5
それは突然のことだった。ある土曜日の朝気がつけば父が私の服を脱がせていた。呆然気質であった、というか恐怖であり声が出なかった。大声を出そうにも、例え微笑の声を出そうとも声にはならなかった。
狭い団地に住んでいたため私と父は一緒の部屋に寝ていた。小学生までは何も感じなかったが、中学生になれば多少なりとも思春期の恥じらいというものが心の中に居座り、父と一緒に寝るのは抵抗が出来ていた。ましてや、昨日と昨月と昨年と父からの暴力が始まってから父が怖くなっていたのだ。しかし、それは愛情と認識していて虐待とは後になって認識し始めた。この頃から、父への変化を期待しなくなった。どうしようもない、きっと男と女の関係なのだから。
服を乱暴に脱がせば次は自ずと下着へと手が回った。只でさえ気が動転していたのに下着まで脱がされるとなると話が違う。というか、看病の以外で親が子の服を脱がせるなどとても考えられない。正直言って親であるにも気持ち悪かった。
「やめて・・・・・やめてってば!・・・・やめてぇ・・・」
それでも猛虎の手は静まることを知らなかった。むしろ、抗えば抗うほどに恐ろしく強引になっている。
「何を・・・・!やめて!本当にやめて!」
父の目は血走っていた。どれだけ、仕事でストレスが溜まったのかと私は心配した。
父を説得する言葉を口に出しては虚しく布団の上へ転がるだけだった。
抗う内に何度ものた打ち回っていることに気がつく。布団、掛け布団が滅茶苦茶になり無残にその仕事を終えたようだった。あとで、片づけがめんどくさくなる、私は反射的に思った。それよりも、そんなことを暢気に考えているよりもこの状況を打破することの方が重要で最優先にせねばならないことだった。
下を見ればとうとうブラジャーが外されており遠く彼方へと放り投げられていた。私は涙を堪えながら必死に父を叩いた。だが、女の打撃など男にとってはまるで効いておらず父は表情一つ変えなかった。硬くなっていく一方だ。
怖い
嫌だ
助けて
怖い
嫌だ
助けて
痛い
痛い
痛い、痛い、痛い
「胸が駄目なら、せめて股を開け!」
父は強引に私の太ももの間に手を割り込ませる。
怖い、不意に思ったとき、私は父の頬を叩いていた。父は一瞬、顔を硬直させ身体を固まらした。何が起こったのかわからない、といった表情だ。この隙に逃げればと私は身体を起こした。しかし、我に返った父はさらに力を増して私を押し倒した。
もう、どうすることもできず必死身体を丸め込めるしか出来なかった。腕で胸を守り、足で股間を守った。反撃など頭の中に無かった。いや、存在すら許されないのかもしれない。
私は泣きながら。半ば血を流しているのではないかと錯覚するくらいに目を痛ませた。
ごめんなさい。許して
ごめんなさい。許して
ごめんなさい。許して
時々、痛い
時々、痛い
ごめんなさい
ごめんなさい
いつの間にか呪文のように唱えていた。
父は私とすることができなかった怒りからなのか、私の背中を思いっきり殴り続けた。
私は床に丸まり息をすることさえままならない。
これが親のすることか。絶望の中に怒りがこみ上げる。自然と目つきが鋭くなる。父と目が合った。父は眼光鋭い私を見て少しうろたえた。しかし、止まることは無く力を強めながら夜まで私を殴り続けた。
目を覚ませばあたりは暗くなっており、どうやら深夜のようだった。
部屋の明かりも点けず私は床の上で丸まって気を失ったのも同然もように寝ていた。
父は何処かに行っているらしくあたりはしんっと静まり返っていた。
心臓の音が生きていると実感させる。死ぬかと思ったがどうやら死んでいなかった。安堵のため息が自然と出た。服は着ておらず上半身は裸であった。かろうじてパンツは履いており下半身は裸ではなかった。
父の暴力があそこまでに激化するとは思わなかった。むしろ、静まるものだとばかり考えていた。迂闊だった。何故、想像出来なかったのかと自分を責めた。しかし、その姿も無理があり私は安堵以外に何も思わなかった。
身体が疲労しきっておりどうすることも出来なかった。
しばらくしてから身体を起こし洗面台へ向かった。恐る恐る背中を鏡に向けてみれば、そこには大きく痣が出来ていた。
小さな痣が見えないところにあるが、これじゃ着替えのときなど見えるかもしれない。私は身を震わせた。みんなからなにか言われる。からかわれる、笑われる。みんな、親から殴られたことがないからきっと私をおかしく言うに違いない。そう思うと、月曜日が途端に嫌になった。逃げ出したい。心から、そう思った。そして、父からも。
