介の町娘として育ってきたリシェールだが、学はあまりないのだが、想像力だけは逞しいようで、断片的な情報だけで推測を組み立て、それがかなり的を得ていることが多い子であった。


 マリーダ付きの筆頭女官として野生児の調教師をしてもらっているが、わりと策謀家としても有能さを発揮するのではと思えてしまう。


「リシェール。それは内緒の話だ。ここだけにしておくようにな。イレーナも今の話は内密に頼む」


「は、はい。そのような裏の事情も含んでおられるお触れなのですね」


「リシェールにはバレてしまったが、そういうことだ。今回の文官募集のお触れは領内の不穏分子でもある村長たちから態のいい人質を狩り集める意図もある。もちろん、有能な奴は出世の道を用意してやるつもりだ。ただ、戦闘系は鬼人族のポストだから、管理運営という新規ポストでの出世だけどね」


「なるほど……。今まで全くなかった部署であれば、鬼人族の方とポスト争いで抗争になることもないですしね。さすが、アルベルト様です」


 今のところエルウィン家での管理運営ポストは俺とミレビスとイレーナしかいない。それ以外は皆、いくさしかできない戦闘種族しかいないのだ。


 そんな偏った家臣団をまともにするために文官採用の試験のお触れを出すのだ。


「そういうことさ。さて、明日からは布告の準備とか村長たちへの根回しとか忙しくなるから、今日はもう寝ようか」


「あら、駄目ですよ。マリーダ様だけ可愛がって、あたしやイレーナちゃんを可愛がらずに眠られるなんて」


 腰を揉んでいたリシェールが体を寄せて耳元でおねだりをしてくる。柔らかな胸が背中に当たる。


「リシェールお姉様……私はそのようなことは……。あっ! アルベルト様!?」


 とりあえず、おねだりされたので、二人の可愛い愛人たちにも肉体的交渉術を発揮して満足してもらうことにした。


 そして、二週間の時が流れ今日は応募してきた者の採用試験日だ。

 

 領内の一五歳以上で、読み書き、計算できる鬼人族以外の者たちが五〇名ほど応募してきている。


 商家で奉公人をしていた者もそれなりにいたが、俺が村長たちを回って勧誘したため、村長一族の三男以下の男子も多数応募していた。


 エルウィン領の農村は比較的裕福な農村が多いのと、自治に力を入れてるため、子の教育に熱心だったこともあり、識字率はもちろんのこと、数字にも強い、一応武芸のたしなみもある者いた。


 ただ、戦闘種族鬼人族に比べれば子供のお遊戯程度だが、城を守備することくらいはできそうなやつもチラホラと見受けられた。


 三男以下としたのは、次男までは村長が家を継がせるストックとして残すだろうと見越してのことである。


 三男以下となれば、かなり裕福な村長家でない限り新規の開拓村を与えられることなく、部屋住みで一生を終える可能性がある者たちであるのだ。


 人質としてはわりと重要度は低いと思われるが、エルウィン家で出世をした時は自分の実家への影響力を行使できる存在になる。


 そんな算段もしつつ、応募者に行う予定の採用試験は、俺が作った読み書き計算テストを八〇点以上で合格した者を面接することにしてあった。


 即戦力が欲しいのだ。帳簿を作成の死の行進デスマーチ中のミレビスが泣きを入れてきた。とにかく、字が読めて、書けて、計算できる奴をくれと泣きついてきているのだ。


 俺としても嫁と嫁の愛人とイチャイチャできる時間が欲しい。


 そんな思いが溢れ出し、後で面接を受けた者に聞いたら、眼がランランと滾っていて怖かったと言われた。


 むぅ、そんな気は無かったが。怖がらせたらすまんかった。それも、これもエルウィン家の脳筋たちが領地運営を放置したのが悪いんだ。


 採用者は三五名。全員が人族だった。俸給は市井の雇い人よりも高めに設定したので、かなり質の良い者たちが応募していた。

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