第十四話 賑やかな時間


「はぁはぁ……いい加減負けを認めなさいよ……」


「アンタこそ認めなさい……」


 かれこれ一時間経つが、未だに不毛な言い争いは続いている。


「二人とも、もう止めなよ。時間の無駄だって」


「「アンタは黙ってて‼︎」」


 ちょっとでも口を挟むとこれである。


 全く聞く耳を持たない二人に、俺は完全にお手上げ状態だ。


 ………

 ……

 …


「いいわ……今日は引き分けにしてあげる……」


「そうだね……引き分けでいいよ……」


 あれからさらに一時間経った頃、不毛な争いは引き分けという形で決着した。


「はあ、疲れた……朝陽、お茶……」


「朝陽ちゃん、アタシにもお願い……」


「……りょーかいでーす」


 さも当たり前の様に命令を下す理不尽大王。


 逆らうのも面倒なので、大人しく従うけどさ。


「はーい、お茶ですよー」


「ありがとー、朝陽ちゃん!」


「プハー!冷たくて美味しいわー!」


 お礼を言ってくれる夕優姉と、一ミリも感謝してない理不尽大王。


 本当にこの姉は俺を下僕だと思ってるんじゃなかろうか。


「そういえば、夕優。今日は夕空は一緒じゃないの?」


「ん?お姉ちゃん?お姉ちゃんなら、今日は用事があるって言ってたから、多分来ないと思うよ」


「そっか……」


「お姉ちゃんに用があったの?」


「あ、うん。ちょっとね」


「お姉ちゃんに電話しようか?」


「ううん、大丈夫。今日じゃなくてもいいから」


「そっか。ならいいけど」


 こうやって普通に会話できるのに、何で事あるごとに言い争いをするんだろう?


「ねえ、朝陽ちゃん」


「はい」


「そろそろゲームして遊ぼ!」


「そうですね、一緒に遊びましょうか」


「あ、私も私もー」


 ………

 ……

 …


「あー、また負けた!」


「ちょっとは手加減しなさいよ!」


「ははは、これだけは誰にも負けないからね」


「うー、悔しい……」


「もう疲れた……ところで夕優、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」


「そうだね、だいぶ暗くなってきてるし、そろそろ帰ろうかな。真昼、アンタは何処に泊まるの?なんなら家に泊まりに来てもいいけど?」


「私?私はここに泊まるわよ」


「は?何でアンタが泊まるのよ?ここは朝陽ちゃんの部屋だよ?」


「姉が弟の部屋に泊まって何か問題がある?」


「くっ……じゃあ、アタシも泊まる!」


 はあ⁉︎


 この人、今とんでもない事言ったぞ⁉︎


「ちょっと待ちなさいよ!何でアンタも泊まるのよ!」


「だって、アンタが朝陽ちゃんに何するか分からないし……だからアタシも泊まるの!いいよね、朝陽ちゃん!」


「いや、それは流石に……」


「お願い!何もしないし、ご飯も作るから!お願いします!」


 困ったな……。


 ………。


 仕方ない……。


「分かりました、本当に何もしないなら許可しますよ」


「やったー!朝陽ちゃん、ありがとー!」


「ちょっと⁉︎本気なの⁉︎」


「本気だよ。何もしないって言ってるし問題ないよ」


「はあ……まあ、朝陽がいいならいいけどさ……」


「やった、やった!朝陽ちゃんとお泊まりだー!」


「お泊まりなら、前に叔父さん家でしたじゃないですか」


「あの時は別の部屋だったでしょう?今日は同じ部屋じゃん、それが凄く嬉しいんだよ!」


「夕優は大袈裟なのよ。そんなにテンション上げてたら、疲れちゃうわよ?」


「アタシの気持ちなんて、真昼には分からないんだよ!ああ、凄く幸せ……」


「完全に自分の世界に入ってる……もういいや。それより朝陽、お腹が空いたからご飯作ってよ」


 この人、少しは自分で動く気はないのか?


「分かったよ、メニューは勝手に決めるからね?」


「あ、朝陽ちゃん。アタシがご飯作るから、座って待ってて」


「いいんですか?」


「いいのいいの!よーし!張り切って美味しい物作るぞー!」


 鼻歌まじりに調理をする夕優姉の後ろ姿を、俺は静かに眺めていた。

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