第12話 魔石を採ろう
「いやぁそれにしても嬢ちゃん
「どういたしまして!」
「アスピ悪かったな……すまん」
「・・・?」
豚の魔物を斃し終えて一息ついたところで唐突にガジェドさんが謝ってきた。何かあったのだろうか。もしかして、わたしを戦わせてしまったことを気に病んでいるとかかな・・・?
わたしを護衛対象として見ていたみたいだから。だけどそんなこと、気にする必要なんてないのに。
「はは、相変わらずよくわからん奴だな。その様子だと俺が謝ってる理由も分かってない感じか。いや、な……お前に馬車の護衛なんかできるわけがないって決めつけて強く言っただろ俺」
「そうでしたでしょうか・・・?」
「まぁいい。お前が覚えていないのならそれでもいいが覚えているなら許してくれるとありがたいなって……」
「特に思うところもありませんので大丈夫です!」
「そうか」
「はい!」
正直よくわからないけどガジェドさん本人が納得できたならそれでよしとすることにした。
わたしたちの会話が一段落つくのを待っていたのか、ボルドさんが声を掛けてきた。
「それにしてもよぅ、取り分どうするんだ?」
「取り分」
「そうだ」
「分けるとするなら斧7本に魔石7つをどう分けるかってことだな」
「この魔物の生体素材は持っていかないのですか?」
「悪ぃが馬車の空きスペース的に無理でな、持っていけるとするならガジェドが今言ったものが限界だろうよ」
「なるほどです……」
現実的に考えて、これほどの大きさの魔物を7体もそれも樽でほとんど空きの無い馬車に積み込むのは無理があるだろう。それに、防腐処理のための薬品などの持ち合わせもない。持っていくだけ腐らせることになるだろう。
そう納得したわたしは直近の問題である素材をどう分けるのかについてボルドさんに聞くことにした。
「種類別に数えると奇数個ですけど、どうやって分けるのでしょうか・・・?」
「そうだな、2,2,3でいいんじゃねぇか?」
「2,2,3?」
「ああ、今回のケースならボルドの意見に賛成だ」
「話が早くて助かるぜガジェド」
「・・・?」
一人で狩りをするときは素材は全て総取りだった。だからこういった素材の分配はしたことがなく、唐突に数字を出されて困惑するわたしの心境を見て取ったのか、ガジェドさんが説明してくれる。
「つまりだ、斧と魔石の取り分はそれぞれ俺とボルドが2つずつ、お前が3つずつって内訳だ」
「わたしだけ1つ多いのはなぜですか?」
「単純だ。あのままじゃ俺たちはジリ貧だった。最悪、死んでたかもしれない。あるいは馬車ごと破棄して逃げ出す腹づもりでもあった。もちろん、お前も連れてだ。
だがその窮地を覆し、おまけに的確なサポートを熟した功績を鑑みれば妥当だと俺は思う。ボルドも大体そんな感じだろ?」
「そのとおりだ」
「えへへ」
人に褒められるのは何年ぶりだろうか。あまりに照れくさくて俯いているとボルドさんは「とりま魔石でも採ろうぜ」と言って懐から剥ぎ取り用のナイフを取り出した。
「アスピは魔物の解体とかやったことあるか」
「あります!」
「そう元気に返事することでもない気がするのだが……」
「なら嬢ちゃんも手伝ってくれや」
「分かりました!」
こうしてわたしたちは魔物から魔石を採り出す作業へと取り掛かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それにしてもよぅ、まったく吃驚したぜ! あの樽をグルングルン振り回して遊んでた嬢ちゃんがまさか魔法を使うとはな!」
「そんなに意外ですか?」
「そりゃ意外だろ? 普通、武術と魔法は片方だけ鍛えるのがセオリーだ。 だから嬢ちゃんはてっきりパワータイプの戦士かと思ってんだがあそこまで器用に魔法を使いこなすとは驚きだ」
「ああ、本当にそうだな。正直、認めたくはないが婆ちゃんの言ってた意味が解った気がする」
「フリエラの婆ちゃんが何か言ってたのか?」
「ああ、もしかすれば俺よりもアスピの方が強いかもしれないってな」
「あ~、納得と言えば納得だが何とも言えないな。何せお前は義足っつうハンデがあるし、嬢ちゃんの実力も切り札も俺たちゃまだ知らねぇ。ぶっちゃけどっちが強いかだなんてどうでもいいが、強いことに越したことはねぇよな! ガハハハハッ!」
「ふ、そうだな」
そんなこんなで和気あいあいと他愛のない話をしながら魔石の摘出作業を続けるのであった――――
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