第6話 浅葱と漆黒の狂騒曲

 

 モノクロの教室に爆音が響き渡る。

 比喩では無い。

 黒白の色褪せた廊下を、爆炎と共に爆音が埋め尽くした。

 次いで響くは獣の悲鳴。

 蒼く輝く眼の、漆黒の狼が吹き飛んでいる。

 のっぺりとした体表を持つそれはどう見ても生物ではない。


「《焼き尽くせ》《地獄の焔は》《死告となりて》」


 更に爆炎。

 クルスの発動した軍用黒魔術『ボロス・ブラスト』が蒼眼の獣を焼き、再び爆風を以て燼滅する。

 ドサリと落下した狼は、サラサラと砂塵の様に溶け、消え去った。

 跡形も無く消え去ったところを見るに、やはり召喚獣の類だったらしい。


「やれやれ、ワンコは小手調べのつもりなのかな? 次は団体様のおでましとは……」


『ボロス・ブラスト』を再起動しつつボヤくクルス。

 廊下の奥から現れたのはまたしても獣。しかし先ほどの狼などでは無く、人間の子供程もある巨大カマキリに脚が四本生えた鷹、致死性の毒を持つ蜂の混合集団である。

 その全てが滑らかな漆黒の身体と輝く蒼眼を有している。


「やれやれ虚仮威しめ、《我が双腕は燼滅の剛顎》」


 起動していたボロス・ブラストを削除し『烈火の咬牙クリムゾンガルム』を発動。

 三度爆炎。今回は獣どもにではなくクルスへ焔が集まっていく。

 クルスの腕よりも遥かに太い灼炎の双腕が掌底を合わせて悪魔の大顎と成る。開かれた牙が突撃する影の遊軍と衝突する瞬間、閉口。

 熱風と衝撃波が黒白の迷宮を震撼させた。

 クルスが術を解いた時には、炭一つ、塵一つ、獣達の残骸は残っていなかった。

 無論、それはクルスの記憶にすら、だ。というのもクルスの脳内は下手人の凄まじい実力に対する驚嘆に埋め尽くされていたのだ。

 クルスが本校舎に足を踏み入れた瞬間に発動した『輪廻の迷宮』。

 探索途中発見した倒れ臥すエルクレウスと彼の教え子達。

 黒色の獣達を大量に召喚、或いは創造する召喚術の才能。

 そして『輪廻の迷宮』を未だに持続発動させているという事実。

 列挙せずとも理解出来る敵の強大さは、アイザック率いる十魔公クラスといい勝負だ。

 魔術の世界では魔術士の格とは七段階に分けられる。下から順に一魔士アレフ二魔士ベート三魔士ギメル四魔士ダレット五魔士ヘイ六魔士ヴァヴ七魔士ザインとなり、敵に格付けをするならば、最低でも六魔士ヴァヴが妥当だろう。

 そんな怪物があと何人いるというのか。


「さっきウチの教室で倒れてたあの男が脱落してることを考えると、残る敵の数はそう多くは無いハズだ」


 教室内に充満する魔術の痕跡を発見したクルスは、それが転移魔術によるものだと気づいた。

 それが、生徒達を生き延びさせる為に八重歯の男がとった行動であることも。

  術の構築痕から転移先設定を見て理解した。彼は生徒達に情が湧いて生徒達を逃し、始末されたのだと。

 男に多大な感謝を捧げ、クルスは再び疾走し、今に至る。


「探すのは不得意中の不得意なんだけどね……まぁそうも言ってられないし、さっさとアレ・・を使————う必要は無い、みたいだね」


 コツコツと、赴任して以来すっかり聞き慣れた音がクルスの鼓膜を揺らす。

 学園規定の生徒用ローファーが廊下の床材と奏でる軽快なリズム。彼にとってはその音こそ、望んで止まない生徒達の生存の証拠でもある。

 しかし、クルスは足を止めた。

 

