第2話彼女の相談
彼女の相談は、普通だった。
いつも普通では無いとは言わないが今回は特に地味な内容だった。
『最近誰かに見られてる気がして自分の家まで帰るのが怖い。
一緒に帰って』
要約するとそんな所か。
多少楽観的な見方かもしれないが、一緒に帰るだけだろう。
タクシーでも呼んで一緒に帰れば良い。
金はかかるが、安全には変えられない。
それに、これが一番早い。
そういえば、最近はニュースを見ていない。
彼女と帰るまでにニュースを見ておこうか。
そう思い、
行き先は少し遠いが、空き教室だ。
直ぐに見つかってしまいそうな屋上に行くよりはマシだと思っている。
毎回思うが、どの授業も最近は教科書を読み上げるばかりでつまらないのだ。
そんな授業を聞き続けるぐらいなら、私はもう少し頭を使う物が聞きたいし、やりたい。
今は、先にニュースを見ないといけないけれど。
目的の空き教室に入り誰も居ない事を確認してカーテンを締め切る。
空気はやはり熱い。
仕方がないので窓も開ける。
それらを全てやってから椅子に座る。
テーブルにスマホを立て掛けてテレビやラジオ、動画を順に流し、めぼしい内容を探しつつ耳にイヤホンを掛ける。
『……台風が近付いてる為、しばらくは雨の日が続くでしょう
続いてのニュースです
三日前、○○○町近辺で通り魔事件が発生しました
犯人は現在も引き続き捜索中の為未だ捕まっておりません
○○○町近辺に住む方は気を付けて、お早めにお帰り下さい』
スマホ画面で決まった文面を読み上げるニュースキャスターの淡々とした声がイヤホンから漏れ聞こえる。
視線がどうこうって話では無く、コレが原因なのでは。
彼女の家には一度行った事があるから分かるが、ニュースで言われていた場所は確かに近い。
思わず面倒くさい、と呆れ果てる。
雨が降るのなら、尚更タクシーを呼ぶ方が良いだろう。
後は、彼女の時間の都合が合えば良い。
確か部活には入って無い筈だ。
その確信と共に私は丸々一限分を空き教室で過ごした。
その間、雨は降ったり止んだりを繰り返していた。
台風が近いと言うのも本当らしい。
「ごめんね、先生に色々頼まれちゃって
ほら、私一応これでもクラス委員だから……」
放課後、薄暗い教室で苦笑しながら彼女はお詫びに、と言って自販機で買ったであろう紙パックジュースを私に渡して颯爽と教室から消えて行った。
彼女がクラス委員ってのは知らなかったし、そんな素振りも無かった気がするんだが。
私は自分と彼女の鞄を持って、教室からぽつりぽつりとまた降ってきた雨を眺める。
私は、彼女の仕事を手伝わなかった。
ザァー……
雨、と言うか嵐のせいで薄暗い所では無くなってしまった。
時計を見ようとするが、この暗さでは見えずらい。
手探りで私の鞄からスマホを取り出す。
時間は、十八時半。
熱心な運動部だったら、十九時まではやっているだろうか。
文化部だったらそろそろ帰り支度をする頃合だろう。
こんな時間まで先生の手伝いをしてるだなんて。
私は溜息を付いて二人分の鞄を持って職員室に向かう。
雨の音が周囲の音を掻き消す。
室内だって雨の音が聞こえてしまっている。
台風も近いとは言っていたし、これだけの雨が降れば、確かに通り魔も……証拠も流れやすいんだろう。
そこまで考えた所で、職員室の前に着いた。
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