外のデビルにご用心
「では、身なりを整えたところで次のミッション【外に出て歩こう】に移ります」
「難易度
「散歩をして脳に爽快感を与え、前頭連合野を刺激すればやる気が出てくるんです」
「しゃーない。
仏教用語を使う天使は、ありったけの勇気を振り絞り、外へと出たのです。
「うおっまぶしっ……体が灰になる」
しかしその瞬間からへなへなと脱力してしまうサリエルでした。
「どれだけ外に出てないんですか」
「漫画雑誌をコンビニで立ち読みするときくらいしか外に出ない」
「悪魔退治は?」
「稀によくやる」
平然と言ってのける天使は祭加と肩を並べ、近所を歩きます。
そして数分後。
「うう、だる。ベンチで休ませて。コーラも飲みたい」
「まだ外に出たばかりですが」
早くも疲労困憊の怠惰天使。
そのときでした。サリエルのスマホに着信音が流れます。
「ん? ソロモンのスタミナ回復したか?」
「私はサリエルさんのスタミナが心配です」
しかし、スマホの画面を目にしたとたんサリエルは「あー」と乾いた声を漏らしてしまいます。
「どうしたんですか?」
「ミカエルからライン。ウチの管轄に悪魔が出たから退治しろってさ」
「やっと天使の仕事が始まりますね。さっそく了解ですと返信しましょう」
「いや。だるいから既読スルーする」
答えた瞬間、祭加の髪が蠢き、鬼気が溢れ出します。
「既読スルーする悪い子はいねがー!」
「んご! ごめんなさい!」
「わかればいいのです。ミッション【悪魔を退治しよう】のスタートです!」
しゅんっと秋田美人の顔に戻った祭加。しかし、首を傾げます。
「で、
そう呟いた直後でした。
突如、二人の前の通りで車が大爆発を起こしたのです。
「ひ、ひいー助けてくれー!」
運転手らしき男の人はなんとか車から逃げ出して無事のようでしたが、余りにも穏やかではない空気にサリエルは緊張しました。
「この邪気は……」
そして――
パララパパラパラパ
そんなラッパを鳴らしながら、バイクに乗った男が大破した車の隣に出現したのです。
「
高笑いを浮かべる男は闇より黒いサングラスをかけ、ロバのたてがみのような髪型。特攻服を身に纏い、背中には木刀が備わっていました。これだけ見ればただの暴走族ですが、異質なのは鹿のような角が二本生えているということ。
「どう見ても悪魔です!」
祭加は驚愕しながらその悪魔を凝視します。
「
「まさに
「俺は地獄暴走族☠
特攻服の☠齬壊帝厭☠という文字を見せつけながら
「ガミジン!? まさか、ソロモンのガミジンのモデル!?」
サリエルは目をきらきらさせ、有名人を見かけたときのように大興奮。
「サリエルさん、ときめかないでください。敵なんですよ」
祭加の言葉を聞き、今度は餓魅塵が眉間に皺を刻みます。
「
「さよう!」
答えたのは祭加でした。
「この方こそ天界一の天使サリエル様であらせられるぞ。人に仇なす悪魔よ、消え去るがいい!」
「何格さん的に啖呵切ってるわけ!?」
「
額の血管を浮き上がらせて、餓魅塵はバイクから下りると木刀を構えます。
「我が
悪魔オーラを放出させ
対するサリエルも応戦態勢。
とはなりませんでした。
「悪魔こわ。久々に
カカシのように棒立ちしていました。歯をカチカチ鳴らしてめっちゃビビってます。
「
そこへ餓魅塵の渾身の一撃!
哀れ。サリエルは悪魔によって蹂躙されてしまうのでした。
と――そんな未来を破り裂くように――
天使の頭の直前で、木刀はピタリと静止。
「
餓魅塵は驚愕します。最大の力を込めた攻撃が、華奢な人間の手によって止められたのですから。
「駄目じゃないですかサリエルさん。戦ってください! 天使なんですよね?」
木刀を指二本で止め、祭加は怯えているサリエルに発破をかけます。
「え、お前。悪魔の攻撃を止めたの?」
「そんなことはどうでもいいのです!」
「よくなくなくない?」
祭加の力に呆然とするサリエルです。
餓魅塵は口端を歪め尋ねました。
「お前、人間じゃ無ェ
「私は男鹿市観光課観光振興班特別神行事員萩祭加。そして
「誰がハゲだ
「なもみはぎです! 大事なことなので由来でも言いました!」
餓魅塵の木刀を受けていた祭加の姿が変貌します。黒髪がうねり、二本の角が額から伸び、仮面を被ったかのように神鬼の姿――なまはげへと。
「験力解放!」
天使にも劣らない神々しいオーラを迸らせ、
「それで戦うのか!」
「いえ、これは道具なので掲げるだけです」
出刃包丁を煌めかせ、祭加は力のある言葉を呟きます。
「
「動け無ェ!」
なんと、威勢がよかった餓魅塵の体がぴくりとも動かなくなりました。
「修験の力で金縛りにしました」
「最初から思ってたけどお前の
「しかし、なまはげは人を殺しません。あくまで懲らしめ更生させるだけですから。なので、ここからはサリエルさんの仕事です」
餓魅塵を封じながら、祭加は尋ねます。
「天使の武器はないんですか?」
「しゃーない。ウチの武器を見せてやる。久々過ぎて出し方忘れちったけど」
ううんと唸りながら、サリエルは手に魔力を集中させます。すると、黄金色に輝く光が溢れ、固形化。彼女の手には夜空から盗んできたかのような三日月の鎌が握られたのでした。
「すごく天使っぽくない武器ですね。むしろ死神?」
「いや、これがサリエル家伝統の武器だし。エノク書にもそう書いてある」
鎌を構えてサリエルは
「よ、よし。動けない今がチャンスだ! 悪魔よ、滅びるがいい!」
餓魅塵目掛けて鎌を一閃!
させようとしたそのとき、天使の右足首から異音が発生。
「んご? ぐねった!」
そのままバタンと倒れてしまいました。
「だが落ち着け! 奴は動きを止められている! あとは余裕の
そう言って赤くなった顔を上げたサリエル。しかし、その瞳が瞬時に曇ってしまいます。
「誰がオッチャンだ
「え……?」
「あ……ぐ……」
そこには餓魅塵に首を絞められ呻く祭加の姿があったのでした。
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