第7話 目覚め

 ルインがスフィアに手を触れた瞬間、スフィアから黒い靄が激しく噴出した。

 レイヴとアーニャは靄の発生源であるスフィアから素早く距離を取ったが、直接手で触れたルインはまるで人形のようにその場から動けなくなっていた。


「ルイン! 大丈夫かルイン!」

「この靄、高濃度のマナを含んでいる。あまりに濃度が高すぎて私達でも視認出来るのね」

「一体この靄の中はどうなっているんだ」

「分からない、けれどルインを早く助けなきゃ」


 その時、ルインは靄のただ中で一人彷徨っていた。


(俺はどうなったんだ……ここは一体、レイヴ、それにアーニャは……)


 レイヴやアーニャの声も届かない暗闇の中で、ルインはとにかく無我夢中でもがいていた。


(くそ……頭がぼんやりして、意識が……)


 今にも意識を失いそうになりながらも、ぎりぎりの所で踏みとどまっていた。

 そんな時、ルインはふと誰かの声が聞こえた気がした。


「我を目覚めさせたのは誰じゃ」


 次に感じたのは頬に触れる手の感触。


「お主答えられぬのか? まあ良い。おかげでこうして新しい肉体が手に入る」


 目を開けるとそこには一人の女性、否、人ならざる者の姿があった。

 頭部からは二本の角が生え、変異した左手はまるで金属のよう、ルビーのように赤い瞳はじっとルインの目を見つめていた。


「ほう、我の姿が見えておるのか。お主マナリアの民じゃな」

「マナ……リア……?」

「知らぬならそれで良い。どうせお主はもう死ぬのじゃ」


 次の瞬間、体内に何かが入ってくるのを感じた。


「お主、名はなんという?」

「ル……ルイン」

「そうかルイン、感謝するぞ。お主のお陰で我は再び自由を取り戻す事が出来た」

「誰、なんだ。お前は……」

「我が名はミレーネ。もっとも人々は我のことをこう呼ぶがな。魔人ミレーネと」

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