「……どういうこと、なのかな?」


 姿を現したのは、彼が救うべき生徒の姿。

 その中でも、ここ最近でクルスの記憶に割と色濃く刻まれた容姿を持つ少女が、漆黒の獣を従えていた。

 クルスからやや離れた位置で立ち止まった少女は、普段より幾分か鋭利な目つきでクルスを睨んだ。


「……やっと、見つけた」

「奇遇だね、僕も生徒君らを探してたんだ。————それで? どういうことなのかな?」

「どういうこと、とは?」

「質問を質問で返すんじゃないよ。何故君がその獣畜生どもを散歩させてるのか、教えてくれないかと聞いてるんだよ————メィドール」

 

 紅眼の少女は疲労感の滲むその顔付きに険を宿し、敵意とも憎悪とも取れる瞳をクルスに向けた。


「……珍しく、お菓子はお持ちじゃないんですね、神父さん」

「……? ああ、持ってきたんだけど、ついさっき魔術の余波で灰にしちゃってね。いやぁ僕もまだまだだなぁ————」

「リリィを、殺すんですか」

「…………」


 その言葉に、クルスのおちゃらけた雰囲気が死滅する。沈黙したクルスから溢れる強烈な、薄気味の悪い気配がメィドールの肌に爪を立てる。

 その一方で、メィドールの発言にクルスも違和感を覚えた。


「……テロリストの、人から聞きました。貴方は、リリィを殺すことでこの事件を解決するつもりだと」

「……狂人風情の言うことを信じたのかい?」

「貴方にそれを言う資格は無いと思いますよ、神父さん」

 

 メィドールはクルスを冷たく一瞥して、ベストのポケットから、漆黒の宝石を取り出した。

 クルスは、それに見覚えがあった。


「魔玉石……そんな物使ってどうする気だい」

「魔力タンクのこれを使ってまでする事なんて、そんなに多くは無いと思うんですが」

 

 メィドールが指を鳴らす。

 彼女の背後から飛来した漆黒の鷹が、小型の、何かのケースをメィドールへ投げ落とす。

 それをキャッチしたメィドールは、中身を取り出しつつ、紅の眼を黒く狂気に濁らせて。


「リリィを殺すなんて……絶対に止める。貴方は此処で死んで。それが一番だよ、神父さん」

 

 浅葱色の髪を獣の咆哮に揺らして、その手に持つ物を振りかざした。

 彼女の背後から、漆黒の獣達が強襲する。

 クルスの命を食い千切らん、引き裂かんと。

 貪食の獣達へ舌打ちを飛ばし、クルスは魔術を行使すべく魔力を高めつつ、メィドールの振る得物を確認した。


「そういや君、ウチのクラスの最優秀生だったっけ……チッ、七面倒な!」

「焦って、ますか? 大丈夫ですよ、落ち着いて。一曲踊ってくれれば、それでいいのよ?」

 

