第二十話 真昼と夕空
「悪いわね、車出してもらって」
「ううん、全然大丈夫だよ。それで、どこに行けばいい?」
「この不動産屋に連れてって欲しいの。見たい物件も決まってるから」
「まーちゃん、本当にこっちで暮らすの?」
「ええ、朝陽が心配だからね。悪い虫がつかないように見張ってないと」
「まーちゃんてば、相変わらず過保護だなぁ。気持ちは分かるけど、お仕事はどうするの?」
「仕事がある時だけ東京に戻ればいいだけよ。頻繁に仕事があるわけじゃないしね。夕空も同じでしょ?」
「確かにそうだね。でも、それなら、わざわざ家を借りずに私の家で暮らせばいいのに」
「叔父さん達に迷惑はかけられないし、自分の家の方が気が楽だからね」
「でも、まーちゃん、家事全然出来ないよね?ご飯とか掃除はどうするの?」
「ぐっ、痛い所を突くわね……ふ、ふん!ご飯は外食でいいし、掃除はハウスキーパーを雇えばいいのよ!」
「まーちゃん、苦手な事から逃げちゃ駄目だよ。将来結婚した時に困るよ?」
「出来ないものは出来ないんだから仕方ないじゃない!」
「はあ……分かった、私がご飯作って掃除をしてあげるよ」
「本当⁉︎」
「うん。まーちゃんが心配だからね」
「じゃあさ、夕空も一緒に暮らそうよ。いちいち家事をしに来るのは面倒でしょ?」
「ルームシェアって事?」
「そうそう。家賃とか光熱費は私が出すからさ」
「うーん……どうしようかな……」
「ね!お願い、夕空様!」
「はぁ……分かったよ。お父さんに相談してみて、許可が出れば一緒に暮らすよ」
「ありがとうー!さすが夕空、話がわかるー」
「もう、調子がいいんだから……」
「じゃあ、早く物件決めないとね!早く不動産屋に行こう!」
………
……
…
「二人で暮らしても余裕がある物件だったわね」
「そうだね、三人でちょうどいい感じだったね。それで、あの物件、契約するの?」
「もう少し考えてから決めるわ。もっと良い物件があるかもしれないしね」
「うん、そうした方がいいよ。焦ってもいい事ないよ」
「さてと、今からどうする?お腹空いたし、どこかに食べに行く?車出してもらったお礼に奢るわよ」
「そうだね、ご飯にしようか。何かリクエストはある?」
「そうだなー……イタリアンがいいかな。パスタかピザが食べたい」
「分かった。いいお店知ってるから、期待しててね」
「夕空のおすすめなら間違いないわね。期待してるわ」
………
……
…
「あー、美味しかったー!やっぱり夕空のおすすめに間違いないわねー!」
「ふふふ、満足してもらえて良かった」
「やっぱり夕空といると楽しいわー」
「そうだねー。私も凄く楽しいよ。ねえ、せっかくだし、今日は家に泊まっていかない?」
「え、いいの?」
「うん。お父さん達もまーちゃんに会いたいだろうし、ルームシェアの件、許可を貰わないといけないしね」
「うーん、じゃあお言葉に甘えようかな」
「着替えは私のを着ればいいから、このまま家へ行こうか。もう暗くなりはじめてるし」
「じゃあ、朝陽に電話するから、ちょっと待ってて」
「うん、分かった」
……………
「電話終わったわよ」
「じゃあ、出発するね」
「うん、よろしく」
………
……
…
「ただいまー」
「おかえりー。あれ、何で真昼も一緒なの?」
「色々あってね、今日は家で泊まってもらう事になったの」
「今日はよろしくね」
「じゃあさ、時間もたっぷりあるし、車のカスタムの相談に乗ってよ」
「いいわよ、安くて良いカスタムを考えてあげる」
「やったー!ありがとう、真昼!」
「ふふふ。二人とも、あー君絡みの話じゃなければ仲良いよね」
「それは、弟を狙う野獣じゃなくて、普通の従姉妹って状態なら、良い奴だから仲良いのは当たり前よ」
「うん。朝陽ちゃんとの関係を妨害する邪魔者じゃなかったら、お姉ちゃんと同じくらい信用できる奴だからね」
「二人に愛されて、あー君も幸せ者だね」
「それがね、今日も朝陽ちゃんにちよちゃんの事で惚気られたんだよ……」
「え!ちょっと待って、その話、初耳なんだけど」
「今日、朝陽ちゃんとお昼食べに行ったんだよ。それでね、朝陽ちゃんがコンタクトしてないのに気づいてそれを教えてあげたの」
「は⁉︎あの子、また入れ忘れたの⁉︎」
「それで、いつまでもトラウマから逃げちゃいけない、この眼はちよちゃんとの絆だから、コンタクトをつけるのをやめるって言い出してね」
「入れるのをやめるか……いい事なんだろうけど、複雑な理由だな……」
「それでね、ちよちゃんの事、大好きなんだねって言ったら、世界一大好きだって言われたよ。はっきりと目を見てね……」
「うーん、世界一がちよちゃんなら、世界二位は誰なんだろう?」
夕空がそう言うと、ピリッとした空気が真昼と夕優を包み込んだ。
「そんなの、姉の私に決まってるじゃない」
「残念でしたー!世界二位はアタシでーす!」
「はぁ⁉︎嘘言ってんじゃないわよ⁉︎」
「本当でーす!はっきりと言われたもんねー!」
「ま、まさか……姉の私がアンタに負けるなんて……ありえない……」
そう言って、真昼は膝から崩れ落ちた。
「ゆーちゃんが二位なら、まーちゃんや私は何位なんだろう?」
「ギクッ⁉︎」
「あら?ゆーちゃん、何か知ってるの?」
「それは……えっと……」
「ゆーちゃん、お姉ちゃんに秘密は駄目だよ?」
「うぅ……」
「ゆーちゃん?」
「……位です」
「うん?」
「二位です……お姉ちゃんも真昼も二位です……」
「あら、本当に?嬉しいなぁ」
「ちょっと夕優!それならそうと、最初っから言いなさいよね!おかしいと思ったのよ!姉の私が、アンタより下な訳無いわ!」
ショックから立ち直った真昼が夕優を責め立てる。
「ゆーちゃん、どうして秘密にしようとしたの?」
「それは……真昼の悔しがる顔が見たかったから……」
「ゆーちゃん……」
夕空が夕優に哀れみの視線を向けた。
「あー、ヒヤッとした。でも、三人揃って二位って、あの子らしいわね」
「そうだね。あー君、優しいからみんなを大切に思ってくれてるんだよ」
「確かに、三人とも大切な存在って言ってたよ」
「まぁ、大切な存在って思われてるなら、夕優と同率でも我慢するわ」
「我慢するのはこっちだよ。絶対に一番大切な存在になって、悔しがる顔を見てやる!」
「それはこっちのセリフよ!絶対に吠え面かかせてやる!」
「二人とも、そんなに興奮しないで、仲良くしなよ」
「「コイツが突っかかってくるのを止めればね!」」
「はぁ……」
言い争う二人の姿を見て、夕空はやれやれといった表情で首を振った。
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