現と夢

【宣篤】

「はぁ~」


春前のうすら寒い夜空の下で、俺はいつものベンチに腰を下ろし、ただ溜息を吐いていた。


時間が過ぎればどうにかなるような問題ではないが、誰かが現れて問題を解決してくれるんじゃないかと……そんな瞬間を求めていたんだ。


だが、時間は過ぎるばかりで何も起こらない。時間が過ぎる事を求めているのに。まるで支離滅裂だ。


彼女は正しいのかもしれない。


現実は辛い事しかない。


幸せがあったとしても、不幸という避けがたい瞬間がやってきて、たちまち幸せという輝きに泥を塗る。


ひょっとしたら、自分なんていない方がいいのでは? そんな事さえ思えてくる。


どこにも行けなくたっていい。


どこにも行きたくないのだ。


時間などなくたっていい。


過ぎたところで不幸がやってくるだけ。どれだけ過ぎたところで幸せが色褪せるだけ。


【宣篤】

「俺は……どうしてここにいるんだ?」


気が付けばいつものベンチに腰を下ろして、そんな事ばかり考えている。


やっぱり俺は……どこかに行きたいんだろう……


どこへ?

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