第7話 聖騎士
俺らは今、紋章宅を目指している。
今朝の出来事は、寝ぼけたサーシャが部屋を間違えてしまったことを二人に力説してなんとか事なきを得た……が!?
〖これからは、皆で寝よう!〗
ということになってしまった……ハァ~。
――それにしても、あの夢が少し気になっていた。
全くの夢なのに、妙なリアリティを感じた。
ただの夢なのか? とさえ思う。
もしかしたら、あれはこの世界に起こった歴史の一端なのではないだろうか。
だとしたら、どうして俺なんかの夢に出てきたんだろう。
(サーシャが関係してんのかな?)
そんなことを考えながら、中心地点を北西の方角へと進み、前を歩くその後ろ姿をボンヤリ視界に入れ足を運んでいると、「ありました!」と、薄鈍色の毛先をフワリと靡かせ、一つの邸宅の前で担当本は立ち止まり、今ある現実の世界へと俺を引き戻す。
「どれどれ……」
背の高い格子状の門の横に、名札のようにしてある紋章に顔を寄せる。
この家の紋章は、実のところ有名だったようで、俺が描いたものを宿屋のメイドさんに見せてみたらアッサリと場所を教えてくれた。
因みに最初はサーシャが描いてみせたのだが、それは両手に錫杖を持ち、いきり立つお地蔵さんのような絵だった。
(古フランス式エスカッシャンのような形の中に、雄々しいライオンの姿が真正面にあって、それを二本の剣が挟み込むようにして突き立っている、と……ふむ、ユーリスから見えたものと同じだな)
「どうしますか?」
逸るユーリスが落ち着きなく俺に問う。
「そうだなぁ……原告連れて行ったら、味方してるように思われるかもしれないし、行き成り押し掛けるってのもなんだしなぁ」
と、俺が話をどう持って行こうかと考えていると、
「!?」
十数メートル先、玄関ドアが開き始めた。
「――いったん隠れよう!」
俺らは急いで今きた道を戻り、一つ目の角に身を潜めた。
「騎士……だよな。ユーリス、あの人?」
白のカズラのようなものを身に付けているのだが、その見頃はホッソリとしていて、裾は足元までの長さだ。袖口は肘の辺りで絞られており、サドルブラウンのベルトには剣が差してあって、軟弱な俺らとは一味違うということを一目で理解させる。そしてブーツの底を俊敏に持ち上げ歩くその後ろ姿は、品格を感じさせるものがあった。
「ムムム~~……」
ああ、見えないのね。
「しゃーない、話しかけてみるか」
ということで俺らは姿を現し、その人に声を掛けようとしたのであったが……向こう側へと歩いて行くそのスピードが異様に速くて、声を掛けるタイミングを逃してしまった。
「追い駆けよう!――」
そうして見失うかどうかのギリギリのラインを繰り返しながら、その背中を懸命に視界に捉えて、何度目かの角をまた曲がってみると――
「 ハァ、ハァ、ハァ……いない……」
二メートルは優に越える壁の行き止まりで、隠れるような場所は何処にもなかった。
「おかしいですね……」
サーシャがキョロキョロと辺りを見回す。
「途中で見失ってしまったのでしょうか?」
シーレさんが上空を仰ぎ見る。
「合ってた……」
涼ちゃんが欠伸する。
「お化けみたいですね~」
ユーリスが僕には出来ないですけどと付け加える。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
因みに息が切れているのは、俺だけです……すると、
「――貴公ら、私に何か用か?」
「!?」
今きた一本道のところを振り返ってみると、声を掛けてきたのは、紛れもなく追い駆けていたはずの相手だった。
「おっ!? ちょ、お前ら――!?」
何故か皆して俺のことを前へと押し出す!
「返答の
普段は優しそうなんだろうなと思わせるその目元を鋭くして、その人は
(ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!)
俺らは後退りながら、ゴクリと生唾を飲み込む。
ユーリスの二の舞を演じるのは、絶対に、イヤだぁぁぁぁっ――!
「あっ!? あの! セントーリア最高裁判所から来ました! こう見えてボク、裁判官なんです!」
するとその人は驚いたようにして、俺のことを上から下まで、じっくりと目に映す。
「……ふむ、よく見れば貴公のそれは法服のようですな。これは失礼致しました」
そうして気色ばんだ様子と合わせて、その人はスルリと鞘に収めてくれた。
それにしても危ない所だった。もし何かあった場合って、異世界でも勤務中の補償ってあるのかな……後でサーシャに聞いてみよ。
「して、私に何か御用ですか?」
ホッと胸を撫で下ろした俺は、「実は……」と、説明を始めた―――。
その人は説明の間、相槌を打つでも遮る訳でもなく、只じっと俺の話に耳を傾け、そして一部始終を聞き終えると、「事情は分かりました。確かにそれは私です。しかし、私の認識はガウス家にお伝えした通りのものです。それに、助けた酒場のメイドにも礼を述べられております」と、毅然とした態度で自分の主張を明らかにする。
そこで俺は事実確認をさせてもらうことをお願いして、サーシャに目で合図を送る……担当本は心得たとばかりにササッ! とその姿を変えてみせて、その様子に「おお!? これは……」と、騎士さんは感嘆の声を漏らしていた――。
そうして今、騎士さんの記憶を見せてもらっている……。
(こっちの方が遥かに鮮明だな。確かにこの人の言い分には、おかしな所は一つもな……ん?)
俺は、奇怪なものを目にしてしまった。
「あの~騎士様……」
「失礼。名を名乗っておりませんでしたな。カルム・シュバイツと申します。光栄にも此処、ファーランド王国にて、代々聖騎士を務めさせて頂いている家の者です」と言って、騎士としての挨拶なのだろう、左拳を右肩の前に持っていき、その肘を右手でそっと押さえて軽く頭を下げてみせた。
その様子に俺も釣られるようにして頭をコツンと下げて名を名乗り、「確認なんですが、決闘方法は?」と、先を促した。
するとカルムさんは、よくぞ聞いてくれた! とばかりに、「さすがに聖騎士の身の上である以上は互角の決闘はあり得ませんので、ユーリス殿に分があるようにと、私は諸手を後ろにして縛り、両足も動けぬよう鎖で締め上げ、更には
――話が進みそうにないので、シーレさんの変態グッズを素早く押収……ほー、△木馬って、分解できるのか~。
「で、どうやって負けたの?」
「カルムさんに剣をお借りしたんですが、振り上げたらコケまして~」
「死因は……転倒?」
「はい~」
かける言葉も見つからん。
「お!? もしや……成仏できなかったのですか?」
ユーリスの存在に今更ながらに気が付いたカルムさんは、「調子は如何ですか?」と、謎の言葉を掛けて、「お蔭様で~」と答える気さくなお化けは、当初の目的をハタと思い出し、涙ながらに改めて事情を伝え聞かしていた――。
「……貴方が死してまで訴え出るということに、少なからず敬意を払います」と、カルムさんはユーリスの真摯な物言いに対してそう口にして、「仮にそのメイドが私の認識と違う見解を示したならば、裁判官殿のお話に今一度、耳をお貸ししましょう」ということを俺に約束してくれ、いずれにせよ判明したら知らせて欲しいと彼は言うので承諾して、(どっかで見たな)と、聖騎士様の記憶で見たメイドさんについて考えつつ、俺らは酒場の場所をなんとなく覚えているという、ユーリスの言葉を頼りに早速そこへ向かうこととした……。
――てか、俺らの宿じゃん!?
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