第十一話 片付けと愛車


 窓から差し込む陽光と、小鳥の囀りで目が覚めた。


 手早く身支度を整えているとドアがノックされた。


「あー君、朝だよ、起きてる?」


「はい、起きてます」


「朝ご飯出来てるから、下りて来てね」


「わかりました」


 一階に下りると半分寝ている夕優姉がテーブルに突っ伏していた。


「大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫……ちょっと寝つけなくって……」


「ゆーちゃんたらね、まーちゃんと夜中までメールしてて寝不足なの」


「姉ちゃんと?」


「そう……色々と問いただしてたら遅くなっちゃって……」


「色々って何をですか?」


「それは秘密……」


「ほら、ゆーちゃん。ちゃんと起きてご飯食べるよ」


「はーい……」


 ………

 ……

 …


「あー君、どうだった?美味しかったかな?」


「もう最高でした。毎日食べたいくらいです」


「そ、そっか。毎日ね……ふふ、嬉しいな」


 夕空は嬉しいそうに微笑んだ。


「朝陽ちゃん、今日のご予定はー?」


 すっかり目の覚めた夕優姉が聞いてきた。


「今日は基本的には爺ちゃん家の片付けで、夕方にバイクを取りに行く予定です」


「バイク?」


「ええ、愛車を東京から送ってもらったんで取りに行くんです」


「へえー、意外。朝陽ちゃん、バイクとか興味ないと思ってた」


「はは、留学してた時にハマりまして。今では一番お金のかかる趣味になりましたよ」


「そうなんだー。ねえ、今度、後ろに乗せてくれない?」


「良いですよ。東京でも、たまに姉ちゃん乗せてましたし」


「じゃあ、私も乗せてもらおうかな。いい、あー君?」


「もちろん。バイクの良さを布教しますよ」


「ふふ、それは楽しみね」


「さてと、ご飯も食べたし、そろそろお爺ちゃん家行こうか。あそこ結構時間かかるしね」


「そうだね、すぐに準備するね」


「俺も急いで準備します」


 俺達は急いで準備をして車に乗り込んだ。


「今日はお姉ちゃんが運転でいいの?あたしやるよ?」


「いいのいいの。いつもゆーちゃんに頼りきりだし、たまには私が運転するよ」


「そっか、お姉ちゃんありがとう」


「じゃあ、出発するね」


 ………

 ……

 …


 1時間程かけて、俺達は祖父宅へと到着した。


 正直来たくはなかった。


 だってさ、完全に幽霊屋敷なんだぜ?


 こんな所に住むなんて正気の沙汰じゃない。


 だから、自分でここに住むって言った俺は狂人って事だ。


「ここは相変わらずだね」


「そうだね、凄く歴史を感じるよ」


 その歴史を感じたくないんだよなあ。


「あー君、何処から片付ければいい?」


「あ、離れから片付けします」


「離れから?何で?」


「俺、離れに住むんで。流石に本宅は広すぎますし」


 離れなら本宅より幾分かマシだからな。


「そうなんだ。じゃあ、離れに行こうか」


「りょうかーい。がんばるぞー!」


「よろしくお願いします」


 俺達は離れに向かい、早速片付けを始めた。


 ………


 ……


 …


 昼食もとらずに集中して作業していると、いつの間にか夕方になっていた。


「もう夕方か、早いねー」


「そうね、集中してたもんね。時間が分からなかったよ」


「お二人とも、ありがとうございます。お陰様で、あとは家具家電を設置するだけで住める状態になりました。本当にありがとうございます」


「いいっていいって。朝陽ちゃんの役に立てたならあたしも嬉しいし。ねえ、お姉ちゃん?」


「そうだね、あー君の役に立てて私も嬉しいよ。あ、そろそろバイクを受け取りに行く時間じゃない?」


「あ、そうですね。申し訳ないのですが、連れて行ってもらえますか?」


「いいよ。じゃあ早速行こうか」


 俺達はバイクが届いてるテポに向かって出発した。


 ………

 ……

 …


「これがあー君のバイク……」


「なんかこう……凄くごついね……」


 2人が引いているのも仕方ない。


 俺のバイクは特別製だからな。


 クルーザータイプの逆輸入車で排気量1832cc、OHC水冷水平対向6気筒エンジン。


 各部をメッキパーツでカスタムをして、シートとマフラーもワンオフの逸品。


 かなりの金を注ぎ込んだ、俺の理想のバイクだ。


「どうですか、最高でしょう?」


「うん……最高だね……」


「凄くカッコいいよ……」


「どうですか?メットも2個あるんで、どちらか後ろに乗りますか?」


「どうしようかな……ゆーちゃん乗ってみる?」


「うん!あたし乗ってみたい!」


「了解です。じゃあエンジン掛けますね」


 俺がエンジンをかけると、お腹に響く低音のエキゾーストノート鳴り響く。


 その音でまた2人が引いていたが気にしないでおこう。


「目的地は叔父さん家でいいですか?もう暗くなってきてますし」


「そうだね、お願いするよ」


「バイクに乗るの初めてだから緊張するなあ」


「安全運転で走るので、安心してください」


「大丈夫、朝陽ちゃんを信じてるから!」


「じゃあ行きますか」


 ギアを入れ、俺は叔父宅を目指して走り出した。

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