第六話 従姉妹 後編


「で、お姉ちゃん。何処のお店に行くの?」


「そうだねー。この前行ったうどん屋さんは?あの天ぷらの美味しかったうどん屋さん。あー君もそれでいいよね?」


 何が美味しいとかわからないから、お任せしよう。


「はい。お任せします」


「じゃあ決定だね。ゆーちゃん、運転お願いね」


「りょーかい!じゃあ、いざしゅっぱーつ!」



 ………


 ……


 …


「いやー、美味しかったねー」


「はい、凄く美味しかったです」


 いや、本当に美味しかった。


 毎日食べたいくらい美味しかった。


「喜んでもらえて良かったよ」


「やっぱりこっちのうどん屋は最高ですね。懐かしい味でした」


「あー君は子供の頃以来だもんね。だからそう感じるのかもね」


「そうだねー。朝陽ちゃん、10年以上帰って来て無いもんね。懐かしいはずだよね」


「そうですね。ご飯以外も、景色とか空気とかも全部懐かしいです」


 本当に懐かしい。


 昔見た景色、昔吸っていた空気。


 帰って来たんだなって、実感させてくれる。


「ふふふ。そのうち、それが当たり前になってくるよ」


「そうだよ。ずっとこっちで暮らすんだから、逆に東京が懐かしくなるんじゃない?」


「いや、ずっとこっちで暮らすかは決めてないですよ?」


「え?」


「え?」


 俺と夕優姉さんはお互いポカンとして見つめあった。


「朝陽ちゃん、ずっとこっちで暮らすために帰って来たんじゃないの?」


「違いますよ。あくまで爺ちゃん家の管理と約束を果たすためです。だから、永住するとかは決めて無いです」


 ちよちゃんと結婚したって、こっちで暮らすかはまだ決めて無い。


「そんなあ……あたしの朝陽ちゃんとラブラブ同棲プランが……」


 そんな事考えてたのかよ……。


「ゆーちゃん、大丈夫だよ!作戦を練り直せばいいんだよ」


 貴女も後押ししないで止めてください……。


「お姉ちゃん、ありがとう……」


「さてと……あー君、次は何処に行きたい?まーちゃんから買い物が沢山あるって聞いてるけど?」


「あ、はい。このメモに書いた物を全部買いたいんで、連れて行ってもらえますか?」


「どれどれ……うわー、沢山あるね。わかった、じゃあ早速行こうか。ゆーちゃん、運転お願いね」


「りょーかい……」


 さっきと違って覇気のない掛け声と共に車が発進した。


 ………


 ……


 …


「朝陽ちゃん、家電とか色々沢山買ってたけど、本当に永住する気ないの?」


「さっきも言いましたけど、今のところそんな予定は無いです」


「永住したらいいのにー。そしたら美味しいご飯、毎日作ってあげるよー?」


「ありがたい申し出ですが、お断りします。今すぐ決める問題じゃないんで」


「いいじゃんいいじゃん!ブーブー!」


「ねえねえ、あー君。今日は何処で寝るの?すぐにお爺ちゃん家で暮らすのは無理だと思うんだけど」


「あ、それは大丈夫です。今日はホテルに泊まる予定なので」


「そうなの?んー、あー君さえよかったらうちに泊まらない?ホテルよりは楽しいし、美味しいご飯も食べさせてあげれるよ?」


「……は?すみません……もう一回言ってもらってもいいですか……」


「え?うちに泊まらないかって言ったんだ____」


「だ、だ、だ」


「だ?」


「駄目ー!絶対に駄目ー!」


「うわ、びっくりした……」


「妙齢の女性の家に男を入れちゃ駄目です!絶対に駄目です!」


「え?私達実家暮らしだから、お父さんもお母さんもいるから大丈夫だよ?」


「え……?」


「朝陽ちゃん、何を想像してたのかな〜?意外とむっつりなんだね〜」


「いや、違っ!」


「気になくていいんだよ〜?朝陽ちゃんになら〜、何をされてもいいんだよ〜?」


「しませんよ!もう……からかわないでください……」


「ははは、冗談冗談。でも、うちに泊まりに来て欲しいのは本当。パパもママも朝陽ちゃんに会いたがってたしね」


「……わかりました。一晩お世話になります」


「やったー!朝陽ちゃんとお泊まりパーティーだー!」


「いやパーティーなんてする気は___」


「それは楽しみね!お菓子沢山買って帰らなきゃ!」


「はぁ……」


 浮かれる夕空姉さんと夕優姉さんのテンションに、俺はただただ深いため息を吐くしかなかった。

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