中編-1
僕はクロユキ、みんなはクロって呼ぶ・・・
「クロユキ、夜はどうするつもりなんだ?」
んだけど、そのまま呼んでくれる人もいる。
バギーを走らせながら、クロは後ろに乗っている人の質問に答える。
「僕は寝袋があるけど・・・」
正確には人ではなくフレンズ。先程、密林でクロと出会った・・・
「バリーさんはいつもどうしてるの?」
「私か?寝心地が良さそうなところで、適当に寝てるぞ」
バリーさんこと、バーバリライオンのフレンズ。クロの、スナネコを探す旅に同行して手助けしてくれることになり、こうしてクロの運転するバギーに乗っかっているのだ。
ちなみに、かつてこのバギーの持ち主であったシロは、人を乗せる時落ちないように自分の体に抱きつかせていた。というと、フレンズに抱きついてもらいたい邪な男のようになってしまうが、安全のためにそのような姿勢になることが多かった。「抱きつけ!」と言っていたわけではない。
クロもその点が不安ではあったが、バリーは驚異的な筋力やバランス感覚で、振り落とされることなく平然と後向きに乗っていた。足をぶらりと投げ出し、自転車の二人乗りのように気楽そうである。クロもバリーも、自転車なんて乗ったことはないが。
「ところで、『夜はどうする』って寝る話だけじゃないぞ?暗くなってからも歩を進めるのか?」
「うーん、スナ姉たちも夜は寝てるだろうし・・・急ぎすぎて怪我してもよくないから夜はおとなしくするつもりだよ」
クロは先程のバギー横転から、焦りは禁物と学んだ。
「それがいい、夜は真っ暗になるからな」
そんな会話をする二人を乗せて、バギーは走っていく。
「次に向かうのはどこなんだ?」
「ええと、この地図では・・・ここ」
バギーから降りて休憩している途中、クロがバリーに地図を見せた。ツチノコが残していったもので、スナネコとツチノコで回る予定の場所が赤く示してある。
「おお、これはこの島か?面白いな、ちょっと見せてくれ」
バリーは、ふりふりと尻尾を振りながらクロから地図を受け取る。フレンズには新鮮なもののようで、物珍しそうにそれを眺めていた。彼女もフレンズとして賢い部類に入るのか、既にそれが何を示すのか理解出来ているようだ。
「この丸いのは、へんなのが置いてある場所か?」
「へんなの?」
「ああ。フレンズの形の石とか、面白いものがある場所じゃないか?」
ツチノコの記した赤丸は、ほとんどが観光ガイドブックに載るような観光スポットだった。そのため、島のことをよく理解している彼女にはその名所の印だと思われたのだろう。クロは若干違うということを説明する。
「僕が探してるスナ姉とツチ姉が行く場所みたいなんだ。ツチ姉はそういうのが好きだから、多分そうだと思う」
「ほう・・・でも、ここは変だな」
バリーは、赤丸のひとつを指しながら呟くように話す。内陸部の印で、観光パンフレット等によれば展望台として、島中を見渡せる上に海を挟んで隣のキョウシュウエリアまで目にすることが出来る場所のようだ。
「ここ?」
「ああ。ここに、坂を登りやすいように石が並べられてるんだが、途中でそれが崩れてるんだ。だから、それ以上登れない。その先に何があるのかは私も知らないが・・・」
つまり、そこには石の階段があるらしい。しかし、登れない。ツチノコとスナネコも、その事がわかればその場所はスルーするだろう。バリーが付け加えた話によれば、階段を登る前から崩れてるのが見えているらしい。
「なるほどね、じゃあここは通り過ぎるだけにした方が効率がいいか・・・ありがとう、バリーさん」
「例には及ばない、それより先を急いだ方がいいだろう」
「そうだね、そうしようか」
そう言いながらクロはバギーに飛び乗る。バリーもその後ろに座り、派手なエンジン音を鳴らしながらまた二人は移動を始めた。
その後、例の石階段にたどり着いた。階段にフレンズが居ないことと、奥の方が崩れて進めなくなっているのをバギーから確認して、そこは通り過ぎた。
「そろそろ、暗くなるぞ」
「うん、寝床を探さなきゃ」
「ボスからジャパリまんも貰わなきゃな」
今日会ったばかりなのに、二人はやけに親しく会話ができた。バリーが「君とは種族も違うのに懐かしい感じがする」と言ったように、二人とも既にそこそこの時間を共にした友人のようだった。
その後、いい寝床を見つけ、ラッキービーストからジャパリまんを受け取り、なんてしているうちに日が暮れた。
「よっと」
クロがランタンを木に吊るして、狭いながらも明かりを取れる場所をつくる。バリーはまたしてもそれを物珍しそうに見ていたが、そこまでの驚きは見せなかった。
「さて、ごはんにしようかな」
「そうだな、私も腹が減った」
二人で地べたに座り込み、ジャパリまんの紙包みを開ける。そのままパクパクと食べ始める。
「クロが探す、スナネコってどんなやつなんだ?」
「スナ姉?優しくて、掴みどころがないって感じもするんだけど・・・」
バリーに訊かれて、クロがスナネコの人物像を話し出す。最初は、接した人ならそういう印象を受けるだろうというところからだったのだが、やがてそれはエスカレートしていく。
「普段は無表情なんだけど、僕の前ではいろんな顔を見せてくれたり、スナ姉のおかげで僕は心の傷を乗り越えられたし!それで・・・!」
バリーの目の前だということも忘れて
「・・・コホン」
「あとは・・・あ、いや、えっと・・・」
バリーの咳払いに、クロもやっと正気に戻る。顔を赤くして、「そんな感じ・・・」と弱々しく呟いていたのでバリーもついフォローを入れてしまった。
「大好きなんだな?」
むしろ恥ずかしさを強くしたが、クロは素直に頷いた。
「私にはよくわからんな・・・」
「え?なんて?」
「いや、なんでもない」
そのうちに食事も終わった。その後も談笑を楽しんでいたのだが、そのうちにバリーがクロの荷物に目をつけた。
「それは?」
そう指さしたのはギター。
「ギターって言って、こういう風に使うんだ」
それを手に取り、バリーの前でジャランと鳴らして見せるクロ。バリーはそれも物珍しそうに見る。やはり、ヒトの持つものというのはフレンズにとっては珍しいものばかりなのだ。
「もっと聴かせてくれないか?」
バリーがそういうので、クロはその場で一曲弾くことにした。
「それじゃあ、聴いてください・・・『ぼくのフレンド』」
スナネコとクロが二人で作った曲。元々はスナネコの鼻歌とクロが自分でかいた曲を組み合わせたもの。本来は歌がつく、クロは弾き語りも出来るのでもちろん歌える。しかし、この曲に限ってはボーカルが決まっているのだ。
(スナ姉、今どうしてるの?どこにいるの?会いたいよ・・・)
その一曲が終わる頃には、クロの目から静かに液体が流れていた。透明でしょっぱい、涙とかいうやつだ。
バリーはその涙に気がつく様子はなく、笑った顔でぱちぱちと手を鳴らしていた。
「ありがとう、また時々聴かせてくれ」
そう礼を言ったあとに、大きくあくびをしてから言葉を続ける。
「私はそろそろ寝るかな、その辺に寝てるから、何かあったら呼んでくれ」
「うん、おやすみ」
「・・・おやすみ?」
そうして、バリーは草むらに入っていき、その姿が見えなくなる。クロも寝袋を広げ、ランタンを回収してからその中に潜り込んだ。
(スナ姉、すぐ追いつくからね)
そう心の中で呟いて、クロは目を閉じた。
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