第十九話 幽世と現世


「はー、いっぱい話したねー!ちょっと疲れちゃった」


「そうだね、さすがに疲れたよ。今何時だろう?」


 時間を確認すると、深夜零時をまわっていた。


「もうこんな時間か。時間も遅いから、そろそろ帰ろうか。家まで送るよ」


「家か……」


「どうかした?」


「あ、あのね、それなんだけどね……朝陽にお願いがあるの……」


「お願い?」


「あの、しばらくね、朝陽の家に泊めてくれないかな……なんて」


「……は?今、なんて……?」


「朝陽の家に泊めてほしいって言ったの……」


「えっと……どうして?」


「実はね、朝陽に会いに行くって言ったら、妹と大喧嘩しちゃって……だから帰りづらいんだ。駄目……かな?」


「俺に会いに行くって言ったら大喧嘩って……妹さん、俺の事、よく思ってない?」


「よく思ってないっていうか……極度のシスコンでね、朝陽の話をする度に、荒れに荒れるの……」


 うわあ、うちの姉ちゃんと似てる……。


 千夜も苦労してるんだな……。


「千夜も苦労してるんだね……うちの姉ちゃんも凄いブラコンで困ってるんだ……」


「お互い大変だね……」


「うーん……俺はいいんだけど、今、うちに姉ちゃんが泊まりに来てるんだけど、それでもいい?」


「うん、大丈夫だよ。あ、見えなくした方がいい?」


「いや、見えなくしなくていいよ。姉ちゃんには紹介したいし」


「うん、分かった」


「じゃあ、うちで一緒に暮らそうか」


「えへへ。ありがとう、朝陽」


「しばらくうちで暮らすなら、服とかどうする?」


「うーん……家に取りに帰りたいけど、絶対に妹が待ち構えてるからなあ……どうしよう……」


「じゃあさ、着物は無理だけど、普通の服でいいなら俺が買ってあげるよ」


「え、いいの⁉︎人間の服って高いんじゃないの?」


「物によるんじゃないかな。まあ、値段なんて気にしないで、好きなの買ってあげるよ」


「おお……旦那様がリッチな事言ってる……」


「ははは、そんなにリッチじゃなけどね」


「リッチだよー。だって、友達が人間の服は凄く可愛いけど、凄く高いって言ってたもん」


「え?妖って、人間の服とか買うの?」


「うん、こっちで暮らす妖は買ってるよ」


「こっち?」


「ああ、朝陽は知らないよね。私達妖は幽世かくりよっていう世界で暮らしてるの。朝陽達が住んでるこっちは現世うつしよっていうの。で、一部の妖はこっちで住んでるの。理由は様々で、人間と同じ暮らしがしたいとか、人間と恋に落ちてとか、そういう理由で暮らしてるの」


「幽世に現世か……じゃあ、千夜の家族もこっちで暮らしてるの?」


「ううん。みんな幽世で暮らしてるよ。現世に来るのは、私と妹弟達くらいかな」


「そうなんだ。現世で暮らす妖がいるなら、幽世で暮らす人間ているの?」


「凄く珍しいけどいるよ。みんな、妖と結婚して幽世で暮らす事を選んだ人達なの。私の友達も人間と結婚して、仲良く暮らしてるよ」


「へー、そうなんだ」


「朝陽はさ、私が幽世で一緒に暮らしたいって言ったらどうする?」


「もちろん幽世で暮らすよ」


「えへへへ、嬉しいなあ。でも、幽世で暮らすと、家族にはなかなか会えなくなるよ?」


「たまに会えるなら大丈夫だよ。俺は千夜と一緒にいられたらそれで幸せだから。逆に千夜は俺が現世で暮らしたいって言ったらどうする?」


「もちろん現世で暮らすよ」


「ははは、やっぱり俺達って似た者同士だね」


「えへへ、そうだね。私達、凄くお似合いなんだよ。これから夫婦になって、永い時間を二人で過ごすけど、ずっと変わらずお似合いな二人でいたいな」


「そうだね、年をとっても、周りからバカップルって言われるくらい仲良しな二人でいようね」


「バカップルか……そうだね、バカップルになって、ヒノエや初花よりも幸せなところを見せてやらないと」


「ヒノエ?初花?」


「私の親友だよ。二人とも人間と結婚したんだけど、会うたびに惚気話してくるの!本当うんざりする程、毎回毎回長時間付き合わされるの!だから、今度はこっちが惚気話してやる!」


「ははは、仲良しなんだね」


「うん、親友だからね。でも、惚気話では負けたくないんだよ。私と朝陽のほうが世界一仲良しなんだから」


「そうだね、俺と千夜は世界一仲良しな夫婦だもんね」


「うん!朝陽、だーい好き!」


 千夜と戯れながら石段を下りると、そこには誰もおらず、静けさだけが広がっていた。


「あー、祭り終わっちゃんだね。みんな幽世に帰っちゃった」


「え?ここでお祭りしてた人って、みんな妖だったの?」


「うん、そうだよ。少ないけど人間もいるけどね」


「え?人間も参加できるの?」


「実際、朝陽も参加できたでしょう?境の面を着ければ、妖も人間も関係なく参加できるよ」


「この面が必須なのか」


 俺は手に持った面を見つめた。


「そうだよ。この面はね、幽世と現世の境に行ける力があるの。このお祭りはその境でやってるから、みんな面を着けてこっちに来てるんだよ」


「じゃあ、この面、無くさないようにしないと」


「大丈夫だよ、無くしたら私が作ってあげるから」


「え、作れるの?」


「うん。だって、昔朝陽にあげた面は私が作ったやつだもん」


「あれって千夜の手作りだったのか。今でも大切にしまってあるよ」


「えへへ、大切にしてくれてありがとね」


「千夜からもらった物だもの、大切にするのは当然だよ」


「そう言ってもらえると、頑張って作った甲斐があるよ。今度、また何か作ってあげるね」


「うん、楽しみにしてるよ」


「期待して待っててね」


 話ながら歩いて、俺達はバイクの元にたどり着いた。


「これ、オートバイって乗り物だよね?凄くカッコいい!」


「ははは、ありがとう。さ、これを被って後ろに乗って」


「了解です、旦那様!」


「じゃあ、しっかり掴まっててね」


 背中に愛する人の温もりを感じながら、俺はギアを入れ走り出した。

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