 成績優秀生のみが自身の専用魔装を扱える。普段は登校ついでに事務室へ預けるそうだが、その事務室は本校舎一階に在り、ここは一階廊下。

『輪廻の迷宮』の効果で部屋がランダムで別の部屋に繋がる恐れがあるとはいえ、あのドス黒い漆黒の魔玉石があれば迷宮の効果を貫通して事務室へ侵入出来るだろう。

 そうして手に入れて来たのだろう、彼女の魔装は。


「さあ、踊ってくれます、よね?」


 エメラルドの持ち手に、銀細工がふんだんに施された鋭利な本体を持つ、美麗極まる指揮棒タクトだった。


「くっ……《我が双腕は燼滅の剛顎》ッ!」


 堪らず、高等黒魔術『烈火の咬牙クリムゾンガルム』を詠唱。

 魔装を介さない、クルスの十八番の超越者の御手ニードレス

 爆炎の大顎が飛来、跳躍して襲い来る獣達を一気に消滅させる。しかし、恐ろしきは数の暴力。

 先行した狼達にクルスが気を取られているうちに、カマキリや鷹が攻め込んで来る。


「妙に計画的な動きをする……そういえば彼女の家は」

「ほら、まだまだ、だよ? 神父さん」

「しつこいなぁ……! 《我が五指は紅蓮の牙》!」


 黒魔術『サタンズ・ネイル』を発動し、飛来する漆黒の獣達を燃え盛る悪魔の巨腕を振るって迎撃する。

 クルスが焦燥を露わにしているのは、メィドールの才能を見誤ったからだ。

 彼女の、インターセプトの一族には代々受け継がれる固有魔術が存在する。それはインターセプトの家系に生まれる者の特徴である『白魔術との高い親和性』を持ってして初めて使い熟すことの出来る魔術で、精神干渉系の魔術であることだけが知られている。

 だが、術の継承は次期当主が五魔士ヘイ相当の実力を得てからではなかったか。

 

「何故だ? 何故、既に継承を終えているんだッ?」

「継承なんて、やってませんよ? これは魔玉石有りきの、このタクトの特殊付呪メティスエンチャントだから」

「《焼き尽くせ》《地獄の焔は死告と成りて》! 成る程ね! それなら無詠唱なのも納得だよ、学生の君に多重起動マルチ・インヴォーク詠唱破棄ゼロ・リピートが出来てたまるもんか。あれは真の意味で高等技術だからね!」


『ボロス・ブラスト』で黒獣達を薙ぎ払い、インファイトで殴打し、蹴飛ばす。

 メティスエンチャント。魔装に元々備わっている永続付呪エンチャントのことだ。

 おそらく、メィドールのタクトは黒獣に司令塔宜しく、様々な命令を下せるような効果が有るのだろう。

 

(なら尚のことマズい……存外狡猾だなメィドール!)


 数多の黒獣達を焦りながらも捌き続けるクルスが焦る理由はただ一つ。

 メィドールが耐久戦を仕掛けているのが見え透いているからだ。

 クルスの魔力量は、常日頃から一日中菓子を浮遊させているだけあって凄まじく多い。

 しかし、この黒獣達が妙に耐久性があるせいで、一体につき二発は高等魔術を行使しなければならない。

 そもそもとして、城攻めや一対多の状況下において使用される範囲殲滅呪文『ボロス・ブラスト』を二、三発食らわなければ倒れないこの黒獣達が異常なのだ。ボロス・ブラストは爆炎と爆風で頑丈なアダマンタイト性フルプレートアーマーすら塵も残さず焼き尽くす。

 現状、四魔士ダレット以上の魔術士が使える黒魔術としてはトップクラスの破壊力を誇る術である。

 当然強力な魔術だけあって、消費する魔力量は尋常ではない。クルスの魔力量だからこそ、連発が可能なのである。『烈火の咬牙』や『サタンズ・ネイル』にしても同じことで、寧ろ未だ消耗症ロスト・シンドロームになっていないクルスが驚異的なのだ。

 

「ぐっ……このままじゃジリ貧必至だなぁ…………」

「神父さん、授業の時言ってましたよね。相手が弱るまで全力出すな、って。大分弱ってきたみたいだし、全力で、いくよ?」

「……今更ながら、余計なこと教えたもんだなぁ、僕」


 メィドールがタクトを一振りした途端、黒獣達の動きが熾烈になる。

 堪らず『ボロス・ブラスト』や『サタンズ・ネイル』で応戦するクルスに、爆音と獣の唸りを度外視して流れ込んだ音色があった。

 

