中編-2
「ツチノコ・・・どうしたのですかぁ?ボクまだ体がキツいです」
ツチノコがスナネコの手を引いて湖畔から砂漠に逃げ帰ってきて数分後。スナネコは珍しく息を上げながらツチノコに問いかけた。
「あ、えっと・・・それはすまん」
ツチノコは猫騙しを食らったような顔をして、素直にスナネコに謝る。それに続けて、人差し指をピッとスナネコの顔に伸ばし、次の言葉を放った。
「でもお前、今どういう状況かわかってるのか?」
「ボク達が何故かキョウシュウに帰ってきてしまった、ではないのですか?」
「それはそうなんだが、それだけじゃない」
ツチノコはフーとため息をついて、少し方向の違う話題を切り出す。
「スナネコ、お前、図書館に行きたいか?」
「はい?」
「まぁ行きたいでも行きたくないでも・・・ガッカリする報せだと思うが話してもいいか?」
「はい」
ツチノコの脳内では、キョウシュウに帰ってきてからの不思議な出来事を繋ぎ合わせてひとつの結論に辿り着いていた。
砂嵐の中で、スナネコの声が二つ聞こえたこと。
建てられた形跡のないログハウス。
山に残る戦闘機。
これらだけでの判断は、多少早い気もしたが全てを自然にさせる回答がある。あまりに非現実的で、ツチノコとしては未だに信じ難い気持ちもあったが、これ以外は思いつかなかった。
「スナネコ、タイムスリップって知ってるか?」
ツチノコが真剣な表情で問う。しかし、スナネコはいつも通りのぼーっとした顔で素っ頓狂な声を出した。
「たいむすりっぷ?」
「そうだ。多分、このキョウシュウにはシロのやつがいない。なぜなら、アイツが来る前だからだ」
「・・・」
「それどころか、あの黒いセルリアンの騒ぎも起こってない」
「と、いうと?」
「ココは、俺たちから見たら過去・・・ずっと昨日のキョウシュウなんだ。答え合わせしてみるか?」
スナネコがどういうことだか飲み込めてないまま、ツチノコはスナネコをおぶる姿勢をとる。スナネコは素直にそれに乗っかり、ツチノコに行先を任せた。
ツチノコとスナネコはまた湖畔に帰ってきた。しかし、二人とも息を殺している。ツチノコは自ら、スナネコはツチノコに釘を刺されたからだ。そして今、草むらでコソコソしている。
「ツチノコ、何が見れるんですか?」
「かばんだ。まだカバンを背負ってる頃の・・・な」
草木の影から、湖畔の様子を見る。そこには数人のフレンズ。
一人は、小枝でログハウスの模型を作っている。
一人は、大量に穴を掘っている。
そして、その間を行ったきたりしている二人組。
ツチノコはそれを見て自分の考えが確かだと確信した。
「プレーリーは上手くいったかな?」
そう喋るのは黄色い猫のフレンズ。スナネコは金色に近いが、彼女はより黄色に近い。大きな耳と、髪の真ん中の「M」のような模様が特徴的だ。
「おお、サーバルですね」
「シッ!静かにしろ!・・・というか、そっちか?」
そして、そのサーバルをついて行くフレンズ。帽子を被り、カバンを背負っている彼女・・・
「ツチノコ、ボク、自分の家に帰りたいです」
「いや、それはこの時代のお前に出くわすからやめておいた方が・・・」
「今のボクはツチノコに会いに行ってるはずです。帰りましょう」
「お、おう・・・」
スナネコはすくっと立ち上がり、湖畔に背を向ける。さっきまで「疲れた」「だるい」「体が重い」と言っていたのに、そんな様子は微塵も感じられないような速度で歩き始めた。ツチノコもわたわたとそれを追った。
砂漠の地下にはバイパスが通っている。通路としても使用できるし、ツチノコが活動の拠点としていた地下迷宮にも入ることができる。彼女自身は「遺跡」と呼んでいたが。
そんな薄暗い場所を、二人は通っていた。
しかし、ツチノコとスナネコの二人ではない。
「ぐぬぬぅ、帽子泥棒はどこにいるのだぁ!?」
「アライさ〜ん、焦っても仕方ないよー?少し私のお家で休んでいこうかー?」
「フェネックのお家なのだ!?久々なのだ!」
「休憩は大事だからね〜、それで夜にまた出発すればいいよー」
片方はアライさんことアライグマのフレンズ。その隣を歩くのが、相棒のフェネック。
「それにしても『いせき』はすごかったねー、ツチノコがいなかったら迷ってたよー」
「フェネックでも迷うことがあるのか!?」
「アライさーん、さすがに太陽も星もないのに方角がわかったりはしないよ〜?」
「アライさんはお日様がいてもお星様がいても迷うのだ!やっぱりフェネックはすごいのだ!」
「どもどもありがとー」
バイパスなのでやたら声が響く。出口はまだ遠そうだった。
「バイパスの入口を見るのも久しぶりだな」
「おお〜、ここからは楽ちんですね」
「そうだな、ここを通れば涼しいし」
そんな話をしながら、スナネコとツチノコもバイパスに足を踏み入れた。
そして、当然のように二組は出会う。一本道で音の響くバイパスだ、どんなに暗くたって自分たち以外の存在には気がつくだろう。ましてや、フェネックは非常に耳がいいし、ツチノコはピット器官で暗くても自分以外の生物が見れる。
まず、相手の存在に気がついたのはフェネックとアライグマだった。
「おや?私たち以外にも誰かいるみたいだね〜」
「ほんとなのだ!?やっぱりフェネックはすごいのだ!」
フェネックのちょーかわいいお耳にはきっちりとツチノコとスナネコの出す音が聴こえていた。アライグマにはまだ聴こえないらしいが、いずれ彼女にもその存在が確認できるようになる。
