第十六話 結び文
「朝陽ちゃん、おはよー」
「相変わらず寝坊助ね。もっと早く起きられないの?」
目覚めると、二人はコーヒーを飲みながらくつろいでいた。
「ふぁあ……おはようございます……」
「朝陽ちゃんもコーヒー飲むよね?ブラックでいい?」
「ブラックでお願いします……」
「了解、美味しいの淹れるから待っててね」
「はい……ありがとうございます……」
「アンタさあ、こっちに来てからずっとこんな生活してるの?」
「そうだけど?」
「はあ……もう少しまともな生活しなさいよ。起きたのが十時って、一ヶ月で大分駄目人間になったものね」
「別にいいだろう。ちゃんと仕事はしてるし、文句を言われる筋合いはないね」
「はーい、コーヒー淹れてきたよー」
「ありがとうございます」
一口飲むと、少し眠気が覚めた
「夕優、お代わり頂戴」
「はいはい、了解」
「あ、姉ちゃんの分は俺が淹れますから、夕優姉は座ってて下さい」
「いいのいいの。飛び切り不味いのを淹れるから」
「ちょっと、そういう話は本人に聞こえなようにしなさいよね。もういいわ、自分で淹れる」
姉ちゃんはぼやきながら、カップ片手に消えて行った。
「朝陽ちゃん、朝ご飯、何かリクエストある?」
「今日は俺が作りますよ。昨日、美味しい晩御飯を作ってもらったお礼です」
「本当⁉︎やったー、嬉しい!」
「朝陽の作るご飯は絶品だから期待していいわよ」
「ハードル上げないでよ。まあ、料理には自信あるけど。じゃあ作ってくるから、大人しく待っててね」
「「はーい」」
………
……
…
「美味しかったー!お姉ちゃんの料理より美味しかったよ!」
「やっぱり朝陽の料理は絶品ね。お金払ってもいいくらい美味しかったわ」
そう言って、二人は笑顔で完食してくれた。
「ははは、ありがとう。素直に嬉しいよ」
「さてっと、朝ご飯も食べたし、そろそろ出かけるわよ」
「あ、うん。すぐに準備するよ」
「なになに?二人で何処かに行くの?」b
「朝陽の車を買いに行くのよ。こっちで暮らすなら必要でしょ?」
「車買うの⁉︎朝陽ちゃん、やっぱり凄いお金持ちだねー」
「そんな事無いですよ。趣味にお金かけすぎて、万年金欠ですから」
「本当にバカよねー。ちゃんと貯金してたら、今頃一国一城の主人だろうに」
姉ちゃんは呆れたようにそう言った。
「うるさいなー、自分で稼いだ金を何に使っても、姉ちゃんに文句言われる筋合いはないよ」
「はあ……アンタの事を思って言ってるんだけど……馬の耳に念仏とはこの事ね……」
「気持ちだけ受けとっとくよ」
これ以上小言を聞きたくなかったので適当に聞き流した。
「はぁ……もういいわ。ほら、さっさと行くわよ」
「ねえねえ、アタシもついて行っていい?」
「いいですけど、多分退屈ですよ?」
「ついてくるなら、アンタの車で行くわよ。朝陽のバイクじゃ二人しか乗れないんだから」
「退屈じゃないよ!運転なら任せて!じゃあ、車で待ってるねー!」
「了解です」
「私も夕優の車で待ってるから、早く来なさいね」
「分かってるよ、直ぐに行くから」
俺は急いで用意をして、夕優姉の車に乗り込んだ。
「お待たせしました」
「それで、何処のディーラーに行くの?」
「バイクと同じ会社のディーラーに行こうと思ってます」
「あー、あそこの車なら性能もいいし、見た目もいいからお薦めね」
「りょーかい!じゃあ、しゅっぱーつ!」
………
……
…
「着いたよー」
「さて、どの車が良いか私が選んであげるわ」
「いやいや、朝陽ちゃんが買うんだから、本人に選ばせてあげなよ」
「この子センスないから、センスの良い私が選ぶべきなのよ」
「いや、安い買い物じゃないんだから、自分で選ぶよ」
「ふーん……。じゃあ、お手並拝見といこうじゃない」
………
……
…
「夕優姉、姉ちゃん、これ良くない?最高にカッコいいんだけど!」
「テンション高すぎ……しかも、お薦めしたSUVじゃないし。でも、中々良いセンスだわ」
「だろー!コイツを見た瞬間、ビビッときたんだよ!」
「アタシも良いと思うよ!凄くカッコいい!」
「値段も無理の無い範囲だし、早速契約してきます!」
「無理の無い?そんなに安いの?……あの、普通に高額なんだけど……。何処が無理の無い範囲なの……?」
