第3話 森林を出よう
森の中を一人、わたしは歩いていた――――
お婆ちゃんが残してくれた地図によると、我が家である大樹は森の凡そ真ん中に位置するらしい。
『精霊の大森林』と記されたこの広大な森はお腹の凹んだ豆のような形をしており、北西から南東に掛けて長く伸びている。つまり、森を抜けるには北東か南西を目指せばよい。
北東へ向かえば森を抜けた先にウンディ湖と呼ばれる一際大きな湖へと辿り着くらしい。
一方、南西に進めば平野が広がっており、更にしばらく進むと舗装された道へと出るらしい。その道を道なりに進めば最寄りの街『エインヴェルズ』へと辿り着く。
何はともあれ、とにかく早く街に着きたいわたしは南西を目指すことにした。
幸い、お婆ちゃんが冒険者時代に使っていた方位磁針のおかげで迷うことはないだろう――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大森林を進むこと2週間と少し――――ついに森を抜けた先には思いもよらぬ光景が広がっていた。
「うわぁ!牛さんがたくさんいる!」
そう――――目の前には牧場が延々と広がっていたのだ。
本来、牧場を経営するのは非常に困難である。何が問題かと言えば、害獣、魔物による被害が真っ先に挙げられるだろう。
肉食獣や魔物にとって牛や馬といった家畜は栄養満点の御馳走である。おまけに飼い慣らされているが故に狩るのも容易だ。
そのような餌を住処の近くにぶら下げられれば喰らう以外の選択肢はないだろう。
塀を高くすれば狼の類は凌げるだろう。だけど、ある程度の知能を有したゴブリンや風魔法で獲物を切り裂くウィンドウルフといった魔物の類に対しては何の役にも立たない。
魔物対策にはそれ相応にお金を掛けて魔法金属製の強固な大壁を築くか、あるいは冒険者などの高い戦闘力を有した者を常時雇う必要がある。
特に後者は依頼という形で牧場の護衛を要請することになるが、どのような魔物が現れるかは不定であり日ごとに難易度が変わることからリスク管理が難しい。
そのため、魔物の出現有無にかかわらず、割高な報酬を用意しなければ誰も依頼を引き受けてはくれないだろう。
だから魔物がすぐ傍に生息するこんな場所で牧場を見られるとは思いもよらず、目の前に広がる放牧的で暖かな光景に思わず目を奪われていたのであった。
そして、しばらくしてふと我に返ったわたしは思った。
「面倒くさいなぁ……」
左右を見渡す限り延々と続く木柵。ショートカットするならば、柵を乗り越え、直進すればいい。だけど柵があるのだ。柵は言うまでもなく、無闇矢鱈に出入りされたくないから立ててあるのだ。
つまり、勝手に敷地内へ踏み入る行為はここの管理者にとって好ましくない行為そのものと言えよう。
それでも終わりが見えないほどの距離を歩くのはさすがに面倒だ。おまけに食糧も底を尽きかけていて、早いところ街に着きたい。無駄に時間を浪費するわけには行かないのだ。
だからわたしは叫ぶことにした。
「おーい!」
「おーい!」
「おーい!」
何度も何度も叫んだ。遠く彼方に小さく見える建物に居るかもしれない誰かに気づいてもらうべく、わたしは叫んだ――――
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