第2章 春に眠る命のかたまり
017 春に眠る命のかたまりⅠ
時は四月。
桜の花が満開になるこの暖かな時期、俺は高校一年生から高校二年生になっていた。
暖かな風に吹かれて、高校は今現在、春休み期間入っている最中である。
俺は朝、目覚まし時計の大きな音で目を覚ますと、ベットから飛び降りて、顔を洗い、台所に行くと、昨日買っておいたコンビニ弁当を食べ、歯を磨き、外に出かける準備をした。
あの日以来、俺は毎日のように病院に通っている。一度も目を覚まさなくなった桜の見舞いのためだ。家から病院までの距離は自転車で約二十分。私服に着替えると、エコバックに桜の着替えや果物、財布などを入れて太陽が南の空に差し掛かる時間帯にゆっくりとペダルを漕ぎながら、過ぎていく景色を楽しむ。
俺はこの三ヶ月間、彼女の事が頭から離れたことは一度もなかった。眠り続ける彼女を俺は病室の隅っこの窓から太陽の光が当たるところに座り、いつ目を覚ますのか待ち続けていた。
特に休日は、朝から夕方四時頃まで本を読んだり、高校の課題を解きながら、時間を持て余していた。
クラスメイト達から休日に遊びの誘いを受けることがあり、それをすべて断ってきた。
三ヶ月の空白の時間。桜は眠り続けながらどんな夢を見ているのだろうか? 目を覚ました時、どんな反応を示すのだろうか。いろんなことが頭に浮かび、俺自身、不安になってくるのだ。
病院にたどり着くと、駐輪場に自転車を止め、受付で、自分の名前を記入し終えると、来客用の名札をもらい、それを首にかけてから『羽咲桜』と書かれてある個人の病室に向かう。
桜の部屋は、病院の特別棟の三階にあり、特別棟には、いろんな事情を持った入院患者がいる。
当初は、普通の入院患者と変わらない病室に入院することになっていたが、医師の判断により、トラブルなどを避けたいと、提案され、この特別棟に移動したのだ。だから、この来客用の名札がいる。
今までにいろんな人がお見舞いに来てくれたが、今になっては俺と、時々、
親父は、仕事の都合で来れない事が多く、顔を見せたいのに見せることができないと嘆いていた。
やはり、この特別棟だけは人通りが少なく、静かすぎる。
三階に上がるまでにすれ違ったのは、いつも会う看護師さんと外科・内科医の先生ばかりだ。
「あら、
と、すれ違った綺麗な看護師さんは桜の担当である
歳は、暦姉と同じ二十代後半であり、長い髪を左右に小さく三つ編みに纏め、後ろを腰の位置まですらっと伸ばしている。体のラインがはっきりとしており、出る所は出ている優しいお姉さんだ。
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