第4.5話 影 ver.if※
※微ホラー、流血表現有り
廊下に赤い斑点が見えた。
ソレが血であることは明らかだった。
名も知らぬ目撃者に傷を作り、血を流させたのは青年だったから。
微かに道を示す様に血の香りが漂う。
青年は誰かを傷付けたという事を自覚しつつ、自由を奪われている。
自らの意思に反して、勝手に身体が動いてしまうことに逆らえないまま、血の跡を追いかけた。
強く窓を叩きつける雨。
この音と勢いで青年の存在は殆ど隠されるだろう。
その状況下で血の跡を追いかけるとは、下を向き続ける事になる。
青年にも勿論、殆ど雨音以外の周囲の音なんて聴こえてはいない。
だから青年のぼんやりした視界に誰かの足が映り込むとは思っていなかった。
そもそも足音がしなかった事に気付きもしないまま、青年は顔を見ようと視線を上に向けた。
目撃者がそこにいた。
堂々と目の前に立っていた。
青年は内心馬鹿なのかと思いながらも、やはり勝手に動き出す身体に逆らえぬまま
ふふっ
窓を叩き付ける雨音が煩い中、やけにハッキリと聴こえた彼女の挑発的な笑い声。
過去、本人の知らぬ間、知らぬ所で吸血鬼と言う化物への生贄として捧げ物にされ襲われてしまった不幸な青年の名は
海斗の身体的変化は既に始まっていた。
徐々にではあるが、確実に人間では無くなっていた。
だが残念な事に今の海斗にはそれを不思議に思える時間も考えて自覚出来るだけの余裕や余地は無かった。
自由が利かないどころか思考も纏まらない内に、自分に背を向け走り続ける彼女を追い掛け続ける。
とうとう、行き止まりまで追い詰めた。
雷も時々鳴っていると言うのにも関わらず、前方からは先程からずっと笑い声が聞こえていた。
あははははははははっ!!
彼女の声に向けて、ずっと持っていたカッターを振り下ろす。
今度は確実に。
ガキンッ
感触はあった。
ただし、硬い物にぶつかった様な感触が。
カッターは彼女の心臓でも頸動脈でも無くて軽く、それでいて固い器械の様な……
そう、例えば今目の前にある携帯電話の様な物を壊した感触があった。
壊れたであろう携帯電話は捨て置いて、さっきまで目の前に居た筈の彼女を探す為に振り返る。
ジジッ――――またね、唯
ガシャンッと、背後で今度は確かに落ちた携帯電話はノイズ混じりに一言、言葉を残して完全に壊れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます