第13話 判明

 そうして夕方、城を出る頃にはサーシャと仲直りして、届いた書類に目を通しながら、補佐役二人の帰りを待っていた。

 すると、涼ちゃんが先に帰って来た。

 涼ちゃんはドアを開けるなり、エッヘン! というポーズを作る。

 俺らはその様子に期待が膨らみ、身を乗り出して結果を聞こうとする……と、「崇めよ……」ということを強要されてしまったので、何も聞かないうちから褒め讃えた――。


 涼ちゃんはご満悦の表情を浮かべたあと、俺の膝の上に当たり前のようにして座り、サーシャに向けて話し始める……なんなんだ、この状況は……。


「三~四年前から、薬師の依頼で発注を受けるようになった。ちなみにこの薬師、王妃専属……」


「なんだか怪しいな」


「調べてみますか?」


「もう調べた……」


「へ?」


 涼ちゃんの話しでは、その薬師の自宅兼作業場へと素材を卸ていた店からそのまま赴き、パディーゾについての事情を薬師から確認したそうだ。それによると、ローシラ宰相からの指示だったという。

 そして帰ったフリをして様子を窺っていると、慌てふためくようにして薬師が出掛けて行ったので容易く開錠して、作業場へと足を運び、そこで大量の仕分けされた本物のエリーを目にしたそうだ。そしてそれは全て他国や個人へ向けて出荷される物だったそうで、その片隅に王妃様の物として雑に偽物が置かれていたとのことだった。


「王の本妻が飲んでいるのは、偽物バッタモン。王の嫁は悪化の一途。王の女は回復しない……」


 俺はこの発言に、王妃様で統一しようねという一言を添えて、


「涼ちゃん。不法侵入はダメだからね……建前は」


「本音……」


「よくやった!」


「奉れ……」


 俺らは平伏した――。


 そうこうしていると、ドアがまた開き、シーレさんが直ぐに報告を始めてくれた。


「何軒か当たってみたのですが、残念ながら支払いが済んだ時点で通知書などは何処も破棄してしまっているそうです。ですが口を揃えて皆さま納税額が上がっているということを話しておられました」


 なんでも支払ったことを証明する証書さえあれば問題ないとのことで、納めた時点でポイっとやるのが常識となっているとのことだった。


「と、そんな中! セレス教団の本部に足を運んでみたところ、そこの金庫番の方が記帳されておいででしたので、内密を条件に無理を言って控えさせて頂きました!」


 そういってシーレさんは折り畳んであるメモ用紙を高々と掲げてみせる。


「おお!」


 そして俺がそれを受け取ろうと涼ちゃんをどかして立ち上がり手を伸ばすと、シーレさんは踵を持ち上げその手を更に高くして、「メス豚……と」、そういって顔を赤らめ目線を外し、その瞳を潤ませた。


 今回ばかりは、しゃーない――


「この、、、、メス豚ぁぁぁぁっ!」


「はうーーーーっ!」


 シーレさんは悶絶したあと気を失ってしまった。

 それを冷ややかに見下ろした俺は、メス……シーレさんの手からメス……メモを抜き取る。

 そこには、こんな変態でも仕事の手際の良さを見せつけるようにして、とても美しい字で書かれた、過去十年に及ぶ支払額が記載されてあった――。


「サーシャ!」


「はい!」


 俺はそのメモを渡して、俺らがさっきから目を通していた額と、過去五年分の記録とを確認してみる。


「これは……横領ですね!」


「ああ……。裏帳簿的な形で誤魔化してたんだ」


 おそらく納税が終わった頃にでも、最終確認をするとかなんとか言って、手元に書類を全て集めて課徴金の額をそこで書き換えてしまえば、誰にも気付かれることなく改竄が出来てしまっていたのだろう。仮に疑われたとても、国政機密費へ直接充当するとでも告げてしまえば、もうそれ以上の追及は困難な筈だ。

 

 それと想像の域を出ないが、このメモの額が狡猾さを物語っている。


 宰相は徴収額に対して、一割にも満たない額を誤魔化している。とはいえこれだけの王国だ。その額たるや個人の莫大な財産となるだろう。

 そして僅かずつでも課徴金を上げることによって、よりもっともらしい数字に粉飾し整えている。恐らくもっと欲を掻いていたら、こう上手くはいかなかったんじゃないだろうか。それに、たった一人でこれだけのことを遣って退けていたのかも、甚だ疑問が残る。仲間というか、自分の手足となるような人物を作っていたのではなかろうか……。


 しかし、そういった事があったとしても、俺らの立場としては疑問を呈するのみに止めておいて、このメモの信憑性や税額が上がっているという声を元に、背信の意があったとだけ結論付けておくべきだろう。

 そしてその結論に対してどういった判断を下すのか、また、薬師への指示とエリーの横流しについても、どういった結果をみるのかは、ファーランド王国としての問題だ。


「明日、報告に行こう!」


 そうして俺らは慰労会を行い、深い眠りへと落ちて行った――。



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