008  冬の寒さに打ちひしがれずにⅧ

 だが、教師と生徒、そんな金旦那壁を乗り越えてはいけない。というのは冗談であり、暦姉が近所のお姉さんだということは、颯太も小泉も知っており、それくらいの誤解はすぐに解ける。他にも知っている人間は他にもいて、あまり噂になっていないのが幸いである。


「週末ねぇ……。だったら買い物に付き合ってくれる?」


 ……あー、出たよ。力仕事パターン2。


 俺が休日に外に出るとするならば、遊びに行くか図書館に行く以外にもう一つある。それが買い物だ。桜はいつもの事だが、暦姉と買い物に行くとなれば時間が何時間あろうと足りないくらい長いのだ。


 だが、意外にもそれが楽しいと言えば楽しい時もあり、たまに俺の欲しいものを買ってくれたりするわけで、彼女みたいなしっかりとしたお姉さんはそう身近にはいない。


 暦姉ははちきれそうな胸のスーツの左ポケットからスマホを取り出して、カバーを開け、電源を入れてホームボタンを押し、何かを調べ始めた。そして、左指で尋常じゃない速いスピードで動かし、二分後にそれを終えると、机の上に置いた。


「菅谷君、休日訪問は可能だわ」


「そうですか」


「……でも、家ではなくてカフェテリアとかで三人で話しましょう」


 俺にそう提案してきて、顔色を窺ってきた。


「そうですね。その方が、家にいるよりも気楽に話せますし、気まずくなりませんから……。俺にとってはプラス思考ですよ」


「良かったわ。それなら二日間でじっくりと話せるし、泊まり込みもできるわね」


「はぁ? い、今何と言いましたか?」


 俺が聞き違えたのか、今、暦姉は泊まると聞こえたはずだ。


「だから、私が二人の家に泊まるって言ってるの。さっき、宗次郎おじ様にも許可を取ったしね。事情を話したら軽々とすぐに返事をくれたわ」


 親父、いくら何でも教師である暦姉を家に泊まらせるんだよ。


 暦姉は微笑みながら俺を見た。俺は逃げ笑いをしながら深々と溜息をついた。


「……親父、俺に相談もなしにそんな事を……」


 と、俺はズボンのポケットで連絡を待ってもメールの一つもよこさない親父を顔を浮かべていた。

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