第二話 情婦と嫁が付いてくる生活
―数日後―
俺たちはアレクサ王国軍の追手を撒くためアジトとしている街で逗留を続けていた。
隣では、ベッドでニコニコ顔のマリーダ。この数日は帰参への下準備をしつつ、夜のお相手もしていたので、マリーダの肌艶がテカテカしている。
ちょっと頑張り過ぎて腰をやらかしかねる事態もあったが、転生して一五年目の若い身体はまだまだ頑張れそうである。
この数日で俺の傭兵団での身分は、頭領付き情夫兼参謀という珍妙な役柄を割り振られているが、名が体を表しているため抗弁できずにいた。
そして、反対側には俺より少し年上のくらいの黒髪ショートなナイスバディなお姉さんが佇んでいる。彼女の名はリシェール。アレクサ王国の民であったが、マリーダの傭兵団がこの地をアジトにした時に街への乱暴狼藉を回避するため奴隷として差し出された女の子だ。
両親は他界。親類縁者もないリシェールを生贄にして、マリーダたちの毒牙から街を守ろうとしたことに対しては異世界事情を知っている今となってはなんら痛痒を感じずにいる。
俺がセカンドライフを生きている世界は、現代日本とは違い、力こそが全てを決する世界で、国家による統治も決めたルールも法律も、皆にそれを守らせるには力が必要な世界なのだ。
力があれば何でもできる世界。財力、権力、軍事力、ありとあらゆる力を持つ者が全てのルールを決める世界。それがこのワースルーン大陸の不文律なのである。
そんな世界で力を持たなかったリシェールが奴隷として差し出されることは致し方ないことであった。
とはいえ、リシェールはマリーダにかなり気に入られており、身辺を世話する女官として常に傍に近侍している女性であった。
そう、常にマリーダに近侍しているのである。重要なので二回言った。
「マリーダ様、アルベルト様、ご起床のお時間かと思われます」
マリーダに負けず劣らずのボリュームを誇るリシェールの胸が俺の肌に触れてくる。マリーダとは打って変わって色白なリシェールの肌は吸い付くような肌理の細やかさでいつまでも触れていたい気持ちにさせてくれる肌であった。
「リシェール。妾はアルベルトともうひと戦したいのじゃ。負けっぱなしは嫌じゃ。妾はアルベルトに勝ちたい」
「お言葉ですが、今のマリーダ様とあたしではアルベルト様に勝てる気がしませぬが……」
二人の美女が俺の両サイドを挟んでもうひと戦する算段をしているのが聞こえる。
実はリシェールも一緒になって夜のお相手をしてもらっていたのだ。
マリーダ付きの女官ということで最初に紹介されたリシェールであったが、本当はマリーダの情婦であった。つまり、マリーダは男も女もいける口なのである。
俺が来る前から情婦としてマリーダの夜のお世話をしていたリシェールが、このアジトの街に戻ってきたマリーダのお相手をするのは当然であったらしく、その二人の間に俺が入り込む形となり、二人とも満足させることに成功したというのが現在の状況である。
「二人とも頑張り過ぎだから……。このくらいにしておきましょう。リシェール、マリーダ様。もう起きますよ」
身体にかけられていたシーツを剥ぎ取ると、全裸の美女たちのたわわな果実が四つ、目に飛び込んでくる。
う~ん。これは眼福。眼福。案外、こっちの方がいい暮らしできるかもしれないなぁ。
マリーダは男女ともに面食いであるようで、しかも情夫である俺が他の情婦を抱いても嫉妬することなく、むしろ積極的に加わってくるという性格の持ち主であるのだ。
彼女の好みに男女の区別はないようで、自分が好きと感じた者同士なら嫉妬心は起きないようである。
そんなマリーダの性格のおかげで、リシェールの女性らしい柔らかな身体も堪能することができていたのだ。
最高かっ! って思わずガッツポーズしたのは内緒にしておく。神官になって給金がもらえるようになったら女奴隷の一人でも買おうかとおもっていたが、この分だとその必要はなさそうだ。
シーツを剥ぎ取られた全裸美女二人はもうひと戦を諦めたようで、二人で一緒に俺の身支度を始めていた。
