第2話 出発をしよう
「お婆ちゃん、行ってくるね――――」
裏庭にある小さなお墓で眠るお婆ちゃんに挨拶を終えたわたしは一旦家の地下室へと赴き、そこに長年放置されていた大結界の魔道具を起動する。
これはお婆ちゃんが森の外で冒険者として活動していた頃、とある遺跡で見つけたアーティファクトの一種である。
アーティファクトとは、古の超文明が作り出した、現代の技術では到底再現不可能とされている道具の総称だ。この大結界の魔道具もその1つで、家全体を不可視の結界で守ってくれるのだ。
わたしの背ほどもある大きな銅鐸型のそれは非常に頑丈で分解できず、未知に飢えて止まないわたしも分からず終いで結局飽きて匙を投げた代物だったりする。未知の塊と言えばそうだけど、分からないのも反って困りものである。
起動方法は至って単純――――中央に掘られた手のひらのような窪みに手を翳し、魔力を流すだけ。すると、銅鐸は仄かに青白く発光し、無事に稼働したことを知らせてくれる。
一見便利な魔道具だけど一つ難点があったりする。大気中から魔力をかき集めているらしく、外へ通じる出入り口が扉一つしかない半ば閉鎖的な地下室だと
外に出せればいいのだけど、あまりに重すぎて、とてもじゃないけど運べないのだ。お婆ちゃんが何故こんなところに設置したのか本当に謎……。
まぁ魔道具の問題というよりは場所の問題なんだけどね……。
だから魔力を多量に含む揮発性の高い【エーテル水溶液】を日毎に昨日のものと入れ替える作業が日課と化していた――――もちろん、その錬金も含めて。というか、お婆ちゃんから引き継いだ伝統(?)である。
どれくらい結界が保ってくれるかは判らないけど、可能なら1年に1回はこの家に戻りたいと思ってる。だからその間、保ってくれれば問題ない。
そもそも家には不思議と一度も魔物や害獣の類がやってくることは無かった。だけど人が居なくなれば、もしかしたらということも考えられる。だから保険は大事である。
やるべきことをすべて終えたわたしはついに、16年間もの時を過ごしてきた我が家から旅立ったのだった――――
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