「気にすると負けよ。あの子の金銭感覚、バグってるから。どうせオプション全盛りで、納車したらヤバいくらいカスタムするに決まってるから。あの子のバイクみたら分かるでしょ?」
「やっぱりお金持ちだねー。アタシの車、ノーマルだから少し羨ましいよ」
「アンタもイジればいいじゃない。私もイジってるけど、そんなにお金使わなくてもいいカスタム出来るわよ?」
「うーん、内装だけでもやってみようかな。でもなー、どうイジればいいか分からないんだよね」
「じゃあ、カスタム系の雑誌でも買ってみたら?独学でやるよりはマシだと思うけど」
「そうだね、今度本屋に行ってみるよ。しかし凄いねー、350万の車を無理の無い範囲って言えるんだから。アタシらじゃ言えない台詞だねー」
「そりゃそうよ、私達とは桁違いに稼いでるもの。あの子と結婚したら、左団扇で暮らせるわ」
「やっぱり朝陽ちゃんと結婚したいなあ。お金抜きにしても在宅で仕事だから、ずっと一緒に居られるのって最高に幸せだもの」
「だからさせないって。アンタの気持ちは分からなくはないけど、私がいる限り、アンタが朝陽と結婚する事はないわ」
「大事なのは朝陽ちゃんの気持ち次第でしょ?よし!朝陽ちゃんに好きになってもらう為に努力しよう!」
「アンタ、ちよちゃん問題忘れてない?それが解決しない限り、努力もなにもないでしょう?」
「そうだね……でも、努力して困る事はないから、やっぱり頑張るよ!」
「はあ……まあ、好きにすればいいわ」
「お待たせしました!」
「おかえりー」
「おかえり。で、何回ローンで買ったの?ちゃんと計画的にしたんでしょうね?」
「ローンなんて組んでないよ、金利が勿体ないじゃん。現金一括で買ったよ」
「「は?」」
「えっと、あの車って凄く高かったよね?それを現金でって……」
「ちょっと待って。アンタ、オプションもつけたのよね?」
「うん、つけたよ」
「つまり、更に高額に……それを現金で……あわわわ…」
「はあ……まあ、今回は必要なものだから仕方ないけど、ちょっとは節約ってものをおぼえなさいよね」
「分かってるよ」
「それで、納車はいつごろなの?」
「三ヶ月後だって」
「あら、結構早いのね。色は?」
「そりゃもちろん、黒だよ」
「やっぱりね。アンタの好きな色、黒だもんね。予想通りだわ」
「予想通りってなんだよ。黒い乗り物ってカッコいいじゃん」
「はいはい、カッコいいカッコいい。そろそろ帰るわよ。ほら、夕優、ぼーっとしてないで、さっさと帰るわよ」
「え、あ、は、う、うん。じゃあ帰ろうか」
………
……
…
「あれ、お姉ちゃんの車がある」
家に着くと夕空の車があった。
「あ、みんなお帰りなさい」
「どうしてお姉ちゃんがいるの?」
「まーちゃんにね、用があってきたの」
「来るなら電話くれたらいいのに」
「さっき来たばかりだから、電話するまでもないかなって」
「そっか。じゃあ、朝陽」
「ん?」
「夕空と出かけて来るから。今日は帰るの遅くなるだろうから、先に晩御飯食べていいからね」
「了解」
「あー君、またね」
「はい、姉ちゃんの事、よろしくお願いします」
「ふふふ、了解です。じゃあ、行って来るね」
「二人きりになっちゃったね」
「そうですね。何か寂しいですね」
「今から何をしようか?」
「夕優姉は帰らなくていいんですか?」
「明日からまた仕事だし早めに帰るけど、もうちょっと遊んで帰ろうかな」
「それじゃあ、とりあえず昼食にしましょうか。何かリクエストはありますか?」
「うーん、せっかくだし、昼は外食にしない?うどんが食べたい気分なんだ」
「いいですよ。それなら、俺のバイクで行きましょうか」
「本当⁉︎やったー!また乗りたかったんだよね!」
「そんなに乗りたかったんですか?」
「うん!乗りたくて乗りたくて、免許とるか迷ってるくらい気に入ったの!」
「そうなんですか。じゃあ、免許とったら一緒にツーリングに行きましょう」
「本当に⁉︎じゃあ、頑張って免許とるよ!あ、でもバイクってどれくらいするんだろう?あんまり貯金ないから、安くていいバイクってあるかな?」
「うーん。だったら、俺が所持してるバイクを譲りますよ」
「え⁉︎うーん……それは嬉しいんだけど、何か申し訳ないないなあ……」
「遠慮しないでください。どうせあんまり乗ってないので、夕優姉が乗ってくれたらバイクも喜ぶと思います」