「アルベルトはえっちい男なのじゃ。リシェールまでコマして、妾にも身支度までさせるとはな。妾がここまでするのはアルベルトだけじゃぞ」
このアジトの街に着て以来、マリーダが何かと俺の身の回りの世話をしたいと申し出ていた。
普通だと情夫の俺がマリーダの身の回りの世話をするべきところだが、本人がどうしてもやりたいというのでリシェールとともにお世話してもらっている。
「あたしはマリーダ様の意を汲んでアルベルト様の身支度を先に済ませた方が良いと思った次第ですよ。それにコマされてとは……。あたしはマリーダ様一途です」
「そうかのー。アルベルトに相当啼かされておった気がするがのー」
「それを言うならばマリーダ様こそ、アルベルト様に挑んでは完膚なきまでに叩きのめされていたようですが。あたしの記憶違いでしたでしょうか?」
「あ、あれはアルベルトが!」
二人が昨夜からの夜のお話をしてニコニコしているが、日がすでに真ん中近くまで上がっている時刻にしゃべる話題ではないので、咳払いをすることにした。
「ゲフン、ゲフン。あー、そういった話は夜にまたしましょう。今は身支度を整えて、朝食を取らないと」
「ふむ、アルベルトがそういうのであれば、仕方あるまい。リシェール、最速で身支度を整えるのじゃ」
「はい。準備は終えております」
俺の咳ばらいを聞いたリシェールはすでに準備を終え動き始めていた。
身支度を終え、朝食を食べに階下の酒場へと足を運ぶ。この街で一番デカイ酒場を傭兵団が貸し切りにして潜伏をしているのだ。傭兵団の構成員はすべてエルウィン家の家臣であり、鬼人族の連中であるため目立つのだが、街の入り口には常に交代で見張りを立てているため、アレクサ王国軍の偵察部隊が来たら一目散に逃げる準備はできている。
まぁ、偵察部隊程度なら戦っても余裕で勝てるとマリーダは言うが、援軍を引き込まれては多勢に無勢となるため、戦わず逃げだすことを徹底して頼んである。
「おや、マリーダ様とアルベルト殿が降りて来られたようだ。昨日もお楽しみだったようですなぁ。リシェールちゃんも混ざってドッタンバッタンして羨ましい限り」
壮年の鬼人族の男が階段を降りてきた俺たちを見つけて、ニヤニヤと笑っている。
「あー、聞こえてましたかー。すみませんねー。マリーダ様が私を放してくれなくてねー。そうそう、リシェールもわりと夜は肉食系って知ってます?」
俺がとぼけた返答を男に返すと、酒場にたむろっていた鬼人族の男達からドッと笑い声が上がる。
「アルベルト殿らしい返答だ。普通の優男がそんな返答をしてたら即ぶっ殺すんだが、なんせアルベルト殿は性欲モンスターって呼ばれるうちの姫さんを手なずけた人だからな。男としては尊敬するよっ!」
壮年の鬼人族の男がグッと親指を立てて笑っている。
マリーダはエルウィン家の令嬢で魔王陛下の乳兄妹であるが、蝶よ花よと大切に育てられた令嬢ではなく、常にこのむさいおっさん家臣団と親父さんに連れられて戦場で育った子であった。
寝物語に聞いた話では、遊び道具は身の丈ほどの大剣であり、遊び相手は泣く子も黙ると言われた鬼人族のいくさ人。戦場を駆け、野外で寝起きしながら血を浴びて育ったといって過言ではないマリーダであるのだ。
そんな野生児みたいなマリーダを魔王陛下もいたく可愛がっているらしい。もちろん、女としてではなく一武人としてらしいが。
「皆、妾のことを馬鹿にしておるのか。いや、確かにアルベルトはえっちい男だが、妾たちとは違って頭が切れる男でもあるんじゃぞ」
「へいへい。ご馳走様です。あの鮮血鬼と呼ばれた姫さんが男にベタ惚れとはねぇ。世の中、どう転ぶか、わかんねぇな」
壮年の鬼人族の男がガハハと大声で笑うと、酒場にいた男たちも釣られるように笑い声を上げている。
そこに侮蔑の色はない。エルウィン家の家臣たちは、幼少より一緒に過ごしてきた親戚の女の子の惚気話を聞いて微笑ましさを感じている笑い声に感じられた。
マリーダは家臣からも好かれているみたいだな。『エルウィン傭兵団』の結束の固さは異常だと世間に流布されているが、マリーダ本人の持つ人間的な魅力に惹かれて築かれた結束なのかも知れない。
「そうだっ! こたびの策が成功したら、アルベルト殿は姫の入り婿になると聞いておるのだが、それは本当か?」
「ああ、マリーダ様の婿にしてもらう条件でこたびの策を立てているんでね。いくさ人と言われる鬼人族の入り婿としてはいささか貧弱だと思うが受け入れてもらえるとありがたい」
「なんじゃ? 皆はアルベルトの婿入りに反対のか?」
男の言葉を聞いたマリーダが反対されたのかと思い、俺の前に出て家臣たちの前に立ちはだかっていた。
その様子を見ていた男たちがクククと含み笑いを始める。
そして、笑いを堪えるとおもむろに酒を入れた酒杯を取り出していた。
「そうか、よくぞ決心しましたな! ならば、夫婦の契りを祝う酒宴の用意をいたさねば。皆、酒を持て、新たに我らが姫と婚約し血族になったをアルベルト殿を祝おうぞ!! ウェーイっ!!!」
「「「おお! 新たな血族の誕生を酒を以って祝おうぞ!! ウェーイっ!!!」」」
酒場に集っていたマリーダ配下の脳筋戦士たちが、酒杯とともに鬨の声を上げていた。ノリが体育会系すぎる。
現代日本においての学生生活は文化系だった俺には暑苦しいが、これはこれで意外と受け入れてもらえている気がして嬉しい気持ちが湧き上がってくる。
「皆、意地悪なのじゃ! 妾のことを馬鹿にしおってー。むきーっ!」
「マリーダ様、酒杯をアルベルト様に渡さなくて良いのですか? あたしがお渡ししてしまいますよ」
リシェールがそっとマリーダに酒杯を差し出しているのが見えた。
「ダメなのじゃ。アルベルトに酒杯を渡すのは妾がやるっ!」
カウンターに座った俺に、マリーダがそっと身体寄せて、お酌をしてくれる。いつも通り今日も露出度は高めの煽情的な衣装を着ており、毎度のことながら目のやり場に困ってしまう身体をしていた。
そんなお色気あふれる野生児のマリーダだが、脳筋戦士たちの中で育った彼女には、頭脳派の俺が新鮮に映るらしい。
期待に応えるためにも、俺は嫁となったマリーダとともに、なんとしても帝国の中で出世させていい暮らしをさせてやりたい。
そのためには実行中の策が上手く運ぶことが大前提となるのだ。
「マリーダ様の期待に応えられるよう全力で脳みそを振り絞ることにしましょう」
「期待しておるぞ。旦那様、それともご主人様がいいか? 妾の呼び方はアルベルトの好きな方でいいぞ」
はにかんだように笑ったマリーダの魅力的な笑顔に、思わずご馳走様でしたと言い出しそうになる。
「マ、マリーダ様で大丈夫。私のことは今までどおりアルベルトと呼んでもらって構わないですよ?」
嫁となったマリーダの不意打ちの笑顔に、気恥ずかしさと、嬉しさと、気持ち良さがごちゃまぜになり、頭がオーバーヒートしそうになった。
「そ、そうか。アルベルトがそういうのであれば……」
俺の腕にしがみついて顔火照らせるマリーダは最高に可愛かった。
「早速の睦まじさ。見ているこちらが恥ずかしさで悶絶しそうですぞっ!」
大皿に注いだ酒を浴びるように飲んでいた鬼人族の男たちが、俺とマリーダの仲を見て眼を潤ませる。
ちょっと面倒臭い体育会系のノリをしたいくさ人たちではあるが、味方と思えば彼らほど頼もしい存在はないと思われる。
マリーダの実家への帰参のためには、多くの苦難に合うだろうが、それも嫁との充実したセカンドライフ生活を送るためと思えば頑張れた。
「マリーダ様の出処進退は私にお任せください」
「おお、妾の立身出世はアルベルトの采配に任せる。妾はただ剣を振るうだけしかできぬからな」
明らかに脳筋宣言をしたマリーダだったが、下手に知恵が回って口をだされるよりは、任せてもらえた方が自由にやれてよいと思うことにした。
俺はリシェールの差し出した皮を剥いた果物を一切れ頬張ると、マリーダが注いでくれた酒杯を一気に飲み干していく。
これからが本当の俺のセカンドライフ計画の発動だ。
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