第3話通り魔殺人鬼※

※流血表現有り




 ノックしてから、職員室の扉を開ける。

 失礼は承知だが、無言で。

 手伝わなかったのはだが、待たされているのも彼女が頼み事をしてきたのも事実なので遠慮はしない。

 名前を聞きそびれてはいるが、彼女が此所職員室に居れば…………あれ、居ない。

 辺りを見渡しても居ない彼女を探して私は思わず入口で硬直する。


「ん?

 どうした、転校生上代ちゃん

 職員室に用か?」


 頭の上から聞こえたのもあって、ぐいっと声の方を向くと白衣を着た保健医が居た。

 残念ながら、名前は知らない。

 保健医は、私が多少無理な体勢で首を曲げていた事に気付いたのか、苦笑いを浮かべて「悪い」、と数歩後ずさって私を後ろから見ていた。

 首を戻し、私は職員室の扉を閉めて廊下に出た。

 そして、ようやく振り返る事が出来た。



「クラスの委員長を探してまして

 入れ違いになった可能性もあるので教室に戻ろうかと思っていたのですが、先生は彼女の行先に心当たりはありますか?」


「転校生ちゃんのクラスの…………

 あぁ、いつも隣にいる子か

 いや、見てないな」


「そう、ですか

 ありがとうございます

 失礼しました」




 私は下駄箱へ向かう為、保健医に礼を言って離れる。

 あの保健医はどうやら人の名前を覚えるのが苦手らしい。

 私もそうだから人の事は言えないけれど。




 結論から言う、通り魔なんて早々出てきたりはしない。

 勿論例外もある。

 例えば立地的に多少暴れやすい場所。

 夕方以降はぐっと少なくなる人通り。

 そして極めつけは、台風。

 それ等三つの条件が一部を除いて合致するのはこの学園以外には無い。

 ……そもそもこの学園に侵入する時点でテロになって通り魔にはならなくなってはいるけれど。


 あの子だってもう既に、化物共の被害者になっていたんだから。

 彼女だって被害に合っていてもおかしくは無い。



 下駄箱に彼女の靴はあった。

 仕方ないので私は教室へ戻ろうと振り返ろうとして、視界の端に黒い影を見かけた。

 見てしまった光景に思わず全身に鳥肌が立ち、瞳を見開いてしまう。

 私は基本的に考え過ぎなぐらいには嫌な事を考える方だけど、こんな形でそれが実現するだなんて。

 通り魔、殺人鬼の目撃者は私だけ。

 状況だけを見れば私はきっと口封じの為に直ぐ殺されるんだろう。

 血濡れとはいえ、相手があの子じゃ無ければ。

 何で、かつては被害者だったあの子が今は加害者になっているの。

 化物に襲われた、だなんて誰も信じてくれないから?

 雨と血に濡れて昇降口の外に立っていたあの子の足元には人が倒れていた。

 ……人?

 目を疑う。

 本当に人だろうか、と。

 あの子を襲った化物は人の形をしていたから。




 呆然と立ち尽くし、考え事をしていたのが不味かったんだろう。

 気が付いたら目の前にはあの子が居た。

 雨と湿気で冷えきった空気の中であの子の紺のブレザーが雨に濡れている。

 胸元の校章が薄らと見えた気がしたが、電気も付いていない暗い此処では殆ど見えない。

 雷の光で辛うじて見えたあの子は、何も映さない、透明で虚ろ、そんな表現が当てはまる様な瞳で私の目の前に立っていた。

 手には血と雨が滴る凶器カッターを持って。

 私は考え事を中断し、彼女と合流する事も忘れてただあの子をじっと見つめた。

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