第3話ジョージ・マイケル3
学校を出た紅人は車を走らせ東京郊外にある母親の家へ向かっている。しかし、彼はハンドルを握っていない。100年前と違って、国産市販車には自動運転技術がどの車にも
学校から1時間ぐらい車を走らせて、八王子の母の家に着いた。助手席の
「こんにちは
「お邪魔します」
よそよそしく中から出てきた小柄な女性が
リビングに通された紅人は母の向かいに腰掛ける。キッチンの方を見ると家事用ロボットが前来たときより新しいものになっている。
「今月の生活費です」
紅人はカバンから現金200万円を取り出し、机の上に並べる。
「いつもありがとうございます」
「妹に不自由をかけたくありませんから」
2人は親子とは思えないほどよそよそしく、
「彼女に会わなくていいのですか」
「私は妹をこちらの世界に巻き込む気は一切ないです」
「私があかりにあなたが兄であることを伝えましょうか?」
紅人は怒りをあらわにする。
「私が
紅人は
「わかりました。
「苦労をかけます」
紅人の母は愛想笑いを浮かべて頷く。やはり、複雑な子供より、今の夫との間にできた子供の方が可愛いのだろうと
「娘さんと息子君は元気ですか?」
「ええ、2人とも元気ですよ。上の子は今年高校受験なので、勉強が大変ですが……」
予想通り紅人の母は上機嫌に答える。
「そうですか」
「それはそうと、カラコンを入れたんですか」
「ええ、サングラスだとよく職質を受けるので」
彼は遺伝子組み換えで
紅人と紅人の母が世間話しをしていると誰かが階段を降りてくる音が聞こえる。
「おはようございます。
二階から降りてきた男は
「
修と紅人の仲は見ての通り非常に
「大人なら最低限、口の利き方に気をつけなさい。この家が誰のおかげで
「チッ、感謝してるよ」
修は
「私ではなく
「お前、ケンカ売ってんなら買うぞ」
修は一回り小柄な
「事実を言ったまでです」
「あんな
「口の利き方に気を付けろと言っただろう。下等生物」
紅人は左手で修の胸ぐらを掴むと自分の顔の前に彼の顔を持ってくる。
「俺の妹に手を出してみろ。貴様のその空っぽな脳みそを壁にぶちまけてやる」
修は恐怖のあまり何も言えない。何百人もの人を殺してきた紅人の本気の怒りは一般人には耐えられないだろう。なにせ、社内でも紅人を怒らせてはいけないと
紅人は修を壁に投げ捨てる。あまりの恐怖に修は口をパクパクさせ、座り込んでいる。
「お見苦しいところをお見せしました。今日はこれで失礼します」
紅人は母に向かって笑顔で一礼すると
乾家を出て車に乗った紅人は数百メートル先の裏路地で車を止め、カラーコンタクトを外し、車内で本を読んでいる。この車の窓は紫外線カット率98%なのでアルビノの目を持つ彼でも目を痛めることはない。
「待ちましたか?ボス」
扉を開け、車に乗ってきた男は武装運輸会社BLACK HAWK の中で紅人が最も信頼を置く人物。
「待ってない、今来たところだ」
「仕事以外でもその口調で話してくれると嬉しいんだがな」
「そうはいきませんよ、高槻さん。あなたは一応歳上ですから」
紅人は
「交代要員は?」
「ホワイトオスプレイであります」
「社に戻ったらホワイトオスプレイにこう伝えろ。『明日には
「了解であります」
健太郎は紅人に敬礼で応える。少し長めの敬礼を終えた健太郎は仕事モードのスイッチを切り、イスのリクライニングを後ろに倒す。
紅人は自動運転モードに会社を入力する。すると、「目的地への自動運転を開始します」と言う声の後、車はゆっくりと加速する。下手な人間が運転するよりずっと安全性が高いので、行政や車会社は手動運転よりも、自動運転を
特にすることもないので紅人は外を眺める。2040年代から世界的に行われた温室効果ガス抑制プロジェクトの効果で、100年前より地球温暖化は落ち着いてきた。とはいえ、すでに桜は葉っぱが多めについている木が多い。
それにしても
2、3分車を走らせたところで、紅人はふと、気になるものを見た。裏路地で日傘をさした少女が4人の男子生徒に絡まれている。見たところ絡まれている少女と絡んでいる少年達の制服は違う。少女の方は国立のハイレベル高校の制服で、少年達はその逆の制服だ。
紅人は積極的に面倒ごとに
紅人が車を止める前、少年達は
いつも通り駅の周りで張ってた少年達は日傘をさす
「君、
「そうですが、何か用でしょうか」
声をかけられた少女は日傘を深くさし顔を隠す。
「いやー俺たち遊び相手を探していたんだけどどうかな?」
リーダー格の少年が一歩前に出る。
「あいにく私は生まれつき身体が弱いのでお断りします。他の女性を誘ってください」
白髪の少女は
「そんなこと言わずに俺たちと遊ぼうぜ〜」
「あぁっ」
少女の手から日傘が取り上げられる。日傘の中から現れたのは真っ白に咲く一輪の
「君、めっちゃかわいいじゃん」
リーダー格の少年の後ろにいる3人も同じようなことを言って盛り立てる。
少年の手が少女の
少年は少女の首を抑え、彼女の雪のように白い太ももを
「調子に乗ってるとこの場で
少年は彼女の太ももに置く手を上へ滑らせスカートの中へと入れていく。
「先輩。こいつアルビノのですよ。きっと乳首とあそこは綺麗なピンク色ですよ」
少女が少年に押さえつけられた時、
「こちらファルコン、ホワイトオスプレイ応答願う」
『こちらホワイトオスプレイどうぞ』
「手を出すな。俺が行く」
紅人は相手の返事を待たずに電話を切る。その表情には
助手席の収納を開け、80式拳銃を腰の後ろのガンベルトに収める。
「殺すなよ」
「わかっている」
紅人は車のドアをいきおいよく閉めると白髪の少女の元へ駆けて行く。
不良少年の手が白髪の少女の胸を
「女の子に乱暴するのは良くないぞ貴様ら」
「なんだてめぇ」
「私の名などどうでもいい。彼女を解放しろ」
紅人はリーダー格の少年の肩においた手を握る。
「お望み通りテメェをぶっ殺してから、この女を犯すとしよう。お前らやっちまえ!」
後ろにいた1人が紅人を
もう2人は羽交い締めにされた紅人に
「舐められたものだ」
紅人は羽交い締めをしている男に
羽交い締めを解いた紅人は中段蹴りを仕掛けてきた少年2人の足を掴み後ろに一回転させる。2人は後頭部を強打して気絶する。
「
紅人は無表情で大量の鼻血を出す少年に蹴りを入れる。
返り血を浴びている紅人の表情に一切の変化はなく、非常に落ち着いている。
「お前、俺たちに手を出して無事で済むと思ってんのか?」
「貴様がどんなヤクザとつるんでるか知らないが、多分そいつは俺にケンカを売ることはできない」
紅人は事務作業をこなすように
「何故だ」
「答えてやる
「そうかよ!」
リーダー格の少年は懐から折りたたみ式ナイフを取り出し紅人に斬りかかる。
ーー今どき折りたたみ式ナイフなんて珍しいな
紅人はそう思いながらナイフを
これ以上は無意味だと感じた紅人は振り落とされたナイフを持つ手首を
不良少年達を組みした紅人はアルビノの少女に左手で日傘を
「大丈夫ですか?」
「助けてくださりありがとうございます」
少女は紅人の手を
「あの、あなたもアルビノですか」
「目だけですけどね」
「でも、日差しは痛いですよね。よかったらこれを使ってください」
少女はカバンからサングラスを取り出し紅人に渡す。渡されたものはレンズの色が薄く、必要以上に
「ありがとうございます」
紅人がサングラスを受け取った時、後ろからサイレンを鳴らした車がやってくる。中から降りてきた若い警官は現場を見るなり紅人に銃を向ける。
「大人しく両手を上げて、地面に伏せろ!」
「あー、待てよ。今ものを取り出すから撃つなよ」
紅人はうんざりしながら身分証を出そうとする。
「動くな!」
「落ち着けって。別に君にケンカを売ろうってわけじゃないんだ」
これだから無駄に正義を信じてる若手警官は嫌いなんだと毒づきたい気分にかられる。ただ、それを表に出しては余計面倒なことになるので、
「悪いけど君、右の内ポケットから身分証を出してくれないか」
「分かりました」
白髪の少女は言われた通り紅人のポケットを
「おい待て!」
警官は
「ごめん」
白髪の少女に先に謝った紅人は振り向きざまに80式拳銃を抜き発砲する。銃弾は警官の持つ銃に当たり、それを破壊した。
「すいません。話しても分からなそうでしたので、実力行使をさせていただきました。私、武装運輸会社BLACK HAWK 代表取締役柊紅人と申します。この通り行政特権で武器の携帯及び
紅人は
「つきましては今回のお
警官は無言で頷き少女をパトカーへ乗せる。紅人は終始笑顔でいたがその笑顔からは恐怖しか感じられない。
少女は「ありがとうございました」と言い去っていった。
「過保護だなぁ」
車から降りてきた
「うるさい」
紅人は色白の
「シスコンめ」
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