第8話 アルバム
「うわっ、腫れてる……」
翌朝、目を覚ました夢乃は鏡を見るなり落胆した。
「あら夢乃、目真っ赤だけどどうしたの?」
「あ、えっと……昨日感動もの見てたから……」
母から指摘を受けた夢乃。
咄嗟に嘘をつき誤魔化したのだった。
「そんなに感動するものがやってたのね。時間あるなら冷やしときなさい」
「はい」
「(あ、今日は写真持ってかなきゃ……。
中学のアルバムでいいかな)」
朝食を食べながら夢乃はそんなことを考えていた。
「はーい」
「夢乃です」
学校が終わった夢乃は幸哉の自宅のインターフォンを鳴らした。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
昨日と変わらず窶れた幸恵が出迎えた。
「今日は中学校のアルバム持ってきたんですが、幸哉に見せても大丈夫ですか?」
「アルバム? ありがとう。見せてあげて」
「ありがとうございます」
夢乃は、幸哉にアルバムを見せる許可を幸恵から貰った。
そして、夢乃は幸哉のいる部屋へ向かった。
「はい」
「幸哉、夢乃です。入るよ……」
幸哉の部屋の前で夢乃はノックをした。
すると、中から幸哉の声が聞こえ夢乃は部屋に入って行った。
「あ……えっと、ゆ……夢乃さん?」
「……そうだよっ。……夢乃です。えっと……今日はアルバム、持ってきたよ」
昨日会った夢乃の名前を覚えていた幸哉。
夢乃のにとってそれほど嬉しいものはない。
涙ぐみそうになるのを抑え、夢乃は笑ってみせた。
「アルバム……?」
「うん、中学校の時のなんだけど見る?」
夢乃はカバンからアルバムを取り出すと幸哉に問いかけた。
「……はい」
幸哉の返事を聞くなり夢乃はソファーへ腰掛けた。
そのソファーは2人掛け用だ。
その為、隣に座る幸哉と夢乃の肩が触れ合う程密着していた。
「……見て、いいですか?」
「うん、どうぞ」
幸哉は差し出されたアルバムの表紙を静かに開いた。
「あ、寄せ書きだ……」
「うわぁー! それは見ちゃダメっ!
恥ずかしいから写真見よう」
表紙を開いた所には夢乃宛に書かれた寄せ書きがあった。
突然現れた寄せ書きに動揺している夢乃に対し、幸哉は薄らと笑みを浮かべていた。
「(見られていよね……? あれには幸哉からの寄せ書きも書かれてるから見られちゃダメ。
じゃないとあたしがついた嘘がバレちゃう)」
「わ、笑った……。そんなに面白かった?」
「うん……面白かったです」
「えへへ。よかった」
幸哉が笑ってくれたことが余程嬉しかった夢乃は満面の笑みを浮かべていた。
それから2人は1時間程アルバムを眺めた。
夢乃にとっては懐かしいアルバム。
だが、記憶のない幸哉にとっては──
知らない人が映っているアルバムに過ぎなかった。
そして、夢乃は学校がある日はほぼ毎日幸哉の自宅に通ったのだった。
記憶のない幸哉は学校に行かず家にいる日が続いた。
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