第五話 従姉妹 前編


『朝陽は将来なになりたい?』


「んーとね……わかんない」


『ははは、朝陽らしいね』


「ちよちゃんはなにになりたいの?」


『私?私はお嫁さん!好きな人のお嫁さんになるのが夢なんだ!』


「ちよちゃんはすきなひとがいるの?」


『いるよ。とーっても大好きな人がね』


「だれだれー?」


『朝陽には秘密!』


「えー!なんでー!」


『ははは、それもひ、み、つ』


「えー……」


『いつか朝陽にも教えてあげるから、それまで待ってて』


「わかった……」


『朝陽は誰か好きな人いるの?』


「えっと、おねえちゃんたちとおじいちゃんと、あとちよちゃん!」


『……その好きじゃないんだけどな。朝陽にはまだ早かったかな』


「?」


『何でも無いよ!さあ、あそ____』



「おーい、起きてー」


「ん…んん……」


 誰かに身体を揺すられて、目を開けると強い光で目が眩んだ。


 どうやら完全に寝入っていたようだ。


 さっきのは夢か……。


 懐かしい記憶だったな。


「あ、起きた?迎えに来たらロビーで熟睡してたからびっくりしたよ」


「え……あ、はい。って、夕優姉さん?」


「そうだよ、君の愛しの夕優だよ」


 こんなセリフを恥ずかしげも無く言うこの人は、従姉妹の刑部夕優ぎょうぶゆう

 姉ちゃんと同じくらい美人で性格も良く似ている。

 違いは姉ちゃんより頭は良く無いけど、ナイスバディ。


「何で夕優姉さんがここに?」


「ママが用ができて来れなくなったから、あたし達が代わりに朝陽ちゃんを迎えに来たんだよ」


「とりあえずお姉ちゃんに連絡しないと。ちょっと待っててね……もしもしお姉ちゃん………………」


 ………

 ……

 …


「あ、おーいこっちこっち」


「あー君、ここにいたんだね」


「お久しぶりです、夕空姉さん」


「うん、お久しぶりだね」


 この人は刑部夕空ぎょうぶあかね

 夕優姉さんの双子の姉でスレンダー美人。

 物腰が柔らかく、とても癒される人だ。


「お姉ちゃん聞いてよ。朝陽ちゃんたらね、ここで爆睡してたの。びっくりしたよ」


「あらあら、きっと疲れてたんだね」


「しかも、寝言でちよちゃんちよちゃんって言ってるの。まったく、あたしというものがありながら……」


「え、マジですか?」


「マジもマジ、大マジよ。ニヤニヤしながらちよちゃんちよちゃんって。正直引いたよ」


 そこまで言うかね……。

 しかも引くって……。

 傷つくよ……。


「まあまあ、それだけちよちゃんが好きなんだよ。ねえ、あー君?」


「はい、好きです」


 夕空姉さんの問いにはっきりと答えた。

 ちよちゃんを好きな気持ちは変わらない。


「ね、だから引いたとか言っちゃ駄目だよ」


「わかったよ……ごめんね、朝陽ちゃん」


「いえ、気にしてませんから。姉ちゃんから何倍も酷い言葉を言われて馴れてるんで」


 本当はちょっと傷ついてるんだけど、姉ちゃんからのダメージに比べれば全然痛く無いさ。


「アイツのブラコンは相変わらずか。まったく……朝陽ちゃんはあたしの旦那様だっていうのに……」


「いや、夕優姉さんの旦那になる予定はないです」


 この人もよく言うけど、俺はちよちゃん以外と結婚する気はないんだよ。

 しかも、この人は結婚できる親等だからリアルなんだよ。


「ふふふ、フラれちゃったね、ゆーちゃん」


「いや、あたしは諦め無い!希望はまだあるはず!」


「無いです」


「……0じゃないよね」


「0です」


「………………」


 厳しい言い方だと思うかもしれないけどこれでいいんだ。

 だって……。


「まあまあ、そう落ち込まないで」


「……そうだね!これからも努力して、チャンスを作ればいいんだ!」


 ね?

 こういう人なんだよ。

 絶対に諦め無いの。

 そこだけはマジで尊敬するよ。


「さてと。そろそろ移動しようよ。お腹空いたし、みんなでお昼ご飯にしよう」


「そうだね、行こう行こう」


「ほら、あー君も行こう。美味しいお店に連れて行ってあげるからね」


「はい、楽しみしてます」


 仲良く歩く姉妹の背中を、俺は小走りで追いかけた。

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