エピローグ-A

 ツチノコとスナネコが、過去のキョウシュウから帰還して一週間ほど後のこと。既にクロユキとの再会を果たし、コイントスでスナネコの運命が決した後のことだ。


「なぁ、スナネコ」


「どうかしましたか?」


「俺たちがキョウシュウに戻っちまったのは、結局なんだったんだろうな」


「さぁ・・・不思議でしたねぇ」


 不思議だったのは、過去に戻ってしまっただけではない。普通に登って、頂上まで行けたはずの石階段が本当は崩れていたということ。他のフレンズに訊いたら、ずっと昔からそうだったらしい。


 後は、キョウシュウに行く前と後でゴコクは約三ヶ月の時が過ぎていたこと。


 後から聞いた話だと、その時間差のせいでクロが自分たちを見つけるのに酷く時間がかかったそうだ。


 スナネコたちとクロ自身は知らないことだが、本来は初日でも追いつくようなペースでクロは動いていたのだ。スナネコが座り心地よさそうと言った切り株に、クロも座っていた。森の中でカメレオンに会う少し前の話だ。


「三ヶ月間、俺たちはどこに居たんだろうな?」


「さぁ〜、不思議でしたねぇ」


(さっきと同じこと言ってる・・・)





 クロと別れてからすぐにゴコクを出たわけではない。その後も少しだけゴコクを旅しているのだ。


 その中で、出会ったフレンズがいる。


 森の中のオブジェクトを見ようと、木が密集する間に作られた道を歩いていた時に出会ったのだ。二人並んで歩いていたら、後ろから背中を叩かれた。


「もしかして、スナネコ殿とツチノコ殿でござるか?」


 ござる口調の彼女は、ツチノコとスナネコにも見覚えがある姿をしていた。


 パンサーカメレオンのフレンズ。


 しかし、キョウシュウに居た彼女とは違う個体らしい。


「ええと、クロユキ君が探していたでござるよ!」


 との事なので、事情を説明した。もう既に再会して、フッたことなどだ。そうすると、カメレオンは触れにくい話題にしてしまったと気まずそうな顔をしていたが、もっとそのお話について聞いてみたいというので彼女の家を訪ねることになった。


 古い、木造の小屋だった。


「おかえり・・・おや、その子達は?」


 そう出迎えたのは、なかなか歳をとった男性。ミチオという名前らしい。この島に男がいたことにツチノコとスナネコはおどろいたが、彼はもう島で長いこと暮らしているそうで、オスとして物珍しい目線を向けられることに慣れていた。


「この間のクロユキ君が探していた子達でござる、せっかくだからお話したいな〜、なんて」


「ほう・・・?お客さんなんて久しぶりだな、ゆっくりしていってくれ」


 と、ミチオも笑顔で出迎えてくれた。


 カメレオンに、スナネコとツチノコの話をし終えた後、ツチノコはカメレオン達の事情を聞きたがった。どうしてここで男と暮らしてるのかが気になったのだ。薬指にはまっている指輪が目に入ったからだ。


「拙者は、ずっとずぅっと昔からこの体で・・・まだ、パークが運営していた頃でござるな」


 このカメレオンは、とても昔のパークを知っている。フレンズのため見た目は若いが、年齢でいえばミチオよりも上らしい。


 しかし、フレンズには世代交代というものが存在する。通常の生物のそれとは違うが、簡潔にいえばそれは死だ。フレンズとて生き物、死は必ずやってくる。


「なんで拙者が世代交代しないか、でござるか?それが不思議で、全然世代交代の気配がないのでござるよ」


 本人によれば、そうらしい。ツチノコはその後も、昔のパークについて質問したりなんだりと思いのほか会話は弾んだ。


「また、いつでも来てくれていいでござるよ!」


「ああ、もう次のエリアに行くからまた来れるかはわからないが・・・その時は邪魔するよ」


「あなた達といると飽きませんでした、またお話しましょう?」


 そんなやり取りをして、ツチノコとスナネコは彼女らと別れた。


「さて、スナネコ。今日の寝床を探すぞ」


「泊めてもらえばよかったですねぇ、ふぁぁ・・・」


「そんな図々しいことできるか!全く・・・」


 そんな話をしながら歩いた。その間、ツチノコは先程のカメレオンについて考える。それと同時に、カコが何気なく教えてくれたことを思い出していた。


(カコが言ってたな・・・“愛の輝き”とやらが実在するなら、あのカメレオンのことも不思議じゃない。やっぱり実在すると考えてもいいのか・・・?)


 またひとつ、学ぶことがあった。


「そろそろゴコクともお別れだな・・・また来れたら来るか?」


「ボクはここ気に入りました、また来ましょう?」


 そんな会話をしながら、今日の寝床を探した。

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