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 私が中学生になったとき父は喜んでいた。しかし、そんな笑顔とは裏腹に小学校のときのあの言葉が蘇る。きっと気のせいだ。この笑顔は清いものだ、私はそう自分に言い聞かせた。

 式が終わり、その夜は外食となっていた。

 父は我が娘がもう中学校か、と何処か誇らしげに笑っていた。しかし、またあの言葉が蘇る。というよりも脳裏を掠った。

 父と少し豪華な店に入り二人とも何処か浮ついていた。初めてみる豪華さに私は女心をときめかせずにはいられなかった。離婚してからは、贅沢は出来なかった。私も贅沢をしようとは口には出さなかった。何故なら、そこまで貧乏な暮らしでもなく無理はできない、といった状況だったからだ。ここで私は男親に引き取られて良かった、とちょっぴり思ったのだ。

 夕食の時間はいつもと違う楽しい雰囲気っが流れていた。二人とも笑っており少なくとも一人の人間としてお互い接していた。

 こんな表情が見れるのなら父はきっとストレスが溜まっているだけなのだと納得していた。これからは、二人で楽しい家族の時間が過ごせるのだと。私は、まだ成熟していない心でそう思った。

 しかし、相手は男だ。何を考えているのかわからない。

 

 夕飯を私が作るようになってからは父の笑顔が少しずつ増えていった気がする。もう、二度とあんなことは起きないと心底思っていた。

 私も自然と顔が綻び二人の間には穏やかな空気が流れていた。

 お互い学校ではこんなことがあった、会社ではこんなことがあった、と話合っていた。そのときは、お互いとても楽しい時間過ごしていたと感じている。大笑いしながらも、時には過度の感情移入をしお互い冗談を掛け合っていた。そんな日々が永遠に続くと思われていた。いや、思っていたしずっと続いて欲しかった。

 私が女でなければの話だ。


 追い出しは無くなった。しかし、次に暴力が問題となった。

 もう中学校になった私の父の印象は暴力に支配された。どうやっても屈することは無い。できない。

 ある日を境に父の暴力癖が出てきた。癖なのか、ストレスや疲労から来るものなのかはわからないだがしかし、暴力といっても殴る蹴る等は未だ無いが、見えないところに痣や傷を作られた。

 痛い、そう言っても父の暴力はと止まることは無かった。何度も言いかけても、何度訴えかけても、何度懇願しても何も通じなかった。止まることはなかったのだ。

 痛いというより、ちまちまされて継続的に痛いという感じだった。

 それでも、まだ我慢出来るぐらいできる痣も1,2箇所程度で太ももやお尻、二の腕などで体操服に着替えるときなどは見せないように着替える程度で思春期特有の恥じらいは特に何も起きなかった。女の子はとてもめんどくさい。見つかったら、答えるまで話してはくれないだろう。答えたくない。何より、父から受けたというのが私の羞恥心を煽るのだ。思春期は関係なく、きっと親への信頼なのだろう、と自分を言い聞かせていた。

 だがしかし、これもまたどんどんとエスカレートしていくのだ。今度は、何の罪悪感も無く私を打っていた。

 と言っても、この先高校で受ける暴力などの前触れに過ぎなかったのだ。ここさえ、この中学校さえ超えれば父は変わってくれると信じていたのに。けど、今思えば何故もっと過激なっていくことを考えなかったのか、それは今の私にもわからない。

あのときの父は、私を殴る以外多少イライラが見え隠れしていた。


「その後、どうなったんだ。卒業まで」

 言ってみるも、少女から返事が返ってくるのは少し間を置いてからであった。

「その後・・・高校へと続く、前触れ」

「同じことをいわれても困る。」

 トオルは何か渋っている少女を急かした。トオルはその先を知りたくて仕方がなかった。両手が小刻みに震える。それを感じるのに数秒のタイムラグが生じる。

「下の・・・下の、部分とか、とりあえず言うなれば思春期、誰もが興味をもつところも・・・てこと!」

 少女は言葉を打ち切り激昂した。触れらたくはないのだろう、思い出したくはないだろう。きっと、そのことさえなければ、中学校の続きが高校でも続けば、きっと彼女としても父を憎むことは無かったのだろう。こんな、惨めで、悲しくて、言いたくない様な、思い出したくない様な父の姿を脳裏にこびり付かせることは無かったのだから。

 少しトオルは同情した。いや、この場合同情なんてされても誰も嬉しくは無いだろう。俺だったらそうだ、俺の何を知っている、と言ってやりたいものだ。

 トオルは視線を床に落とし、少女の裸足を眺めた。服の裾から覗く青紫のそれはでかく、しかし申し訳なそうに彼女の足にこびり付いていた。まるで、トオルに付着した赤い、赤黒い染みのように。おもわず、親近感を感じずにはいられなかった。それは、高校のときにつけられたのだろうか。トオルの中に痣をつける少女の父の姿が浮かぶ。まるで、それが生きがいでもあるかように、その幻は生き生きとしていた。恐ろしかった。想像しただけでも。

 白い痣だらけの足が強引に隠される。どうやら、少女が視線を感じ取ったらしい。というか、見ているだけでもわかるであろう。

「あんまり、見ないで。見せ物じゃないんだから・・・・」

 恥じらい半分、険悪が半分と言ったところか。そんなことトオルにはどうでもよかった。問題は続きであった。トオルはその先が知りたくて堪らなかった。

「続きは?」

 トオルは少女を見据え、先を促した。

 少女は遠く夜景を見ながら口を微かに動かした。

 そちらを見れば、それは夜景であった。しかし、今日の夜景、では無くどこか違う夜景であった。後に確認すれば時は一ヶ月も過ぎていた。

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