第5話 いちばん興奮した小説

「今回は、いちばん興奮した小説です」

「なんだ。そんなものあるのか」

「さすがに覚えてないですね。将来、神経の興奮具合を機械で計測できるようになったら、そういうのはっきりとわかるんでしょうけど」

「まだ無理だな」

「はい。そういうの、まだ無理ですね」

「なんなんだ。きみがいちばん興奮した本って。」

「かなり適当ですけど、まあ、おそらく確実に海外SFですね」

「やっぱり、そっちになるのか。SF好きなんだろ」

「そうですね。とにかく、知りたかったですね。発想力とか想像力とか独創性に満ちた小説ってやつを」

「それで、小説にはまったわけか」

「そうですね。海外SF小説がいちばんそういう小説であろうと、ぼくには思えましたね」

「で、どれがいちばん興奮したんだ」

「昔のことなんであいまいですけど、まあ、たぶん、この辺りのどれかだろうと」

「どれだよ」

「ヴァン・ヴォクト」

「ああ、そうなるのか。大学時代はその人をいちばん好きな小説家っていってたよね」

「うん。たぶん、いちばん興奮したのは「武器製造業者」か「非Aの傀儡」だね」

「長編より短編が好きじゃなかったの?」

「うん。海外SFは、長編より、きりっとしまった短編の方が面白くてよかったけどね。でも、いちばん興奮したのはヴァン・ヴォクトだね」

「ヴァン・ヴォクトみたいに書きたくて、ずっとほのぼの活劇みたいな小説を書いてきたんだろ」

「うん。結局、書けなかった。」

「まあ、泣け」

「うん。泣く」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る