1R「オ・ト・ナ♥の口喧嘩」

ちびまるフォイ

このあと滅茶苦茶ケンカした

「ゆうべはお楽しみでしたね」


「ええ……まぁ」

「もうやめてください」


宿屋の店主のからかいに二人は頬を染める。


「お会計、〇〇マネーになります」


「割り勘で」


「えっ」

「えっ」


二人は顔を見合わせた。


「いやいやいや、これ普通、勇者が出さない?」


「普通じゃないだろ。二人で泊まったんだから」


「そういう問題じゃないでしょ!

 だって、私ずっと魔王に囚われていたわけ!

 一文無しなわけ! なのに割り勘て!!」


「こっちだって必死にモンスター倒して、

 クソ高い防具も武器も買って、回復剤を買いだめして、

 羽振りよくおごれるだけの金なんてないよ」


「そこは出すのが男でしょ!!」


「はいでたーー。出ましたよ、そういう差別。

 いつもことさらに男女平等と訴えるくせに、

 都合のいいときだけそういう差別するんですね」


「あんたそれでも勇者!?」


「勇者である前にフェアな人間でありたい」


「あきらかに経済格差があるでしょ!!

 なんで、やっと魔王から解放された後の最初の出費がコレなのよ!」


「なにで使っても同じだろ」

「ちがうわよ!」


「とにかく、ここは2人で割り勘するのが平等だろ。

 世界を平等にするのが俺の仕事なんだから。

 あ、端数くらいは俺が払ってやってもいいぞ」


この言葉にカチンときた。


「払ってやるぅ?」

「え、なに?」


「そういうとこよ!! たかだか端数くらいでなに威張ってんの!?

 心のどこかで見下しているようなのが見え見えなのよ!」


「は~~出た出た出ました。自分が口で勝てないとわかると

 そういうあげあし取りで勝とうとするやつ~~」


「だいたい、2人で泊まったっていっても

 そっちはアホほどルームサービス頼んで、私なんも頼んでないから!

 平等っていうなら、自分の使ったぶんだけ払いなさいよ!」


「そこは会計が一緒だからしょうがないだろ」


「平等じゃないじゃない!

 そっちは割り勘前提だから好き勝手頼んだんでしょ!?」


「そっちだって頼めばよかったじゃないか!」


「頼まないことで慎ましさを表現してたのよ!」

「知らないよ!!」


二人のいがみ合いが続く。


昨日は致死量の「好き」を言い合っていた仲のいい二人が

今や草木も枯れるほど険悪な空気になっている。


宿屋の店主はカウンターの裏でブルブル震えて嵐が去るのを待つ。



「……もういいわよ」


「え?」


「……わ・か・り・ま・し・た。

 私も割り勘で払います。それでいいんでしょ?」


「待てよ」

「なに」


「もういいってなんだよ! なにその"負けてやった"感!」


「小さいこと気にしないでよ」


「そっちだって、さっき俺の言葉をあげつらってただろ!」


「そういうところが小さいって言ってんのよ!」


「しょうもない負け惜しみなんか言わずに

 素直に割り勘ぶんの料金を払えばまるく収まったんだよ!

 どうして女ってやつはひとこと多いんだ!」


「女ァ? なんであんたの歪んだ先入観で女性全体を決めつけるのよ!」


「女はすぐに悪口を言うし、文句を言う!

 それを指摘したら逆にこっちに矛先を向けるだろ!」


「そんなの知らないわよ!

 矛先を向けたくなることを言ったのが悪いんでしょ!」



「あの料金を……」



「「 ちょっと黙ってて!! 」」


「はい……」


店主はますます縮こまってしまった。


「逆に聞くけど、俺がおごったとして、お前は感謝したのか?」


「するわよ。ちゃんとお礼言うわよ」


「それだけだろ」

「それだけ?」


「どうせその後は忘れてるだろ。

 でも、こうやって割り勘したことはいつまでも覚えていて

 ふとしたときに"あのとき割り勘した!"って言うんだろ」


「なにその勝手な被害妄想」


「人への感謝は忘れるくせに、そういうところは覚えてるんだろ!

 そういうところホント大嫌いだ!」


「あんたの勝手な思い込みで決めつけないでよ!

 そういうところがあるから嫌われるのよ!」


「じゃあ、もし今後に支払いを頼んだらどうするんだよ」


「あのとき割り勘したって言うわよ」

「言うんじゃねぇか!」


「それは割り勘したから悪いんでしょ?

 自分がよく思われたいんならそれだけの身銭を切りなさいよ!」


「そっちが支払いは男がやるもんだからと思ってるのが

 納得いかねぇって話をしてるんだよ!!」


「うるさいわよ! ソレも小さきゃ、器も小さいのね!」


勇者につうこんのいちげき!!


男子のアイデンティティをふかくきずつけた!


「ちち……ちいさくねーし!!」


「ホント男っていつまでも子供ね。

 勇者だの冒険だのを子供のときからずっと追いかけて。

 剣の大小でなにが決まるっていうの。ガキくさい」


「男にとっちゃ大事なんだよ!」

「はいはい」

「聞けよ!!」


「いいのいいの、お子ちゃま基準じゃ平等第一なんでしょ?

 私も払うわよ。それでまるく収まるのよね。

 お子ちゃまには相手への気づかいも期待してないから」


「お前ぇ~~!!!」


勇者は言葉では勝てないと、小さいと罵倒された背中の剣を抜いた。

店主はもう限界とばかりに叫んだ。


「もういいです! お代は結構ですから!!」


「え? ホント?」

「いいの?」


「いいです、いいですから!

 ここは私が払いますから、それでいいです!!」


その言葉に二人は口論をやめた。

店主はほっと胸をなでおろした。


勇者はそっとカードを取り出した。





「あの、この勇者ポイントカードは2人分つきますか?

 支払いは宿屋もちとしても、泊まったぶんのポイントはつくんですよね?」




その言葉が第二ラウンドのゴングとなった。

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