第10話 出会い

 ──今から4年前。



 夢乃と幸哉は中学1年生。


 2人は同じ小学校だったが、6年間1度も同じクラスになることは無かった。


「夢乃ー! また同じクラスだね!」

「柚愛と同じクラスでよかった……」


 夢乃のクラスは1組。

 教室に入るなり小学校からの友達、山科柚愛やまなしゆあと同じクラスになり夢乃は満面の笑みを浮かべていた。


「夢乃はクラスの人みんなわかる?」


 学校が終わり下校途中、柚愛は夢乃に問いかけた。


「そうだな……。あ! あの人だけ知らない。えっと……廊下側から2列目の1番前の男の子」

「廊下側から2列目……。あ、川上くんの事かな?」

「多分そうかな?」

「夢乃知らなかったのか。川上くん勉強得意だから教えて貰えば」

「え、いいよ。話したことないもん」


 夢乃は頭を左右に振り拒否をした。


 夢乃と幸哉が同じクラスになったのは中学1年生が初めてだ。



 ***



 ──それから数ヶ月後。


「今日は席替えするぞ。くじ引く順番決めるから先頭ジャンケンしてくれ」


 担任にジャンケンするよう促された先頭6名。


「あいこでしょ──……」


 そして、残りの2名のあいこが数回続いた。


「勝った……」


 勝ったのは幸哉だった。


「じゃあ川上から順番にくじ引きに来てくれ。まだ中身は見るなよ」


 幸哉から順に生徒は教卓の上にある箱に手を入れくじを引いて席へ戻った。


 生徒がくじを引いている間担任は黒板に席の番号を1から順に書いていた。


「じゃあ黒板に書かれた番号と引いた同じ番号のとこに移動してくれ」


 担任の言葉により、生徒達は一斉にくじで引いた紙を開き机ごと席を移動させた。


「じゃあ今日から暫くこの席な。黒板見えにくい人はいないか」


 担任の問いかけに対し生徒は頷いた。


「あ、えっと……川上です。よろしくね」


 幸哉の席は窓際の一番後ろだ。


 そして、隣の席になった生徒に声をかけた。


「……中西です。よろしくお願いします」


 そう、隣の席は夢乃だった。


 ──2人の出会いはこの時からだ。


「さっきのジャンケン凄かったね」

「ね、5回はあいこ続いたよね。結局あたし負けちゃったけど……」


 幸哉とのジャンケンであいこが続いた相手は夢乃だったのだ。


「そうだね。でも中西さんも強いよ」

「いやいや、今回勝ったんだから川上くんだよ」


 どっちがジャンケンが強いか2人は何故か互いに譲り合っていた。



 ***



「(初めて会話したのは、席替えの時以来だな。あれから付き合うまでずっと苗字で読んでたな……)」


 夢乃は昔を思い出しながらそんなことを思っていた。


 幸哉との出会いから4年。


 あの時は、幸哉と付き合うことも……。

 まさか幸哉が記憶喪失になるとは思ってもいなかっただろう。


「幸哉さんこの本貸しますね! あ、あと……連絡先教えてください」

「ありがとうございます……。あ、連絡先……」


 こうして幸哉と彩乃はLimeを互いに交換した。


 そして、幸哉は彩乃から本を1冊借りたのだった。



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