そして、そのアライグマの声でツチノコとスナネコが気がついた。顔を見合わせて、小声で会話する。
「ままままずい!隠れるぞ!」
「何がまずいのですかぁ?」
「あんまり過去には干渉しない方がいいんだよッ!タイムパラドックスとか何とかが起きるかもしれない!」
ちなみに、ツチノコがタイムパラドックスなんてSFなワードを知っているのはシロやナリユキの影響である。
「よくわかりませんが、隠れる場所もないですよ?あきらめましょう」
「はああああ!?く、どうすれば・・・」
小声での会話ではあったが、遠くにいるフェネックはその会話をバッチリ聞いていた。声から、先程まで一緒にいたツチノコとスナネコであることを悟る。
「うーん?なんで先回りされてるんだろー?」
「ふぇ?なんか言ったのだ?」
「いやいやー、なんでもないよー?」
アライグマにはそう答えたが、フェネックは賢い頭脳を回転させた。聞こえた会話の内容も妙だったので、どうも気になったのだ。
ツチノコとスナネコはどうにか隠れようと、前に進むのをやめて立ち往生していたが、フェネックとアライグマは着実に歩を進めていった。当然距離は縮まり、やがてゼロになる。
「お!?誰かいるのだ!」
「こんにちは〜」
アライグマは好奇心丸出しで、出会ったフレンズに近づく。フェネックも別の好奇心をもって、挨拶をした。
そして、その二人と対面するのは一人のフレンズ。青い髪で、ノースリーブのパーカーのポケットに手を突っ込んでいる。そして、その頭には金色の獣耳。
「こ、こんにちは・・・」
ツチノコが、フェネックに挨拶を返す。後ろに隠れているスナネコがバレないかと冷や汗が凄いことになっていた。
どういう状況か、整理しよう。図に表せば、こんな感じである。
────────
♣︎♤ ♢
♥
────────
♣︎・・・スナネコ
♤・・・ツチノコ
♢・・・アライグマ
♥・・・フェネック
─・・・壁
そう。スナネコはツチノコの後ろに隠れているだけである。結果、アライグマとフェネックの目の前に現れたのは、フードなし ポニテ ノースリーブのツチノコに猫耳が着いたフレンズである。
「見たことないフレンズなのだ!お前はなんのフレンズなのだ!?」
アライグマにはバレてないようである。しかし、フェネックはアライグマの一歩後ろでニヤニヤしている。
「ツチ・・・ネコ」
「あれー、よく聞こえなかったな〜?もう一回言ってくれる〜?」
「みっ、見ればわかるだろ!ツチネコだよッ!!」
アライグマが「おおー」と目を輝かせている横で、フェネックが笑いを堪えている。ツチネコことツチノコは顔を真っ赤にさせる。実はスナネコもその顔に笑みを浮かべていた。
「〜〜〜っ!!」
「ごめんねツチネコ〜、私たち急いでるから行くね〜?帽子泥棒を追ってるんだ〜」
「はっ!そうなのだ!アライさん達はもう行くのだ!」
「そ、そうしろ・・・早く行ってくれ」
ツチノコがそう返すと、アライグマはすごい勢いで横を駆け抜けていった。スナネコには気がついていない様子だった。
「アライさん、少し待ってよ〜」
フェネックはそう言いながらそれを追いかけ始める。そして、ツチノコとスナネコの横で一瞬だけ立ち止まった。
「・・・どういう状況かわからないけど、出会ったのが私とアライさんでよかったね〜?」
そう言い残して、彼女はアライグマを追うのを再開した。あっという間に暗闇に溶けて見えなくなる。
「・・・なんとかなったな」
「なりましたねぇ」
ツチノコとスナネコも、スナネコ宅への足を動かし始めた。
「確か、あの日はお前、遺跡に泊まってったよな」
「そうでしたねぇ、ツチノコがいろんなお話をしてくれるので、一晩過ごしたんでした」
「じゃあ、この世界がその通りに動いてれば今晩中はお前の家は留守なのか」
「そうなります」
スナネコの家までもう少しとなったところでそんな会話を交わした。その後、スナネコの家にたどり着いた。砂の地面に、簡単な絵が描かれていた。スナネコが描いたものだ。
「おおー、懐かしいですね」
拙いが、描かれているものは何となくわかる。ラッキービースト、ジャパリバス、サーバル、かばん。その絵が、ここは過去の世界だというのをしっかりと実感させてくる。
「・・・」
「・・・なぁ、スナネコ」
「・・・」
「本当は、図書館に行きたかったんだろ?クロのやつが居れば」
「・・・」
「俺は、お前が幸せならいいんだよ。だから、お前がキョウシュウに帰るって言っても引き留めない」
「・・・ボクは」
「?」
「神様が『帰れ』とでも言わない限り、ツチノコと一緒にいます」
スナネコが珍しく涙声だった。ツチノコも滅多に聞いたことがない。泣く時はしくしく泣いているだけで、その声はなかなか聞かなかった。
「・・・ボク寝ますね」
「まだ夕方だぞ」
「おやすみなさい」
「・・・おやすみ」
スナネコは、自分の家だと言うのに隅っこの方に行ってしまった。そこで、丸くなる。ツチノコはそれを見てため息をついた。そのついでで、ふとしたことを思いつく。それは、先程のスナネコの言葉がヒントだった。
神様が『帰れ』と言えば。
(俺、遺跡に持ってたよな・・・)
ふと、自分が趣味で集めていたものが頭に浮かんだのだ。
やはり、自分の親友には幸せになって欲しかった。
(両面表のジャパリコイン・・・)
たとえそれが、ズルだとしても。
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