第9話 共通点


 ──そんなある日のことだ。


「幸哉は家でどんなことしてるの?」


 何気なく問いかけた一言が夢乃にとって苦悩の始まりだった。


「普段……普段は小説とか漫画読んでる」

「え、どんなの読んでるの?」

「えっと……これ」


 幸哉はスマホでとあるサイトを開いた。


 そこにはいくつもの小説がお気に入り登録されていた。


「あ、これ知ってる! 妹が読んでるよ。たしか、家に本もあった気が……」

「え! 書籍化された本持ってるの? 僕が買おうとした時にはもう売り切れてて……借りれるかな?」


 その幸哉の顔は記憶を失ってから初めて見る生き生きとしたものだった。


「どうだろ? あ、今度家に来る?」

「いいの?」

「うん、幸哉が大丈夫ならおいで」



 ***



「お邪魔します」

「どうぞ」


 幸哉が夢乃の自宅を訪ねたのは週末の事だった。


 2人は家に入るなり、リビングに向かった。


「こ、こんにちは……」

「……」


 リビングにいた少女は幸哉に挨拶をした。


 一方、幸哉は無言のまま頭をペコッと下げた。

 少女の名は、彩乃あやの

 夢乃の妹だ。


 とても幼く見える少女は夢乃の1つ下の高校1年生だ。


「えっと紹介するね。妹の彩乃で……彼が川上幸哉だよ」

「よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」


 夢乃が紹介すると幸哉と夢乃はそれぞれ挨拶をした。


「彩乃、あれ持ってきて」

「あれ……? あー! こないだ言ってた書籍化された本ね。今持ってくる」


 彩乃はそう言い残すと2階にある自室へ取りに行った。


 夢乃のいう"あれ"とは幸哉が読みたがっていた書籍化された小説のことだ。


 夢乃は数日前に幸哉のこと、そして……書籍化された小説を読みたがっていることを話していた。


 だが、彩乃もまた……夢乃と幸哉が付き合っていたことは知らされていなかった。


「お待たせしました。これですよね? 幸哉さんが読みたい本って……」


 1冊の本を手にした彩乃が幸哉に問いかけた。


「(幸哉さん……か。あたしは幸哉の名前を呼ぶのにかなり時間かかったのに……彩乃は出会ったばかりで言えるのか。凄いな……)」


 夢乃は彩乃と幸哉の様子を眺めながら一人落ち込むのであった。



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