第十五話 昔のように


「どうだった?美味しかった?」


 食器を片付けながら、夕優姉が聞いてきた。


「凄く美味しかったですよ」


「よかったー!えへへ、朝陽ちゃんに褒めてもらえて嬉しいな」


「アンタにしては、まあまあだっだわ」


「はいはい、アンタには聞いてないから」


 姉ちゃんの皮肉を華麗にスルーして、食器を持ってキッチンへと消えていった。


「ねえ、朝陽」


「ん?」


「ご飯も食べたし、さっきの続きしようよ」


「いいけど、夕優姉が戻ってきてからね」


「えー、アイツ待つのー?」


「そりゃそうだろう。一人だけ仲間外れに出来ないよ」


「朝陽はアイツに甘いなー」


「なになに?何が甘いの?」


「何でもないわよ。さあ、さっきの続きやるからアンタも準備しなさい」


「はーい」


 ………

 ……

 …


「あー!また負けた!」


「駄目だ……全然勝てない……」


「二人とも弱いなー。これじゃあ、練習相手にもならないですよ」


「へえ……弟のくせに煽るじゃない……こうなったら意地でも勝ってやる……!」


 いつもの仕返しで煽ると、夜叉の如き顔で睨んできた。


「なんかこうやってると、子供の頃を思い出すねー」


「子供の頃を?」


「昔はさ、よくこうやってお泊まりして、怒られるまでゲームして、みんなで一緒に寝たじゃない?だから懐かしいなーって」


「怒られてたのは殆どアンタだったけどね」


「真昼だってよく怒られてたじゃん!怒られて無かったのは、お姉ちゃんと朝陽ちゃんだけだよ」


「朝陽や夕空はアンタみたいなアホな事しないからね」


「アンタの間違いじゃないのかな?」


「ストップ!喧嘩は駄目!」


 再び喧嘩を始めようとした二人の間に割って入った。


「別に喧嘩じゃないしー。でもまあ、朝陽に免じて勘弁してあげる」


「朝陽ちゃんがそう言うなら、大人しくするよ」


「ほら、二人ともお風呂入ってきて下さい。その間に布団の用意しますから」


「えー、朝陽ちゃんも一緒に入ろうよー」


「駄目です。女性と一緒にお風呂とか、絶対に駄目です」


「ブーブー、いいじゃんかよー」


「じゃあさ、私と入ろうよ!姉弟なら問題ないでしょ?」


「大ありだよ。姉ちゃんも女性だろ」


「ケチねえ、昔は一緒に入ってたのに」


「子供の頃の話でしょ。はいはい、二人とも早くお風呂に行って下さいね」


「「はーい」」


 全く……。


 隙あらば喧嘩しようとする……。


 似た者同士というかなんというか……。


 はぁ……本当に疲れる……。


 _______________


「真昼と一緒にお風呂なんて、何年振りだろう?」


「子供の頃の話だから、10年以上前ね」


「あの頃は楽しかったよねー。何をしても凄く楽しくて、時間が経つのが早かったねー」


「そうね、アンタと夕空と朝陽、四人で遊ぶ時間が一番好きだったわ」


「だねー。でもさ、朝陽ちゃんが一緒に遊んでくれなくなって、凄く寂しかったよね」


「ああ、ちよちゃんと出逢ってからね……」


「真昼、アンタはちよちゃんの事、どう思ってるの?」


「どうって……そりゃあ、朝陽があそこまで言うんだから信じてあげたいけど……実際会った事がない存在を信じろっていう方が無茶だよね……」


「アタシも同意見。でも、いたらいたでアタシのチャンスが無くなるから複雑……」


「アンタにチャンスは無いわよ。私が阻止するもの」


「相変わらずブラコンだねー。いい加減にしないと、朝陽ちゃんに嫌われるよ?」


「ブラコンなのは認めるよ。でもさ、あんなに可愛い弟がいて、ブラコンにならない方が可笑しく無い?」


「まあ、分からなくも無いけど……それでも、ちょっとは自重した方がいいと思うよ」


「自重ねえ……それは無理かな。だって、この間なんかキスされたんだよ?そんな事されて、自重なんて無理無理」


「キス⁉︎なにそれ、初耳なんだけど⁉︎」


「あれは嬉しかったなあ……。ドキドキしすぎて、しばらく動けなかったもん」


「ズルい!私もしてもらう!」


「アンタは無理だね。姉弟の特権だもの」


「ぐぬぬぬ……羨ましい……」


「ふふふ、朝陽だってシスコンなんだから、私達の間に他人が入る隙はないのよ」


「悔しい……あーもう!先に上がるからね!」


「あ、私も上がるわ」


 __________


「はーいいお湯だった!」


「アンタもさっさと入ってきなよ」


「おかえりなさい。じゃあ俺も入ってくるよ」


「朝陽ちゃん、お布団二つしかないけど?」


「ああ、来客の予定がなかったので、布団は二つだけなんですよ。だから二人で使って下さい。俺はソファー寝ますから」


「なんか申し訳ないなー……。じゃあさ、布団くっつけて三人川の字になって寝ようよ」


「それいいわね!私も賛成よ!l


 この人達は何を言ってるんだろう。


 猛獣の檻に、餌を持って入るようなものだぞ?


 そんな危険を犯したくないぞ。


「駄目駄目、もういい歳なんだから、それはありえないよ」


「却下。アンタに拒否権は無いから」


 はい、出ました理不尽大王。


 この人の中では、俺には人権が無いのだろう。


 逆らうだけ無駄か……。


「わかったわかりました。川の字いいですよ。とりあえずお風呂行って来ますから、その間に準備して置いて下さい」


「わかった!ちゃんと準備しておくね!」


 ………

 ……

 …


「ただいま」


「おかえりー、ちゃんと準備しておいたよー」


「ありがとうございます。じゃあ、もう遅い時間ですから、さっさと寝ましょう」


「そうね。じゃあ、誰がどこで寝るか決めましょう」


「はいはーい!アタシ、左の布団がいい!」


「じゃあ私は右の布団で。真ん中は朝陽に譲るわ」


 真ん中か……そりゃあ昔はそうだったけど……。


 もう大人なんだから、勘弁して欲しい。


「昔はよくみんなで寝たよねー。朝陽ちゃんが真ん中で、アタシ達が交代で横に寝て、眠くなるまでお話ししてさ。それで、いつも朝陽ちゃんが一番最初に寝ちゃってたよね


「そうでしたね。誰が隣で寝るんだーって、ジャンケンしてましたよね」


「ふふふ、そんな事もあったわね。いつも夕空が勝つから、私達で二位争いをしたわね」


「本当に懐かしいよねー。ねえねえ、昔みたいに手を繋いで寝る?」


「恥ずかしいから嫌です」


「却下。良いじゃん、手を繋いくらい」


「分かったよ……じゃあ、おやすみなさい」


「うん、おやすみなさーい」


「おやすみ」


 二人と手を繋いで、俺は静かに眠りについた。

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