第4話

僕はポップコーンとコーラを、彼女はレモンティーとチュロスを手に劇場へと入った。


ドタバタがあった所為で、時間はぎりぎり。コマーシャルがちょうど終わった頃に指定されたカップル席へ。


映画館の暗闇というのはこの独特な雰囲気がいい。


みんな息を殺して黙っているにも関わらず、何人くらい客が入っているかとか、空気感でわかる。


やっぱり、平日ともあって客は少ないようだった。


映画が始まってすぐ、スクリーンには薄暗い世界観が展開される。


そして開始十分も経たない冒頭で一人目の被害者が、ココナッツで撲殺されるという哀れな死に方をする。


【朔之】

「ひゃっ!」


押し殺しつつもつい驚きの声が出てしまったようだ。


後ろの方にいるカップルなんかも、椅子を揺らすほどびっくりしたらしく、ドタンという音もした。


いや、ひょっとしたらクーちゃんの驚きに連鎖したんじゃないだろうか……僕にとっては全然、怖くもなんともないけど、そっちにびっくりしたし……


【貴晶】

「えっ?」


映画を見ていると、ついつい腕を組んでしまう癖が僕にはある。


そして、思った以上に映画の内容が怖かったために、助けを求めようとする彼女の手のひらが、こちらの席に伸びてくる。


必然的に、彼女の手のひらが僕の股間に触れてしまったのだ。


【貴晶】

「おい、ちょっと……」


しかし、怖すぎて半ば放心状態になり、スクリーンから目が離せなくなっている彼女は、僕の股間に触れている事に違和感を持たない。


小刻みに震えながら驚いた節に握られる感触に、思わずアソコが反応してしまう。


そして映画が日常シーンへと戻った際、彼女は違和感に気が付いたらしい。


【朔之】

「あ、あれ……」


【貴晶】

「気づくのが遅いよ……」


【朔之】

「だって……怖いんだもん……」


【貴晶】

「出る?」


【朔之】

「出すの?」


その言葉に思わず反応してしまう……


【貴晶&朔之】

「えっ?」


【貴晶】

「い、いや……これは違う……」


そして唐突な爆発音とホラー描写が目の前に閃いた。


【朔之】

「ひぃゅっ!」


どんな悲鳴だと突っ込みを入れるより先に、彼女は僕の膝に顔を伏せた。


【貴晶】

「ちょっ!」


すると、僕の股間に顔をうずめるなり、ニヤリと妖しい笑みを浮かべた。


不味いと思った俺は上映の最中に席を立ち、彼女の手を引いてスクリーンから飛び出した。


【貴晶】

「ったく……へんな冗談はやめてくれ……」


【朔之】

「ふふっ……ひょっとして、興奮してくれたの?」


誘っているような目つきで微笑むと、彼女は俺の頭を撫でながらじゃれついてくる。


言葉では表現できない安らぎがあって、彼女の隣は居心地がいい。


まだ目が覚めていないかのように……すべてがウソなんじゃないかって思えるくらいに幸せで。


お金とかカッコいい車とか有名だとか、そんなものよりも幸せで……


もっともっと、彼女に笑って欲しいから、これからも一緒にいたい……

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