009  冬の寒さに打ちひしがれずにⅨ

「…………それで、泊ってもいいよね?」


 と、勝手に言い出す。もし、俺が一人暮らしだったらどうするんだよ。


「分かりましたよ。桜にも伝えておきます」


 俺は溜息と後悔が入り混じった感情が気持ちをモヤモヤさせる。


「よろしくね。じゃあ、もうそろそろ掃除の時間だから……菅谷君は、トイレ掃除でしょ?」


 俺はそう言われて、ふと近くの時計を見た。短い針が一を指し、長い針が二に指しかかろうとしていた。


 この学校の掃除時間は一時十分から十五分間行われる。


「じゃあ、失礼します」


 立ち上がって軽く頭を下げると、俺は職員室を後にした。


 廊下では宗司の時間になる前に向かおうとしている生徒たちでいっぱいだった。


 俺のトイレ掃除の場所は自分の教室の隣のトイレである。


 すぐにその場所に向かうと、靴下を脱ぎ、裸足になってトイレのスリッパを履いた。


 午後の授業は、数学のみで終わる。そうなると、掃除に気合が入ってしまうのは人としておかしくない行動だ。


 すぐさま、洗剤を掛けてモップで磨き、ホースに水を流して床を綺麗にし終えると、足を洗い、手を洗い。午後の授業の準備をする。



     ×     ×     ×



 放課後————


 全ての授業が終わり、俺は帰宅準備をしていた。


「翔君、準備できましたよ」


「ああ、もう少し待ってくれ、俺もこのプリントを教卓の上に提出すれば終わりだから……」


 帰宅の準備を終えた桜が俺の右横に立って待っていた。


「それなら私が持っていきますから翔君は早く準備を済ませてくださいね」


 そう言って、桜は俺のプリントを取り上げると、すぐに教卓の所に持って行った。


「翔……。そう言えばお前、暦お姉さんと昼休み何を話していたんだ?」


「はぁ? 普通に勉強に関する事だよ」


 そこへ後ろから俺の方に手を回して耳元で囁いた。


「嘘をつけ! 俺は近くで聞いていたんだからな。お前、今週末、暦お姉さまとお泊り会をするんだろ?」


「お、おま……。それをどこで聞いたんだ?」


「ふっふふ……。俺の情報網をなめるなよ。俺の愛する彼女が教えてくれたのさ!」


 隣に立っている友理奈が額に手を当てて深々と溜息をついた。


 どうやら彼女が聞いていたらしく、それを颯太が口説きながら訊き出したように推測する。


 俺は面白そうにニヤニヤとしている颯太が自分も泊まりたそうにしているのは暦姉を尊敬しているからである。


 颯太は昔、暦姉に大きな大人から助けてもらい、それ以来、彼女だけは女性の中で最も熱く信仰している。だから、俺の家に暦姉が泊まる時は大抵颯太もまた、隣にいる友理奈もなぜか泊まりに来るようになったのである。

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