第2話 来訪者
これはHさんが、夜に、家で体験した話。
その日、Hさんは休日ということもあって、リビングでのんびりテレビを見ていた。既に両親は、一階にある寝室で眠りについており、Hさんの傍らには、愛犬一匹だけが、大人しく床に頭を伏せていた。 見たいドラマも終わり、そろそろ自室のある二階に上がろうか、とHさんが考えていると、ふと愛犬が、頭をあげた。視線は部屋の出口、そのすぐ先にある玄関に向けられ、それからすぐに愛犬は出口まで身を起こして歩いて行った。
Hさんは、誰か通ったのかなと思った。というのも、その愛犬は、いつも人が家にやってくると、決まって玄関まで出向いて、二、三回吠える。これが、夜の人気がなくなる時間帯は、より気配に敏感になるのか、家の前を通った人にも、時折同じような反応をした。
だから、Hさんは別段気に留めることもなかった。愛犬は相変わらずじっと玄関を見つめていたが、やがてけたたましく吠え始めた。Hさんはいつものことだと、無視してコップやリモコンを片していたが、中々鳴き止まない。どうしたんだと目を向ければ、愛犬は歯茎を剥き出しに、唸り声をあげている。それは明らかに、何かに対して威嚇しており、いつもの習慣からは見られない様子であった。
ワン、ワン、ワン、何度と吠えていた愛犬が、少しずつ後ずさって来る。そして、部屋半ばまで戻ると、今度は玄関ではなく、庭に続くガラス戸を吠える。壁を吠える。台所を吠える。そうやって、ぐるりと部屋を見て回るように、見えない何かに対して吠え続けた。そして、また部屋の出口に向かって犬が唸ると、ダダダダダダダ、と、二階へと誰かが騒々しく駆け上っていく音が響いた。
これにはHさんも仰天した。家に誰か入って来たのかと、慌てて玄関を見に行ったが、鍵はかかったまま。念の為と、一階の窓を見て回ったが、やはり全部がしっかりと戸締りされている。まさか両親のどちらかが、とも思い寝室を覗いてみたが、二人とも熟睡していた。
その後、Hさんは怖くて二階に上がれず、愛犬をずっと抱いてソファーで一晩過ごした。それから日が昇ってから二階を見て回ったが、誰も見当たらず、変わった事もなかった。当然、二階の窓も全て鍵が掛かったままだった。
結局、あの出来事が何だったのか、Hさんには今でも分からないそうだ。ただ、犬には人には見えないモノが見えることがあるのだなとHさんは語っていた。
あれ以来、Hさんの家では時折、誰も居ない二階から駆けずり回る音が響くという。
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