世間とは急速に進んでいく。気付けば翌週になっており、ある程度痣も引いていた。多少は色も引いており目立たなくはなっていた。それでも気になった。
下着を身に着けるとき視界の片隅に残酷に映る青い痣は父のあの顔をいつでも思い起こさせた。その度震えが止まらなく、目に涙を浮かべざる終えなかった。怖くない、と思いたいのに、あのときの暴力の痛みと父の怖い顔が無理やりでも私に恐怖を植え付けた。
鏡をみれば真っ赤な目をした自分が立っている。学校に行こうとしているのに涙腺が崩壊しており止らない。止められない。
ぐちゃぐちゃにはなっていないもの到底すぐに泣き止む様子も感じなかった。
洗面台に手を着いて前屈みになる。いつまでも、いつまでも溢れ出る涙が直接的にセラミックに落ちる。本当は音もしないのに恐怖がこびり付いているせいで跳ねる音が鼓膜に響く。響くというよりも鼓膜の中で反響していた。きっと記憶がそうさせているのだろう。
また土曜日が訪れていた。
あれから一週間特に友達に詮索されることはなかった。ただ、あの土曜日の痣が少し見えていたのかクラスメートの一部には怪訝な目で見られた。それ以外は何も無かった。ひとまず胸を撫で下ろした。痣を見られのが何故だが嫌で、不愉快だった。決していい気分ではない。
父はあれから何を思ったのか何も話さなかった。ろくに目もあわせず家にいても静かに酒を飲んでいた。だがときどき、欲求を抑えられないのか家具に当たり散らしたりしていた。そのとき、耐えられなくなり家を静かに出ていった。
そんな中の土曜日であった。
今父は居ない。朝起きたらもうすでに居なかった。朝は自分に作って食べたのか流しには水に浸かった食器たちが静かに佇んでいた。
扉が開かれる音がし足音を立てて父が勢いよくリビングに入ってきた。
父と久しぶりに目が合った。父は至って普通の外見をしている。何故、外見に目が行くのか自分では図りきれていた。
きっと内面であんな見たくない姿を見てしまったのだからだろう。
憧れを
願望を
皆が抱いているあろう、もしくは当たり前と思っている親の象を、私は父に押し付けようとしているのだろう。それもいいかも知れない。けど、もうこの先されることはわかっている中、今更理想像など押し付けたくなかった。
「起きたのか」
静かに父は言った。手にはビニールの袋。重さは特に無く、軽い物なのだろうか。
直感が囁く。私は子供心にそう思いたくなかった。だが、思わずにはいられなかった。
父が袋の中を弄りだした。出てきたのはナフキンと、コンドームだった。
気付けばこれはもう3回目だった。
痛くても痛さが快楽に変わっていく。
身体の中に熱いものが出入りするたびに声を上げずにはいられなかった。最初のときは近親相姦が脳裏をよぎり怖かった。父は何を考えているのかわからなかった。
強引に挿入られたとき泣きそうに、いや誰の顔も見たくないぐらいに恥ずかしさがこみ上げてきた。それを追いかけるように感じたくも無い痛さが股間から全身へと広がった。
シーツが真っ赤になっているのを視界に収めたとき、私は最初を奪われたと生意気ながらに感じた。もちろんそういうことを知らなかった訳じゃない、だから最初が彼氏やましては好きになった男のひとじゃなかったのがとてつもなく処女の心にはきつかった。辛かった。
ショックから鮮明には憶えていない。一方的に父は気持ちよくなっていたらしいし私も少なからず痛みには耐えながらも気持ちよさを感じていた。喘ぎ声だけが部屋中に響いていた。
ただし現状はそんな優しい腰振りではなかった。激しく腰を振り、あの頃に比べれば速さも速くなっていた。
「お前…うまくなったんじゃ、ないのか」
父は興奮を抑えることができずに私の腰を評価した。評価されたくもないこの私は未だに快楽の沼から抜け出せずにいる。やはり、成人の男子と高校生の男子では太さも硬さも違ってくるものだろうか。当然違ってくるのだろう。成人のほうが、しかし多少なりとも個人差はあるもののやはり硬くそしてなにより大きいのだろう。私はとろける脳内でそう感じていた。
股や腰に痛みを感じながら私と父はもう夜に差しかかろうとした赤に染まった夕方に目が覚めた。しかし、自然と2人は胸中に嫌気が差しながらもキスを交わした。柔らかい唇の感覚が鈍っていた感覚を瞬時に目を覚まさせた。
