猫の子の旅
プロローグ
ここはジャパリパーク、ゴコクエリア。
見晴らしのいい場所で、辺りは草原。美しい緑色の地面に描かれた茶色の曲線。そんな道を、エンジンを唸らせながらバギーが駆け抜ける。
「いいね!エンジン良好、飛ばしていくよ!」
「クロ、スピードノ出シスギダヨ。安全運転ヲ心掛ケテネ」
そのゴコクの道では青年がその黒い髪をなびかせながらハンドルをきる。会話の相手は、そのハンドルを握った右手首に巻かれた、腕時計のようなロボット。
シロとかばんの息子であるクロと、かつてかばんやサーバルと共にしたラッキービースト。いつもはかばんの腕にいたラッキーは今クロの腕に、かつてはシロが乗り回していたジャパリバギーは今クロを乗せて走る。
ギャリギャリギャリ、と危うい運転をしながらクロが答える。
「こうでもしなきゃ、スナ姉たちに追いつかないでしょ!?もっとスピード出すよ!」
・・・突然だが、皆さんは、黄色い猫に恋した少年の話をご存知だろうか?
パークの英雄である二人の間に生まれた子が、恵まれた環境で成長し、恋をし、失恋し、強くなり、青年になってまた恋をする物語。読む者の心を揺り動かす、素敵な物語。
しかし、その物語の中では語られなかった部分も当然ながら存在する。
今から展開されるのは、その未発見の章をなんとかこの目にと、空想混じりに書かれた物語である。
存在するが見えぬものを、どのように脳内に描くかというのは人それぞれ違う。この、本の間にページを足そうとした人間も当然ながらそれに当てはまる。
その事を理解し、納得した上でこの物語を読み進めてほしい・・・
「あっ!まずい横転するぅー!?」
「アワワワワワワワワワ・・・」
がっしゃーん。
「いてて・・・サンドスターコントロールができて良かった・・・」
横転したバギーの横で、青年がパンパンと体に着いた土を払い落とす。服の裾でラッキーのレンズの汚れも拭く。
「よっと」
その掛け声と共に、青年・・・クロはパチンと指を鳴らす。すると、その首の後ろあたりから生えていた虹色のクッションのようなものがパカンと弾け飛んだ。
待て、何が起きた?そう思われる読者も多いだろう。解説をするならば、彼はサンドスターコントロールという技術を身につけているというのがとても重要になる。詳しいことは白い猫の物語を読んでいただきたい。
彼は、その能力によりサンドスター製の柔らかクッションを生み出して横転するバギーから放り出された衝撃を和らげたのだ。そして、そのクッションが邪魔になったので弾けさせサンドスターを空気中に・・・ということである。
「これならエンジンの燃料になるしね」
彼の使っているバギーは特殊で、空気中のサンドスターを燃料に変える機能が備わっている。つまり、クッションに使われたサンドスターは無駄なく燃料になるのだ。エコである。
「えーと、この道で合ってるよね・・・?」
クロが広げたのはこのゴコクエリアの地図。いくつか赤い丸がついており、そこを目指して彼は旅をしているのだ。目的は他でもない、愛する人にもう一度会うため。
「クロ、意気込ムノハイイケド焦リは禁物ダヨ」
「そうみたいだね、どれくらいこの暮らしが続くかも分からないし・・・」
「ボクガ探セレバヨカッタケドネ、ゴメンネ」
「仕方ないよ、キョウシュウとゴコクのラッキービーストじゃ通信できないんでしょ?聞き込みで探すしかないよね」
そんな会話をしながら、バギーを起こして乗り込む。故障はおろか、大した傷もなかった。ハンドルを捻り、ドルンとエンジンをかける。
「よし、行こうか」
これは、猫の物語の途中に挟まれる物語。
クロがワシミミズクの助手と結ばれるステップとも言えよう、スナネコとの恋に夢中になっていた彼がゴコクを旅する物語である。
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