011  冬の寒さに打ちひしがれずにⅪ

「いいですよ。それも考えて買い物しますから」


 二人並んで自転車を漕いでいること十分。ようやく駅前のショッピングセンターにたどり着いた。


 自転車を駅の駐輪場に止め、盗まれないようにしっかりと鍵をかけておく。近くには警察署があり、治安ちあん的には安全な地域である。


「それにしても今日の駐車場も多くないか? 皆、平日の昼間から暇なのか?」


「いや、それは違うと思いますよ。この時間帯のほとんどは主婦の皆さんが買い物している事ですし……」


「でも、例外はあるようだぞ。こっちの駐輪場は学生シールの貼られた自転車が結構並んでいるからな……」


 俺はショッピングセンターの駐輪場ちゅうりんじょに目をやると、同じ学校の生徒はもちろん、近くの高校や中学の紋章が描かれたシールが貼られてある自転車が止めてあった。


 このショッピングセンターの三階には、大きなゲームセンターとおもちゃ売り場、子供服から紳士服までが並んである。ここに来る子供たちのほとんどはゲームセンターにでも行っているのだろう。


 暇があるなら行きてぇ……。


 そう思った俺は、桜と一緒に入り口から店内に入った。


「じゃあ、最初に食材から見ていきましょうか。それから翔君がさっきから行きたそうにしている本屋さんとゲームセンターにも行きましょうね」


 どうやら俺の思考は彼女にはすべてお見通しのようだ。伊達に何年も一緒にいるわけではない。


「お前、俺が何も言わずにやりたいことをすぐに分かるよな。何か、コツでもあるのか?」


「そんな事ないですよ。なんとなくいつもそう思うんですよ。それにですね、翔君の好きな物や嫌いな物から分析すればこんなの簡単ですよ。それよりも翔君、もう少し嫌いな食べ物を無くすべきですよ。農家の人立ちが丹精たんせい込め作った食材というのは、美味しいものなんです」


 さくらの説教が始まった。


 こうなってしまっては最後まで聞かないといけないらしい。確かに俺には好き嫌いはあるが、彼女にとって食べ物だけは、残したり、食べなかったりするのだけはどうしても譲らなく、許しもしない。


「分かった、分かった。桜の話は分かったから……。ほら、買い物途中だろ? さっさと終わらせないと服も買えないし、ゲーセンにも行けないからさ……」


 俺は話しながら食材を選ぶ桜を見て、話を切ろうとする。


「そ、そうですね……。でも、嫌いな食べ物は少しでも食べて貰えれば私にとってはうれしいんですからね! いいですか?」


「はい、おっしゃる通りです。これから頑張ります」


 やっと終わったと思った俺は、肩の荷が下り、小さく息を吐く。


 カートの中にある買い物かごの中には一週間分くらいの食材がどっさりと入っていた。これだけの量を今日買って、自転車に載せるのだ。まぁ、女子の力では少し無理があるのは分かる。

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