魔王ごっこ

@SHEX

第1話

 運動場を駆け抜ける俺たちの前に四人の敵が立ちふさがった。


「くくっ。勇者ひろしよ、貴様を魔王さまのもとへはいかせん」


 ザコその3役の勇太が棒読み口調でいった。

 俺たちのごっこ遊びにおいて、演技力のないやつは端役しか貰えない。だから勇太はたいてい名無しのモブ役なのだ。


「ひろし、ここは俺にまかせろ!」


 目立ちたがりの浩司がずいっと前にでた。勇者のライバル役の浩司はここが見せ場だとふんだようだ。


「こいつらは俺がくいとめる。ひろしは先にいけ!」


 いや、それ死亡フラグだよな? お前ここで退場するつもりか? あ、そういやこいつ、きのう新作のゲームを買って貰ったって言ってたな。もしかして早く帰りたいのか?

 させるか、うらやましい。


「浩司、お前一人でこの四人をくいとめるのはむりだ。ここは二人で――」


 ふっ、と浩司は笑う。


「べつに、倒してしまってもかまわんのだろ?」


 やるな、浩司。さらに死亡フラグを重ねてくるとは! そんなにゲームがしたいのか!? 死ぬ気まんまんだなおまえ!


「いけ、ひろし! おまえはレイナ姫を助けて、彼女のパインサラダを食うのだろ?」


 いやまて!? なんで俺の死亡フラグまで立てんだよ!? 汚ないぞ! どんな嫌がらせだよ!? しかもそんな古典的なフラグを。


「くっ、わかった。死ぬんじゃないぞ」


 このままじゃさらにフラグを被せられそうなので、俺は浩司をおいて走り出した。

 魔王城である体育館は目の前だ。俺が中へ踏みこむと、壇上に立つ魔王役のみよちゃんが高笑いを響かせた。


「ふはははは、ひさしぶりだな。勇者おるてーがの息子、ひろしよ!」


「なに?」


 ひさしぶりってことは、俺と魔王は会ったことがある設定なのか?


「この声は……まさか母さん!?」


「……え?」


 これまでどんなむちゃ振りにもそつなく対応してきたみよちゃんが、きょとんと目をまるくする。……あっ、俺の父親は勇者おるてーがなのに、魔王が母親だとちょっとおかしな事になるな。

 しかしすぐに立ち直った魔王みよちゃんがにやりと笑う。


「おまえの父、おるてーがはおろかだった。わたしへの協力をこばみ、勇者になったのだからな」


「だから父さんを殺したのか!?」


「そうだ、足元を見てみろ。その黒い染みはおるてーがの血だ」


「な、なんだって!?」


 下を見てみるがもちろん体育館の床に血のあとなんてない。

 魔王みよちゃんは不敵にわらう。


「くくく、おまえもここで死ね」


 ノリノリだな、みよちゃん。


「まて、その前に聞かせろ! レイナ姫はどこだ!?」


「ふっ」


 みよちゃんが指さすと、暗幕の裏からレイナちゃんを羽交い締めにした芳樹くんが現れた。

 いいな、その役。社長れいじょーのレイナちゃんに抱きつけるなんて。お姫さま役をやるだけあってレイナちゃんはむちゃくちゃ可愛い。

 芳樹くんは鼻の下をのばした猿顔で俺に言った。


「レイナ姫を助けたくば、まずはこの俺を倒すのだな」


 それはかなりきびしい。芳樹くんは柔道の大会で優勝したことがある超小学生級リアルモンスターなのだ。そこらの中学生より背が高く、体重なんて俺の倍以上ある。

 浩司のばかがいればまだなんとかなったのに。あの裏切り者め。

 そんなことを考えていると、


「ぐっ!?」


 羽交い締めにされていたレイナちゃんがぴょんとジャンプして、芳樹くんのあごに頭突きをかました。

 よろめいた芳樹くんを振り払い、レイナちゃんは振り向きざまに前蹴りを放つ。そのつま先が芳樹くんのあごを捉えた。さらに高くかかげた足を振り下ろし、上がった芳樹くんのあごをかかとで打ち抜く。


「ネリチャギ!?」


 テコンドーの技だ。レイナちゃんのえげつないあごへの三連打を食らった芳樹くんは、がくりと膝をついた。しかしさすがは小学生柔道チャンプ。涙目になりながらも立ち上がろうとしている。

 レイナちゃんはちょうどいい高さにあるとばかりに、芳樹くんの頭を抱え込んで膝蹴りを叩き込んだ。


「首相撲からの膝地獄!?」


 レイナちゃん、いつの間にムエタイまで……

 だが芳樹くんはさすがに頑丈だ。力任せにレイナちゃんを振り払って逆に掴みかかる。体重差がありすぎて打撃が効いてないんだ。しかしレイナちゃんはあわてた様子もなくつぶやいた。


「立ち技ではすこし無理があるようですわね」


 言いざま、レイナちゃんは芳樹くんの手首を掴んで床を蹴った。そのまま両足を芳樹くんの腕に絡めて絞り上げる。


「飛びつき腕ひしぎ十字固め!?」


 肘関節を極められた芳樹くんはたまらずどっと倒れこむ。そして必死に床を叩いた。


「ギブ! ギブ! いたた」


 ばかな!? 柔道チャンプの芳樹くんからタップを取った、だと……!?


「レ、レイナちゃん……いや、レイナ姫! いまの技はまさか……」


 レイナちゃんはドリルのようにロールした髪をかき上げてわらった。


「ふふっ、コマンドサンボは淑女のたしなみですわ」


「まさかのロシア式軍隊格闘術!?」


 魔王みよちゃんが両手をあげて降参のポーズをしていた。



「勇者いらねーじゃん!?」

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