色づく世界を君と行く

夏樹楓花

第1話


いつもと変わらない風景の中いつもと同じ格好でいつもと同じようにいつもと同じ坂を登るこれが僕の生活の始まりだった。

中2の春のことである。いつものように妹の桜と一緒に学校へ登校していた。そう、いつもと同じように。ただ、いつもと同じだったのは僕たちだけだった。考えてみればわかることだった、春といえば新しく社会人になる人が出てくる頃だ、と言うことは初心者マークの車が増え出す頃でもある。しかも、それに加えて新しい場所に向かうのだから少し緊張し少し浮かれるといった集中力を妨げるものが現れる。そして、そいつらがその日悪事を働いた。そう、人間の精神を乱し思考能力を奪ったのである。そして、信号が赤で止まるはずの車がアクセルとブレーキを踏み間違えて、横から来た車と衝突した。その結果、横断していた僕の妹の桜が跳ね飛ばされ救急搬送されることになった。これは、ほんの三ヶ月前のことである。そしてまだ桜は意識が戻っていない。この事故が僕の周りから色々なものを奪った。妹、家族の笑顔、友の笑顔、そして、僕の世界の色を。

あの頃は毎日がただ楽しく充実していた。どんなに悪いことをしても怒ってくれる人がいて、どんな些細なことでも話してくれる友がいて、そして、いつも僕の隣に妹がいた。でも今は何もない。前は綺麗に見えていた花も黒と白のモノクロになり、青空と夕焼けの色も同じになり、虹も黒くなった。そして、前まではいっぱいいた友もいなくなっていった。でも、一人だけ今も声をかけてくれる奴がいた。それは、クラスメイトで幼馴染の櫻井春香だった。前から仲は良かったし、家族間での交流もあったから多分クラスメイトや学校生徒の中では一番仲が良かったと言っても過言ではない存在だった。ただ、事故の後家族間の交流もなくなり、話すこともなくなり、僕はいつしかみんなを避け始めていた。でも、彼女は避けても避けても離れていかない。そんな彼女に僕は少し腹が立ってきた。簡単な理由だが、一人になる時間が欲しかったからである。家に帰れば家族がいる。家族の前で泣いたりしたら余計家族が悲しむことは分かっていた。そして、学校にはみんながいてみんなの前で泣いたらみんなに心配をかけることがわかっていたからだ。だから、一人になりたかった。凄い簡単な理由なのはわかっていた。だから、学校の帰り道で彼女に僕は怒りをぶつけた。「なんで避けても避けても離れず付いてくるんだ。僕は一人になりたいんだ。一人にならせてくれよ。」とすると彼女は「一人になってどうせ泣くんでしょ。一人になって後悔するんでしょ。あのときこうしとけばとか。」と言ってきた。本当に腹が立った僕が言葉を発しようとした時彼女が続け様にこう言った。「あなたは、桜ちゃんが泣いているお兄ちゃんをみたいと思ってると思う。後悔しているお兄ちゃんをみたいと思ってると思う。私は絶対思ってないと思う」と、「でも、どうもできないんだ、悔やむことしか」と僕が言うと、「前、桜ちゃんにお兄ちゃんのどこが好きか聞いた時どこが好きって言ったと思う」と返ってきた。僕には知る由もないことだった。だから、「知るわけないだろ」と答えた、すると、「みんなの輪の中で笑ってみんなと話している時の笑顔が好きって言ってたよ。」と言いながら彼女が泣き始めた。驚きだった。僕が一番悲しいはずなのに、泣いていないなのに血も繋がっていない彼女が泣いていた。そして僕は気付かされた。どんなにみんなに心配かけないように振る舞っても本当に近しい人には心配をかけてしまうことを。そして僕は涙を流し笑って言った。「お前が泣いてどうするんだよ。あとうつむかずに前だけ見ていこうぜ。」とすると彼女は涙を拭いて言った。「そうだよ、そんな感じじゃないと和人らしくない」と、久しぶりに名前を呼ばれた気がした。そして、僕は明るく毎日を送ることを春香に約束した。そして、春香と別れて家に帰った。まだ、桜は戻ってこないでもいつか戻ってくることを信じて僕は春香そしてみんなと桜が戻って来るその日まで前と変わらぬ生活を送っていくのだった。

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