第11話 魔物を斃そう
「別にお前まで歩く必要はないぞ?」
「いえ……お尻が痛くて……」
「そんな理由でわざわざ馬車から降りてきたのかよ。おいおい……」
馬車に乗れば歩かず楽できると思っていたが、実際に乗ってみれば、ガタゴトと揺れる度にお尻がゴトンと打ち付けられ地味に痛い。何度も何度も続けば痛みが蓄積されていく。
我慢できないほどの痛みではないところが厄介だ。何せ、そんなことに一々回復魔法やポーションを使うわけには行かないのだから、我慢するほかない。
だけどいい加減、小刻みにやってくる振動と微痛に嫌気が刺してきたわたしは荷物をそのままに馬車から飛び降りたのだった。
「嬢ちゃん、よかったら御者台に座るか? 後ろよりは微妙にだがマシなはずだぜ?」
「いえ、歩き慣れているので大丈夫です!」
「ってか思ったんだが、マント折りたたんで座布団代わりにすればいいんじゃないのか?」
「あ、なるほど!」
「ってことだ。戻れ」
「はーい!」
敷物代わりに片からマントを外し、それを折りたたむ。そして、その上に座れば揺れと共にやってくる痛みが大分やわらいだ。
だけど今度は徐々に徐々に瞼が重くなってきた。何せ、することがないのだ。馬車の護衛をしているガジェドさんに話しかければ邪魔になるし、ボルドさんに声を掛けようにも馬車の進む音や樽の山に阻まれて大声を話さなければならない。
一人のときはいつも錬金術なり、本を読むなり、森の中を探索してきたけど、今はそれらをすることは叶わない。だからどうしようもなく暇なのだ。
ゆっくりと意識が遠のき、気づけばわたしは馬車の中で眠りに落ちていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぅ、ぅう……?」
辺りに鳴り響く剣戟の音により不意に目を覚ましたわたしは眠気眼をゴシゴシ擦る。いつの間にか馬車は停まっているようだ。
「ボルドッ! 大丈夫か!」
「やべぇなこりゃっっと! さすがに3匹は
「こっちも手一杯だ! もうしばらく耐えてくれ!」
「あいよ! 分かってらぁ!! どりゃ!」
どうやら外ではガジェドさんとボルドさんが何者かと戦っているらしく、掛け声と共に剣戟が幾度となく鳴り響く。切羽詰まった状況なのか、荒々しく悪態をつく声が何度も聞こえてくる。
「アスピ! 起きてるか!?」
「起きてます!」
「絶対出てくるんじゃねぇぞ!」
「えっ」
「だから、出てくんじゃねぇって言ってんだよ!!」
「わたし、戦えますよ?」
「うぉお! おりゃ! っと、戦えるだと!? ぐわ! 何ができる!?」
「そこそこ強い魔法が使えます!」
「ぶっちゃけこのままじゃジリ貧だぞガジェド! 嬢ちゃん、
「分かりました!」
返事をして外に出たわたしの目の前には、茶褐色の体を持ち、豚の顔を首から生やし、異常なまでに筋肉が隆起した二足歩行する怪物もとい魔物が各々に得物を携え、ガジェドさん達に襲いかかっていた。
その数、実に7頭。ガジェドさんが4頭を受け持ち、残りの3匹をボルドさんが相手取っている状況だ。
恐ろしい膂力を以ってして放たれる一撃は、たとえ受け止められたとしても伝わる衝撃に腕が痺れて硬直する状況に陥るだろう。戦いにおいて僅かな隙が命取りとなる。
それを判ってか、ガジェドさんたちは魔物から放たれる斧の重く鋭い一撃を受け流すよう捌くことに徹している。
だが如何せん、数が多い。延々と続く複数匹からの連撃に対応するので精一杯なのだろう。中々攻め込めずに居るようだ。
だけど幸い、わたしのことが眼中に無いのか、豚の魔物は二人に意識を集中させている。攻撃するなら今がチャンスだろう。
正直、戦うのは好きじゃない。飛び散る血の臭い、肉を断つ感触が何度体験しても慣れないのだ。
だからわたしは戦うとき、なるべく魔法しか使わないようにしている。魔法で間接的に斃せば何も感じないし、臭いも魔法でどうとでもなる。
不思議と斃した後は臭いさえどうにでもなれば切り刻んでも何とも思わないのだ。死んだ生物は只の素材として無意識で処理しているからかもしれない。
要は生々しい命のやり取りが嫌なのだ。だからわたしはサポートに徹して攻撃はガジェドさんに任せることにした。
方針を決めたわたしは杖を地面へ突き刺し、豚の魔物各々の足元へと魔力を流す。そして、その流れを導火線に魔物の足元に土魔法で穴を開ける。更に、足を覆うように土を隆起させ、脱出を困難にさせる。
「ブゴォォオ!?!?」
「おわっ!? 何だ!? おりゃああああ!!!」
「ガジェドさん! 魔物の足を魔法で拘束しました! 今のうちに!」
「了解!」
「「「ブゴブゴブゴォォォオオオ!?!?!?!?」」」
次々と
わたしもそれに続き、同様に魔法で豚の魔物を次々と拘束し、二人は豚の魔物を的確に屠っていった――――
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