中編-2

「クロ、そろそろ朝だぞ」


「ううん・・・おはようバリーさん」


「大事な人のことを想うのはいいが、夜はしっかり寝ろ」


「努力するよ・・・」


 クロがゴコクの旅を始めて、数回目の朝。バギーで進んでいることもあり、もう島の名所を巡る旅の中間地点を通り過ぎた。出会うフレンズからスナネコ達の情報を集めながら道を進むも、二日目から全く情報が入ってこない。


「バリーさん、もうスナ姉たちを追い越しちゃったと思う?」


 心配になったクロは、身支度の途中でバリーに問いかけた。


「私はこの島で長く生きてるが、この速さで島を回ったのに追いつかないのはどうもおかしいと思う」


 やはりどこかで追い越してしまったのかと、クロが肩を落とす。しかし、バリーは言葉を付け足した。


「だが、この道で見落とすのもおかしい。私たちが通っている道以外だと、とても遠回りになるか、すごい険しい道を行くかしかないしな。鳥のフレンズに運んでもらってるとすれば、話は別だが・・・」


 しかし、今までの聞き込みで鳥のフレンズからの情報は出ていない。ましてや、空は目立つので一人ぐらいは目撃していてもおかしくないのだ。


「じゃあ、スナ姉たちはどこに・・・?」


「それがわかったら苦労しない。しかし、妙だな?神隠しのようで・・・」


 バリーがその言葉を呟いてから、ハッとする。首を傾け、唇に指を置いてから思いついたように続けて呟く。


「神、か・・・」


「神?」


「とても頼りになるフレンズを知ってるって話だ」


「?」





 また数日後、もう少しで島を一周してしまうという頃。クロの焦りも強くなっていたが、ここを出た船はいないという報せを聞いてホッと胸をなでおろした。


 まだスナ姉とツチ姉はこの島にいる。


 それが知れただけでも、絶望感は和らいだ。もう少しで一周、仮に追い越してしまっていたとしても逆回りすれば出会える可能性がある。そんな時に、立ち寄った場所があった。


「わっ、すごい石階段・・・」


「ここも地図に印があった場所だ。そして、前に話した頼りになるフレンズがいる場所」


「バリーさんが他のフレンズを頼るなんてあるの?」


「そりゃあるさ。いや、今から紹介するお方に力を借りたことはないが・・・」


 バリーは笑いながら階段をひょいひょい登っていく。クロも途中まではそのペースについていけたが、あまりに長い階段にバテていた。結果、頂上への到達はバリーに大きく遅れることになった。


「全く、情けないな」


「バリーさんが速すぎるだけだよ」


 そんな話をしながらたどり着いた場所。大きな鳥居、和風な建物。


「ええと、ジャパリ神社?」


「ほう、そんな名前があったのか。よし、行くぞ」


 神社というのは、本来正しい作法で歩まねばならない。神への敬意を忘れてはならないのだ。しかし、そのようなヒトの文化は既に失われてしまい、何も知らないフレンズはズカズカとそこを歩く。バリーも例外ではなかった。


 横に広い道を歩くと、正面の建物の真ん前に着く。入口の前に、賽銭箱と大きな鈴が置かれている。バリーはそれを無視して、建物の入口へと近づいて行った。


「バリーさん、それってあんまり良くないんじゃ・・・」


「そうか?そうかもな」


 クロが堂々としたバリーわ軽く咎めるが、ハハハと笑ってかわされてしまった。すると、カラカラカラと正面の障子がゆっくり開く。バリーが開けたわけでも、クロが開けたわけでもない。内側にいる人物が開いたのだ。


「はぁ・・・何の用ですか?」


 そう、声が聞こえた。二人の前に立っているフレンズは、白い服、白い髪。ついでに尻尾も獣耳も白い。


「オイナリサマ、少し力を貸してくれないか?」


「全く、毎回毎回ズカズカと・・・」


 困った様子のオイナリサマと呼ばれた彼女。バリーに対応するなかで、何度もため息をついてからクロの方に向き直った。そして、パッと顔を明るくする。


「こほん。商売繁盛、福徳開運、食べ物に困らず、みなが笑顔でいられるように・・・ジャパリパーク守護けものが一柱、オイナリです。見苦しいところをお見せしました、今日は何の用ですか?」


 そのにこやかでフレンドリーな様子に、クロの幼い頃の記憶が掘り返される。


「えと、もしかして、昔お会いしたことがありませんか?」


「ええ。あなたが小さい頃に、一度だけお会いしました」


 実はこのクロとオイナリ、十年近く前に顔を合わせたことがある。その時は、シロの灰になった心をどうにかするべくオイナリが力を貸したのだった。オイナリがその簡単な説明をした後、クロに笑顔で問う。


「その後、あなた達一家は上手くいってますか?」


「お陰様で、楽しくやれてます。でも・・・」


「でも?」


 クロは、今回ゴコクに来た理由を説明した。スナネコと愛し合う関係になったこと、それなのにスナネコが別れも告げずにゴコクに来てしまったこと、それを追いかけていること。


「ここにも来てませんか?」


「ええ、ここにも・・・そうですか、あなたがツチノコたちを追って・・・」


「? どうしたんですか?」


「いえ、『繋がり』とは面白いものだなと思いまして。あの頃はツチノコがあなたのためにお百度参りをしに来たのに・・・申し訳ありませんが、私もお力添えすることはできませんね・・・ここに来たら引き止めておきましょう」


「そうですか、ありがとうございます」


 クロがとオイナリだけで話を終えてしまうと、バリーが横からクロに話しかけた。


「すまんな、少しは進展するかと思ったんだが」


「いやいや、仕方ないよ。ありがとうございますオイナリサマ、僕達はこれで・・・」


「では、失礼した」


 そう言い残して、神社を出る。オイナリサマは笑顔で見送ってくれたが、最後にバリーに向かって


「次は障子を開けに来ないよう」


 と注意していた。





 その次の日。島を一周し終えた。


「さて、どうするんだ?逆回りするか?港で待つか?」


「僕はスナ姉に会いたいんだ、逆回りするよ!バリーさん、もう少し付き合ってくれるかな?」


「もちろん」


 その後も、クロの旅は続いた。島に顔見知りも増えて、各地でスナネコとツチノコを見たら引き留めてくれると言うフレンズも増えた。その情報が入ったら、クロに知らせてくれるという鳥のフレンズもいた。


 それでも、情報は入ってこない。


 そのまま、二ヶ月が過ぎた。

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