第三話 帰参への道
はぁ、腰がガクガクだぜ。マリーダもリシェールも頑張り過ぎ。
マリーダの家臣たちが行ってくれた酒宴もたけなわになったところで、二人を連れて別室に移り、夜のお仕事をしたのだが、鬼人族であるマリーダの体力は素晴らしく、その情婦であるリシェールも積極的であったため、結局昨夜も寝ずに過ごしてしまった。
俺も若いから何とかなったけども毎夜徹夜はちと辛い。これは、栄養剤とか必要かもしれん。
強張った身体を大きく伸ばしながら、ベランダに出て朝靄の広がる外の空気を吸う。
鮮血鬼マリーダの婿候補となったのはいいものの、彼女をエランシア帝国で押し上げるための方策を実行するための報告待ちをしているが、昨日到着予定の使者がまだ戻って来ていないのだ。
帰参願いを書いた書状を魔王に取り次いでもらうため、辺境伯をしているマリーダの義兄に当たるステファン殿に使者を出しているが、魔王陛下との交渉が難航しているかもしれない。
まずは魔王陛下の勅令をもらって、元の女男爵に据えてもらわないとな。
魔王陛下のお気に入り貴族だったとはいえ、上級貴族の婚約者を半殺しにしたマリーダが復帰するには周辺の国境領主の首が数個は必要だと目算している。
エランシア帝国は亜人が支配する国家で、周囲を人族国家に囲まれ常に戦を抱えているのだ。
俺がいた叡智の神殿のあるアレクサ王国も交戦国の一つである。
なので、エランシア帝国とアレクサ王国国境地帯の領主たちは、その時々で旗色の優勢の方につくため、両国から厄介者扱いされている者も多い。
その中でも戦闘のどさくさに紛れ、他領の略奪や人狩りを行い、私腹を肥やす領主もいる。
神殿で修業を行っている際も、そういった悪徳領主の話がチラホラと耳に届いていたのだ。その中で兵力微弱な者を三名ほどリストアップしておいた。
あとは、マリーダたちの腕を測るだけだが……。まぁ、泣く子も黙る『エルウィン傭兵団』であるし、神殿を守る神殿戦士たちを駆逐するほどの腕前だから、農民兵程度では太刀打ちできなそうだがな。
マリーダからこの街で逗留中にエルウィン傭兵団の詳細も聞き出せている。
傭兵団は一〇〇名程度、皆、エルウィン家に仕えていた家臣たちで、腕前は熟練者ばかり、そして婚約者を半殺しにして放逐されたマリーダに付き従う忠誠心がおかしい変態野郎どもだ。
皆が一騎当千の戦士であるとマリーダが言っていた。
彼女自身も鍛えられた身体を持つ、生粋の戦士である。ただし、ベッドの中ではカワイイのである。
戦闘に熟達した脳筋戦士団一〇〇名。それがマリーダの全戦力だった。
ピックアップした国境地帯のクズ領主なら潰してもどちらの国からも恨みは買うまい。むしろ、両国から感謝されるだろうな。
現状はマリーダがエランシア帝国の貴族だと知って潰せそうな近隣クズ領主のリストアップし、アレクサ方面の辺境伯をしているステファンに国境領主数個の首と領地を手柄に帰参を願い出て返事待ちしているのだ。
朝靄の拡がるベランダで待ちの望んでいた使者が帰還したのを見つけ出した。
「さて、これで忙しくなるぞ」
俺はベッドで寝入ったばかりのマリーダとリシェールを揺り起こすと、身支度を整えて階下に降りていった。
使者が持ち帰った書状の内容に目を通していく。本来は頭領であるマリーダが読むべき書状だが、開封せずに俺に渡されたため、一番最初に読んでいるのだ。
『オッケー、お前らの言いたいことは理解した。魔王様には義妹マリーダが、詫び状の代わりにちぃと国境領主三人くらいシメてくるわって言ってるから、手伝っていいよね? って聞いたら、オッケー出たぜ』
義兄殿からの書状を要約したら、こんな内容だろう。
字は転生してから孤児院や神殿で必死に勉強して読めるし、書けるようになっている。
これでもセカンドライフを快適に暮らそうと努力していたんだぜ。
でもまぁ、勉強頑張ったら肉食系のおっぱいお姉さんに誘拐されて、いつの間にか軍師の真似事をする羽目になっていたがな。
これはこれで悪くないセカンドライフだと思える。なにせ、夜のお仕事も頑張れるし、嫁公認で綺麗な美女をいっぱい囲うこともできそうなのだから、おかげで腰が休まる暇がない。って下世話な話はさておき。
帝国軍と渡りをつけることに成功したから、国境領主を討伐することにした。
書状を読み終えると、昨夜の酒宴で酔い潰れていた傭兵団の兵たちの整列が終わっている。
酒を浴びるように飲んでいたが、いざ戦闘準備とマリーダが号令をかけると、ものの数分で衣服を整えて整列を終えていた。
「帝国軍との交渉は成功しました。これより、エレンシアとアレクサの国境地帯にあるズラ、サイザン、べニアの三領主を討ち取り、その首と領地を持ってマリーダ様のエレンシア帝国への帰参を達成することにします」
整列した傭兵団の男たちはすでに戦闘モードに入っており、いくさになると言っても声一つ上がらず、顔色を変える者もいなかった。
「ズラ、ザイザン、べニアの領主は国境の領主であることをいいことに、戦争のどさくさに紛れ、周辺から略奪したり、人狩りを行ったそうじゃな。もちろん、領内も重税を科すというおまけ付きの悪徳領主と聞いておる。それに両国の軍が近づくとすぐに降伏して旗幟を変える輩じゃからな」
マリーダも傭兵団の頭領として国境領主たちに雇われていることもあり、その辺の事情にはある程度の知見を持ち合わせていた。
「そうです。だから魔王陛下は帝国軍を率いてこれらの領主を討つことはできない。なぜなら、討てば国境領主たちが雪崩を打って敵側に回るからです。ですが、マリーダ様は在野の傭兵団の首領にすぎません。野盗といっても過言ではない傭兵団に襲われ領主軍が壊滅すれば、空白城を魔王軍が接収しても誰も文句は言わないはずです。領主の首三つと城三つを手土産なら魔王陛下も他の貴族を納得させられるでしょう」
「うむ、あの程度の領主なら我が傭兵団の敵ではないな。その程度で妾の帰参が許されるなら、早速取りかかろうぞ」
「素晴らしい策戦だ。さすが、アルベルト殿だ。野郎ども姫様がエランシア帝国に帰参の目処が立ったそうだ。とっとと、そのクズ領主を潰すぞ」
「「「「おうぅ!!!」」」」
それまで黙って俺の話を神妙な顔で聞いていた家臣たちであったが、マリーダが国境領主壊滅作戦を開始することを伝えると一気に熱気を帯びた鬨の声を上げていた。
絶対に戦えるのが嬉しいだけだろ。お前ら……。これだから、脳筋は……。
マリーダの下知が下ると、家臣たちはアジトの街を引き払う準備をすぐに始め、一路国境地帯の目的の領地へ向けて行軍を始めていた。
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