「《我は戯曲の指揮者なり》《賛美せよ》《称賛せよ》《我は此方こなたに今一度》《始まりのうたを奏でよう》」

「なん、だ? その呪文は……?」


 それはクルスの知らない、始まりの歌プレリュード

 ゆっくりと、歌う様に、唄う様に、詠う様に。

 少女特有の澄んだ高音が紡ぐ呪文は、まるで心を癒す音色の如く。

 為そうとしている結末を裏切る様な、優しい、癒しの音色。


「《終焉の幕開けを傾聴せよ》————」

「固有魔術だと……ぐっ」


 黒獣の排除に手一杯のクルスには、その魔術を止める術が無い。

 そして、終曲。最後の句がげられた。


「————《其処に汝の》《黄泉路のしるべを識るがいい》」


 それは始まりの歌。

 クルスにとっての、終焉終わり開闢始まり

 溢れる輝き、幻想の音色。

 メィドールから溢れる浅葱色の光の粒子が幾百もの五線譜の形を取り、黒獣達へ流れ込んでいく。


「クライマックスは、すぐそこよ」

 

 冷淡に告げられた号令に、黒獣達がより一層奮起する。固有魔術によって凄まじい強化を施されたらしい。強化の魔術士は味方ならば心強いが、敵に回った途端下手な攻勢魔術士よりも厄介な存在となる。

 クルスの脳裏に天才という言葉が雷光の様に過る。大抵の魔術士が一生かけても辿り着けない、魔術の極致。

 そこに至ったのだ。この少女は。

 勿論、魔玉石という外的要因も存在する。

 然しだ。クルスは授業にて固有魔術をこう言い換えた。「自身の心に刻まれた『何か』を顕現させる」術だと。それはつまり、魂に染み付く程の強烈な感情の顕れだ。

 授業でちらと教えただけで、到達し得るものでは断じて無い。

 何たる才能。何たる非凡。しかし————。


(この場合、彼女が固有魔術を完成させるにあたって抱いたのは……恐らく『憤怒』か『憎悪』なんじゃないか? だとしたら……心の顕れである固有魔術があんな歌になるものか?)


 爆炎。爆風。爆裂。爆熱。

 最も高威力の『焔』の魔術で迫り来る獣を焼き払う。

 黒獣の数が目に見えて減っていく。無論、クルスの魔力もだ。


「なら、こうするだけ」

「……な!? 何を?!」

 

 メィドールが歩き出す。

 見据える先、行き着く先は一つだけ。

 クルスと漆黒の獣達の騒乱の最中である。

 クルスからすればこれは致命的。『焔』の魔術が使えないからだ。使えばメィドールを巻き込むことは必定、そして焔が封じられたことによる火力の低下。

 メィドールが一歩近づく度、クルスが死に一歩近づくのだ。


「くっ、《力天使の加護あれ》!」

「………………」


 格闘に切り替え、己の肉体に『ゼルエルズ・ブレス』で力の天使の加護をかけ、強化する。


「ぐがっ、ふうっ、づァ……!」

「………………」


 されど、捌き切れない獣の爪牙が着実にクルスを刻んでいく。

 重なる拳打、風切る蹴脚。


「ぎっ……がああぁ……!!」

「………………」


 擦り減る命、消え行く黒色。


「……!…………!!」

 

 最後の黒が、消え去る。

 獣の唸りが、消失する。

 然し、これはプレリュード終わりではなく


終止符ピリオド、よ」


 ——————ずぶり。

 

「……あぁ? ——————やれやれ」

 

 クルスは、無感情に自身の現状を呑み下した。

 心臓に、銀のタクトが突き刺さっている。

 死の秒読みが、始まった。


「どうでした? 神父さん。私の、曲は」

「いいんじゃ……ぐふァ、ないかい……? がふっ」

「そう。あんまり、嬉しくはない、わね」


 メィドールがタクトを引き抜く。

 否。

 抜こうとした・・・・・・


「なっ……!?」

「————ゲフッ。ははっ、やっと、顔色が良くなったね……先生安心したよ」

 

 クルスがメィドールの細腕を握り締めている。

 未だ動くのか、と暴れ始めるメィドールの額に人差し指を突き付け。

 クルスは、嗜める様に改変された黒魔術『フォース・ダイング』を唱えた。


「《戻りゃんせ》」

 

