第5話化物※
※流血表現有り
「唯っ!!」
呼び声を合図に、持っていた
自分の意思に反して。
「んぐっ」
シュッ
彼女の小さな悲鳴と共に、首に届く筈だった刃は、スレスレを掠り皮だけを切り、それから最も近い手首に刃を走らせた。
彼女の制服の袖口が裂け、一瞬だけ勢い良く血が飛び出た。
そのまま彼女は誰かに腕を引かれて、下駄箱から強引に離された。
下駄箱の前で唯に凶器を振るった青年は虚ろなままの瞳で外に出る。
そして、雨で身体が濡れるのもお構い無しに先程からずっと倒れている人間を横抱きで持ち上げる。
勿論、雨で濡れてしまっていて水分を含み過ぎて重くなってしまっている。
青年の向かう先は、青年を操る者の元。
御鏡学園高等部、生徒会室。
電気は消されており、雨の強く降る窓から外を眺めている人影があった。
青年を操っていたのは、青年を襲った化物だった。
人の形に近い形をしてる為、人間の社会に紛れて暮らしている存在だ。
そして政府に所属する者との取引によって比較的穏やかに過ごしている存在でもある。
種族名は吸血鬼。
男女の双子である。
「少し遅かったわね」
拗ねた様な声音と共に青年に近付く影。
ピクッ
声に反応して無意識に青年の肩が僅かに跳ねる。
背後から青年に絡む白く冷たい腕。
さらりと青年の肩に掛かる金の髪。
艶めかしく青年に付けた首筋の傷痕を見つめる翠の瞳。
優しげに微笑みかける薄い唇。
そう名乗っていた。
「役目はちゃんと果たして貰ったのだもの、貴方にかけたものを解いてあげなきゃね」
そう言って指を鳴らした。
パチンッ
瞬間、青年の意識が浮上し、身体が自由になった。
ハッ
腕の中に居る人影に戸惑いを見せた後直ぐにエマの絡んでいた腕を振り払う様に後ろに振り返って睨み付ける。
操られていた間のことを全て覚えていたせいでもあった。
「四宮っ!」
「あら、本当に今までの事を覚えてるのね
本当、貴方って不思議ね」
青年の日常が壊れたのは唐突だったと言ってもおかしくは無かった。
確かにいつもと変わらぬ日常を過ごしていた。
ただ、選ばれてしまっただけだった。
人類にとっては都合が良く、それでいて替えの効かない特別――――化け物への捧げ物や生贄に該当する物に。
これは最早、不運としか言い様が無い。
「彼女をどうするつもりだ」
青年はエマの言葉には応えなかった。
代わりに自らの腕の中で意識を失っている存在を気にかける。
「あら、気になるの?」
今までは青年の血を求めてきていた吸血鬼が何故か青年を操ってまで連れてきた相手。
彼女に何を求める気なのか、青年からすれば心当たりが有りすぎて怖いくらいだった。
青年の問いにエマは不気味に微笑む。
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