第6話 烏間奏澄
御鏡学園、空き教室。
窓の外は真っ暗と言っても差し支え無い程には暗い。
こんな時間までこの空き教室に居た事も、学校に居た事も無かった。
今日が初めてだ。
しかもどうやら最終下校時刻は既に終わっている。
つまり今この学校に居る可能性があるのは残業で残っている先生か、見回りの先生か、さっき私を襲った先輩という事になる。
雨は降り続けている。
その上、雷も。
正直私は苦手だ。
唐突に空を割る光と、間近で響く大きな雷鳴は私が動けなくなるには充分だ。
そしてそれを私は今一緒に居る委員長に気付かれたくない。
つい、無言になる。
「…………」
委員長が窓の外を見ようとして、叩き付ける様な雨のせいで外が見れない事に気付く。
「雨、止まないかしら」
「天気予報では今夜はずっと雨が振り続けるらしいです」
そんな……
そう聞こえた気がした。
私は昼間の天気予報しか見ていないが、今朝の予報は違ったのだろうか。
さっきの反応から大体察しは付くが一応聞いておく。
「傘、持ってきましたか」
「忘れた」
「タクシー呼びますが、そこまで相合傘しますか」
「いいの?
ありがと!」
「…………」
一緒に帰る予定だったとはいえ、雨足は強い。
何もびしょ濡れの状態でタクシーに乗りたい訳では無いのだ。
私も、彼女も。
スマホの充電が無くならない内にタクシーを呼ぶ。
時間は経過してるが、襲われた事を忘れてはならない。
無事に帰れるとは思えない。
……が、どうやら向こうは向こうで忙しそうだからこっちに来る事は無い、だろう。
何故って、
時間が分からない。
雨のせいか窓の外の視界と音も良くない。
それでも帰らなければ体調を崩すだろう。
そう思い始めた頃、タクシーが到着したと連絡が入った。
見回りの先生と先輩を警戒しながら私達は暗い空き教室を出て、廊下を歩く。
激しい雨音は私達の声もかき消しそうな勢いだった。
それでも不思議と、私達の会話は成立していた。
「それにしても、時間の感覚を忘れそうになるわね」
「もう遅い時間なのは分かってるのですから、時計は見ない方が良いと思います」
「あ、唯
「別に大丈夫です
寧ろ、貴女は大丈夫なのですか」
「私も大丈夫よ
遅くなるって先に連絡入れたもの
それより唯、私の事はそろそろ名前で呼んでよ」
「…………忘れました」
「予想はしてたけど、覚えられてないって結構辛いわね」
「ごめんなさい」
「いいわよ
じゃあ改めて、私は
今度は覚えて欲しいな」
「はい、なるべく頑張ります
烏間さん」
「唯、私の事は奏澄って呼んで」
「では、よろしくお願いします
奏澄」
運が良かったのか、見逃してくれたのか……。
どちらにも見付かる事無く、気が付いたら下駄箱の前に着いていた。
激しい雨の中、校門前には既にタクシーが待っていた。
私達は急いで昇降口で傘を開き、タクシーに乗り込み、帰宅した。
ただし、奏澄の家では無くどうやら私の家に。
一人暮らしの、私の家に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます