第十三話 真昼襲来
こっちに来てから、一ヶ月が経った。
離れの改造、祖父の見舞いに叔父夫婦への挨拶。
最初の一週間はばたばたしたけど、最近では大分安定した生活が出来ている。
そんな新生活に慣れてきた昨日、姉から連絡がきた。
「もしもし」
『朝陽ー、元気にしてるー?』
「うん、元気にしてるよ」
『そっかそっか。安心したよ』
「ところで、何か用?」
『えっとね〜、なんと、明日そっちに行きまーす!』
「……は?ごめん……もう一度言ってもらえる?」
『だーかーらー、明日、そっちに行くって言ったの』
「……何で?」
『あら、姉が最愛の弟に会いに行くのに理由が必要?』
「必要ないけどさ……」
『でしょー?それで頼みがあるんだけど』
「頼み?」
『そっちにいる間、あんたの部屋に泊めてね』
「……へ?」
『いいでしょ?』
「いや……あの……」
『いいでしょ?いいよね?いいって言いなさいよ!』
「いいです……」
『ふふふ、それでいいのよ。ちゃんと掃除しといてよー』
「イエスマム……」
『よろしい。じゃあ、明日よろしくねー』
………
こんな感じでいつもの理不尽が炸裂した。
というわけで俺は部屋の掃除をしている。
まあ掃除といっても、普段から綺麗にしてるから、あまりする事は無いんだけど。
おっと、そろそろ理不尽大王が来る時間か。
……お茶の用意でもしておくか。
………
……
…
「あーさーひー!会いたかったよー!」
俺の姿を見るや否や、姉が全力で抱きついてきた。
「ちょ、痛い!痛いって!」
「会いたかったよー!寂しかったよー!」
「だから痛いんだって!とりあえず離れて!」
「ブーブー、ちょっとくらいいいじゃんかよー……」
俺の苦情を聞き入れて、渋々離れてくれた。
「全くもう……相変わらずだな……」
「何よー。つい、愛が溢れただけじゃない」
「その愛が重すぎるんだよ……」
「そりゃあ、最愛の弟だもの。多少重いのは当然よ」
「さいですか……」
「それはそれとして、なかなか綺麗な部屋じゃない」
「まあね、頑張って改造したからね」
「これ、お爺ちゃんが見たら気絶するんじゃない?ここだけ別空間だもの」
「一応許可はとってあるから、大丈夫だと思うよ?」
「許可とってるならいいけどさ……あんまりお爺ちゃんを驚かせるような事しちゃ駄目だからね?」
「分かってるって」
「まあいいや。ところで朝陽、明日時間あるよね?」
「撮影は終わってるから余裕はあるけど、どうしたの?」
「アンタ、前に車買うって言ってたでしょ?だから、私が一緒に選んであげようと思ってね」
「それ凄く助かるよ!どうしようか決まらなくて、未だにディーラーに行けてないんだよ」
「アンタ、優柔不断なとこあるからそうだと思ったよ」
「さすが姉ちゃん、弟の事よくわかってるじゃん」
「当たり前でしょ!アンタの事で私に分からない事なんて、一つもないわよ」
………
……
…
「あーさーひちゃん、遊ぼー!」
そんな会話をしていると、夕優姉が遊びに来た。
「夕優、久しぶりね」
「あれれー、何で真昼がいるのー?」
「あら、姉と弟が一緒にいるのがおかしい?」
「別におかしくはないけどー、ただ朝陽ちゃんと遊ぶのに邪魔だなーって思って」
「じゃあ帰ればいいじゃない」
「いやいや、アンタが帰ればいいじゃん」
二人の間には火花が散っている様に見えた。
「まあまあ、姉ちゃんも夕優姉も落ち着いて」
「夕優姉……?」
しまった、火に油だ。
「ねえ、朝陽。夕優姉って何?」
「いいでしょー!朝陽ちゃんに呼び方変えてもらったの!アンタは一生姉ちゃんとしか呼ばれないもんねー、羨ましいでしょー?」
「へえ、そうなんだ……朝陽、私も呼び方変えてくれないかな……?」
「それは無理だよ、姉ちゃんは姉ちゃんでしょ」
「いいから変えてよ……コイツに負けたみたいで嫌なんだよ……」
「勝ち負けじゃないんだけどな……分かったよ、何か考えとくよ」
「ありがとー!愛してるー!」
そう言いながら、抱き締めて頬にキスしてきた。
「あ、ズルーイ!アタシもしたいー!」
「駄目ー!これは姉の特権なの、他人は黙って見てなさい」
「ぐぬぬぬ、悔しい……」
不毛な争いを続ける二人を、俺は溜め息を吐きながら見守る事しか出来なかった。
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