 メィドールの額に、クルスの指先を中心に魔法陣が出現、回転しつつ縮小し、そして————


「…………よく、分かりましたね、先生・・

「まぁ、ね。固有魔術があんなに綺麗なのに、外面が憎しみに満ちてるなんて……とてもじゃないけど、可笑しいと、思った、から、ね」

 

 閉じた瞼を持ち上げ、紅い瞳でメィドールが呟く。

 ふらりと倒れそうになるメィドールを抱きしめる様にしてクルスが支え、座り込む。

 魔玉石があったとはいえ、流石に固有魔術は魂と肉体の両方に相当な負担をかけたのだろう。

 心臓にタクトが刺さったままのクルスは尚更だ。


「ごめんなさい、ごめんなさい、私は……私はぁ……!!」

 

 メィドールのおとがいを二つの水滴が尾を引いて濡らす。

 華奢な肩が、小刻みに震えていく。

 その涙の意味は、謝罪と自責。

 メィドールは、何らかの白魔術による洗脳を受けていた。

 クルスがそれに気づいたのは固有魔術とメィドールの表情のミスマッチによる違和感からだった。

 クルスのことを「先生」と呼ばず「神父さん」と呼んでいたり、菓子を持っていないことを聞いてきたことも、クルスに不信感を与えるキッカケとなった。

 洗脳を受けてクルスを攻撃していた間も、本来の人格は心の何処かで見ていたのだろう。

 罪悪感と人を傷付けることの恐ろしさに感情が決壊し、メィドールは紅い眼を腫らして泣いていた。


「ぅう……ひっく……ぁあぁぁあ……」


 クルスは右手でメィドールの左手を突き刺さったままのタクトから外し、タクトを引き抜いて、より強くメィドールを抱き締めた。

 

「な、何を……?」


 メィドールを左腕で抱いたまま、クルスは血濡れた口角を薄っすらと持ち上げて微笑んだ。

 それはクルスがこの学園で始めて他人に見せた、純粋な笑顔だった。

 細まった目元、優しさを湛え弧を描く口元。

 安堵に緩んだ唇が囁きを漏らした。


「良かっ、た……無事で、良かった……」

「————!! っ、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「良いんだよ、君、は、何も悪くない、さ。あーいや、強いて言う、なら、才能あり過ぎだよ、君……」


 クルスはメィドールの頭を、彼女が落ち着くまで撫でていた。

 慈愛を籠めて淑やかに。

 抱き締められた瞬間メィドールの手の内から転げ出した魔玉石を回収して、ちゃっかり治療するのも忘れない。

 やがて、ポツリとクルスが語り出す。


「本当はね、今朝学園に来る途中までは、リリィを殺してでも解決するつもりだったんだよ」


 腕の中で、若干メィドールが身体を強張らせたのが分かった。

 クルスは微笑みを浮かべたまま続けた。


「でもさ……そんなの、無理だよ。だってあの娘、何も悪いことしてないだろ? それどころか正義の魔術を再現したいとか言うんだよ? しかもそれでお菓子も好きなんだよ? …………どうやって殺せっていうのさ」

「……あはは、先生には、難易度高過ぎました、ね?」

「高いどころか、不可能だよ……気づいたんだ」

「何に、ですか?」


 クルスはクスリと満面の笑みで笑った。


「僕は君達生徒にとっての英雄、つまり————『先生』で居たいんだなってことに、さ」

「……! そう、ですか」


 見たことの無いクルスの満開の笑顔に、思わずどきりとするメィドール。

 感じたことの無い感情に混乱しつつも、何とか心を安定させる。

 然し数秒後、クルスが「術式改変教えるの来週で助かった」などと考えていると唐突に、弾かれたように顔を上げた。

 見開いた瞳は、今度は不安で潤んでいた。


「……? どうしたの?」

 

 クルスが普段の無表情に戻ってしまったことを気にかける余裕も無く、メィドールは叫んだ。


「お願いです、先生……! リリィを、助けて!」






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る