第十二話 一人の夜


「着きましたよ」


 エンジンを止め、俺は夕優姉にそう言った。


「ありがとー!凄く楽しかったよ!あたしもバイク欲しくなっちゃった!」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


「あー君、送ってくれてありがとうね。お茶出すから、どうぞ上がって」


 車から降りてきた夕空にそう誘われた。


「いえ、今日はこれで帰ります。叔父さん達には後日改めて挨拶に来ます」


「えー、大分暗くなってきてるし、今日も泊まっていけばいいじゃん!ねっ?いいでしょう?」


「流石に連泊は気が引けるので、今日は遠慮します。それに、帰ってやりたい事もありますから」


「そっか。残念だけど、それなら仕方ないね。あー君、気をつけて帰るんだよ?」


「はい。ちゃんと安全運転で帰ります」


「ちぇー……朝陽ちゃんとまた遊べると思ったのに……」


「また遊びに来ますよ。遊びに来てくれても良いですよ」


「本当に⁉︎じゃあ今から行くー!」


「ゆーちゃん、馬鹿な事言わないの。あー君、やる事あるって言ったでしょう?」


 夕空が夕優姉の頬を摘んで左右に引っ張った。


「ほ姉ひゃん、いふぁいいふぁい!」


「全くもう……ごめんねあー君、ゆーちゃんが我が儘言っちゃって」


「ごめんなひゃい……もう言いまひぇん……」


「それくらい大丈夫ですよ。夕空姉さ……ごほん。夕空もいつでも遊びに来てください」


「ええ、近いうちに行かせてもらうわね」


「じゃあ、帰りますね。今日も色々とありがとうございました」


「気にしないで。私達がやりたいからやっただけ。気をつけて帰ってね」


「朝陽ちゃん、またね!いっぱいいっぱい遊びに行くからね!」


「はい、それでは」


 俺は夕空達に別れを告げ、祖父宅へと向かってアクセルを捻った。


 ………


 ……


 …


 祖父宅へ戻ると、辺りは完全に暗くなっており、明かりなしでは何も見えない状態だった。


 完全にお化け屋敷じゃねえか……。


 ここで一人暮らしとか無理ゲーだろ……。


 こんな事なら叔父宅でもう1日お世話になれば良かった……。


 いや駄目だ。


 弱気になるな。


 幽霊なんて居るはずがない。


 よし!


 気合いを入れて離れに行こう。


 じゃ、じゃっと玉砂利を踏み鳴らしながら歩いて行くと、目的地の離れへと到着した。


 急いで電気をつけてスマホで音楽を流して気を落ち着けさせる。


 ようやく気分が落ち着いてきた頃、俺はある事に気が付いた。


 ここの風呂、離れからめちゃくちゃ遠いじゃん……。


 行きたくねえ……。


 でも行くしかないからな……。


 仕方ない……ダッシュで行こう……。


 俺は懐中電灯を握りしめ、早歩きで風呂に向かい、水風呂のまま烏の行水の如きスピードで風呂を終え、また猛スピードで離れへと戻った。


 はあ………はあ……。


 怖かった……。


 次からは、もっと明るい時間に入ろう……。


 それはそれとして、改めて見回すと、この離れかなり広い。


 買った家具家電を入れても、2、3人で暮らせるくらいの広さがある。


 ちよちゃんと再会したら、ここで同棲なんかしたりして……。


 …………。


 いかんいかん。


 変な妄想をするんじゃない。


 俺は紳士だ。


 決して欲望に飲まれる愚か者ではない。


 俺は煩悩を祓う為に頬にビンタをかました。


 ………

 ……

 …


 頬の痛みが治る頃、俺は冷静さを取り戻し考え事をしていた。


 再会か……。


 どうすれば再会できるんだろう。


 何年後とか何月何日とか決めてない。


 唯一可能性があるのは、ちよちゃんのずっとここで、すなわち隠神神社で待っているって言葉。


 でも、それだって毎日ってわけじゃないだろうし……。


『全然会いにこないアンタの事なんて、もう待ってないんじゃないかな』


 昨日の真昼の言葉が頭をもたげる。


 しかし、朝陽は被りを振って否定する。


 ちよちゃんが待っててくれるって言ったんだ。


 だから、俺はちよちゃんを信じる。


 俺は改めてそう決心して、眠りについた。

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