「……本当にいいの?」
「はい、遠慮せず受け取ってください」
「ありがとう、大事に乗るね!」
「じゃあ、夕優姉が免許とったら、陸送で取り寄せるので楽しみにしててください」
「うん、帰ったら早速いつから教習所通うか決めなくちゃ!」
「ははは、一緒にツーリングできる日を楽しみにしてますね」
「うん!すぐに行けるように頑張る!」
「そのいきで頑張りましょう。それじゃあ、そろそろ食べに行きましょうか」
「そうだね、お腹ぺこぺこだから早く行こうー」
「了解です。しっかり掴まっててくださいね」
「はーい!それじゃあ、レッツゴー!」
………
……
…
「はー、美味しかったねー!」
「本当に美味しかったです。またいい店を知れました、ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそ奢ってくれてありがとね」
「車選び手伝ってもらったお礼ですよ。一休してから帰りましょうか」
「そうだねー。ところで朝陽ちゃん、ずっと気になってたんだけど」
「何ですか?」
「コンタクトしてないけど大丈夫なの?」
「え⁉︎マジですか⁉︎」
俺は慌ててバイクのミラーで確認した。
「本当だ……」
「こうやって改めて見ると、凄く綺麗な色だよね。アタシ、朝陽ちゃんの目、大好きなんだ」
「ありがとうございます……。ふう……でも、いい機会かもしれません」
「いい機会?」
「ずっと考えてたんです。いつまでもトラウマから逃げてるわけにはいかないって。それに、夕優姉みたいにこの眼を好きって言ってくれる人も少数ですがいますしね」
「本当にいいの?辛くならない?」
「多分大丈夫ですよ。夕優姉達もいるし、何より俺にはちよちゃんがいますから。この眼は彼女との絆なんです」
「……そっか、朝陽ちゃんは本当にちよちゃんが大好きなんだね」
「はい、この世界で一番大好きです」
「じゃあ、アタシは何番目?」
「夕優姉は二番目ですね」
「本当⁉︎やったー!じゃあさじゃあさ、真昼やお姉ちゃんは何番目なの?」
「同率二位ですね。三人とも、俺にとって大切な存在ですから」
「なんだあ……アタシだけじゃないのか……」
「だって、優劣なんてつけられないですよ」
「うーん……真昼と同じってのが嫌だけど……まあ、今は二位でいいや」
「姉ちゃんと夕優姉って、どうしてそんなに仲が悪いんですか?」
ふと気になって聞いてみた。
「え?別に仲が悪いわけじゃないよ?」
「じゃあ、何でいつも喧嘩するんですか?」
「あー、あれはね……」
「あれは?」
「秘密!ほら、そろそろ帰ろう!」
「秘密って、教えてくださいよ」
「駄目駄目、絶対に教えなーい」
「気になる……」
「ほらほら、さっさと帰ろうよ!」
「……分かりました、帰りましょう」
………
……
…
「あー楽しかった!じゃあ、そろそろ帰るね。また遊びに来るねー」
「はい、待ってますね」
夕優姉が帰り、一人になった途端、少し寂しくなった。
賑やかな時間が長かったから、その反動かもしれない。
特にする事もないのでぼーっとしていると、携帯が鳴り始めた。
画面を見ると、相手は姉ちゃんだった。
「もしもし」
「あ、朝陽、あのね今日は夕空の家に泊まる事にしたから、晩御飯いらないから」
「え、帰ってこないの?」
「何?お姉様が居ないと寂しい?」
「い、いや、寂しくはないよ。ただ、静かだなーって思っただけ」
「素直じゃないなー。まあ、明日朝一で帰るから待っててね。じゃあねー」
それだけ言って、電話は切れた。
そっか、今日は一人なのか。
やっぱり少し寂しいなあ。
はあ、早く風呂に入ってご飯食べてゆっくりしよう。
………
……
…
うーん……。
今から何をしよう……。
飯も風呂も済ませたら何もする事がなくなった。
今日は編集も配信もないから本当に暇だ。
うーん……。
縁側で少し涼もうかな。
縁側に出て行くと、紙を結んだ枝が落ちていた。
これは……確か、結び文ってやつか?
何でこんな古風な物がここに?
というか、いつからここにあったんだ?
一体誰の仕業だろう?
……………。
気になるし読んでみるか。
文を広げてみると、そこにはこう書いてあった、
『待ってるよ』
と。
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