父は勢いのまままた私のあそこをかき回そうとした。興奮で濡れながらも私は父の前戯で感じていた。そのまま、挿そうとする父に私は制止させた。
「今日は…もう止めて」
消え入りそうその声は父の耳に届いたのであろうか。わからないが隠そうとしないままに父は止まっていた。何かを考えている様子だった。
「そうか、すまん」
父にしてはやけに素直だった。パンツを履き陰部を収めてはズボンを履いた。
父はぼんやりと日の沈んだ空を見ていた。窓から見える空なんても痛々しい赤だった。浅い黒が鮮烈な赤に我よと混ざっていた。もう夜だ。私は服を着始めた。
その日から一週間位の後から父が強烈に私を求めるようになった。
それはというと、学校の日はもちろんのことおまけに休みに日まで。そうずっとである。成人男性の陰部がずっと入っているのである。いい加減他のも試したくなる。同じクラスあの子とか、同級生のあの子とか、先輩のあの人や後輩のあの子まで。様々の人を想像しながらヤっていた。そうじゃないと気持ちよくはなかった。
小さくてもいい、硬くなくてもいい。とりあえずは他のが欲しい。もう父でなりきっている以上は男優を求める以外は上に目指す術は無いだろう。しかし、他のものならそこら辺に五万と転がっている。童貞でもやりチンで構わない、とりあえずはほかのものを…!
そう感じていた矢先、父は私の中に出したのだ。最初は気付かなかった。だが、時間が経つに連れてお腹の辺りがじんわりと温まるのがわかった。
瞬間、私は父を叩いていた。頬を思いっきり力を込めて。腕からに因るものではなく肩から叩いた。衝撃か父の上半身は布団から飛ばされた。
父は顔を真っ赤にして訳の分からない言葉を発し私を押し倒した。陰部がぶら下がる状態で私に跨った。ふいに臭気が鼻腔を刺した。反射的に不愉快になる。嫌いじゃなく。
顔に痛みが走った。続いて胸。続いて肩、それから…感覚のある部分が瞬時に冒されていく、と同時にナレーションが頭の中を不愉快に走り回る。いつの間にか私は殴られており、身体を動かすことさえ困難であった。白目を剥いていたのであろうか。私は記憶が無かった。だが、痛いと言う感覚は全身という全身に巡り脳内に新たな脳細胞として刻み込まれようとしていた。赤ちゃんが親の言葉を聞くように。憶えるように。
私は横になりながらも朦朧とした頭を懸命に支え体を上げた。目の前では父が鬼のような形相でこちらを睨んでいた。
「なぜ、俺を叩いた。」
「当たり、まえでしょ」
「当たり前じゃない。俺が中にしたんただぞ?どれだけの時間を懸けて出したと思ってる?」
「お母さんにも、同じこといったの…?」
「当たり前だ。それが普通だよ。」
「普通?意味分からない…」
「なんだ?俺がどれだけしんどい思いをしたか、てめぇわかってんのか?」
「わからないわよ、そんなの…」
「わからない、?せっかく、俺の子供が作れるのに、か?」
「その顔、やめて!あんた、私に子どもを埋ませるつもりだったの?!」
「そうだ。感謝しろよ、俺が最初だ。」
「やだ!そんなの!他の人…!同級生や先輩、後輩が良かった!」
「お前そんなこと考えてやがったのか!このアマ!」
頬に衝撃が走る。そして、壁に打ちつけられた。
「お前、俺としている最中にそんな、他の男のことを考えていたなんて、ふざけるな!俺としてるとき位俺だけを見ろよ!」
「何回も見てるよ!思ってしてたよ!そんなの…思わずにはいられない…でも!もう嫌なのよ!私だって一人の女だから、だから始めて位は好きな人としたかった!出されるのだって愛している人が良かった!それなのに、私の心を踏みにじって自分に性欲だけ処理されるなんて…最っ低ぇ!」
「このガキ…!黙って聞いてりゃ…っ!」
父は前傾した。私は腹が立って父の股間を思いっきり蹴った。父はそのまま悶絶しているのを横目に私は立ち上がり家を出ようとした。拠り所は無い、しかしこんな場所早く出て行きたかった。
「おい…まて!」
後ろから父の声が聞こえる。しかし、もう振り返る気はない。
「お前は!俺以外は感じないぞ!もう、大人でなれてるからな!他のやつだって無駄さ!」
父は高らかに笑った。
私はの言葉を背中に貼り付けたまま、ここを後にした。
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