限りなく、今の町並みに、過去を見る。それは、きっと亡骸。

掠れた色の町並みを、紅茶に溶かして飲んでいるような冬だった。


街を彩るイルミネーションも消え失せて、一人、街中に立っている。

一人でないと生きていけないと叫びながら、誰かを待っている。

チョコレートの香りが近づいてくるたびに、それを確認する。


チョコレートを渡す相手は、あなたでないといけない。

そう信じていたのは、昔の話。


私が今、チョコレートを渡したいのは、誰かではなく、私自身です。

愛しているを、チョコレートに閉じ込めて、

そうしないと渡せないような臆病さを、どうしても、捨てられなかった。


本当は、掠れた色の街に、力一杯チョコレートを振り掛けたい。

それくらいしていいはずだった。


過去に佇むあなたにチョコレートをかけたなら、私は前に進んでいける。

甘さを溜め込む冬が過ぎたら、きっと私にも、春一番が吹く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る